第百八十九話 それぞれの思惑
こいつに敵対してはならない。この無限の暗闇が広がる異様な場所で出会った人間の少女。そのような矮小な存在、普段であれば気にもかけない、視界に入れることすらしないものだが、その少女にそんな気を抱くことは無かった。魔力がほとんど存在していないこの空間で、まるで大自然そのもののような魔力を内包している。それは異様だというほかない。だが、そのようなことを吐露してみろ。たちまちこの聖派閥内での立場を失うことになる。それは、私自身よりも他者が強者だと認めることになるからだ。その思考に至った私は、普段とは全く異なる態度をとった。なるべく尊大に見えるように、口調、一人称を変え、ドラゴンの王らしいと言えばいいのか、それに見合った態度を取った。私はこういうのは得意ではないのだが、特に違和感を持たれることはなかったらしい。とりあえず、この聖勇戦争とやらが終了するまでは、かりそめの協力関係を築くことは出来そうだ。おそらく彼女、もしくは契約している精霊が私の力を封じている魔道具を持ってい。彼女の近くから私の魔力を感じるからな。いくつにも分けられた私を封じる魔道具の内、一つは必ず持っているだろう。それを手にするためにも、彼女からの信用を得なければならない。
妾がそれに巻き込まれたのは突然だった。直接頭の中に声を送られる不快感。眠り始めてたった十数年ほどしか経っていないというのに、不愉快極まりない。だが、無視するわけにもいかない。なんでもクラスを剥奪される可能性があるというのだ。ヴァンパイアの女王として、最上位クラスを得たことにより、ほぼ唯一の弱点である日光を克服したのだ。クラスを失えば元の、通常のヴァンパイアに戻ることとなってしまう。そうなれば、他のヴァンパイアどもからの突き上げを食らい、妾の立場は失われるだろう。だが、今更この生活を失うわけにはいかない。そうなれば、選択肢は一つ、精霊とやらを捕まえるしかないであろう。幸い、妾にはそれに適したスキルがある。さっさと済ませて、眠りに戻ることとしよう…
だが、ことはそう簡単に済まなかった。世界を維持するためのエネルギーを得るための、言うなれば儀式とも呼べる戦争に巻き込まれることとなってしまった。普段ならそんなもの捨て置くが、敗北すればクラス、スキル、魔力が失われるという。それは、命以外の全てを失うのと同義だ。となれば、残されているのは参加するという選択肢のみ。そもそも妾はクラスを失わないために、この場所を訪れたのだから…
私がこちらの世界に干渉することになるとは全く思っていませんでした。我々悪魔―デーモンが住む世界とこちらの世界は全く別物なのです。向こうの世界からの召喚術や契約を用いなければ我々があちらに行くことすら叶いません。ここ数十年は向こうに行くデーモンも増えているようですが、まさか、私まで向かうこととなるとは…悪魔公のクラスに未練などありませんが、少々面白そうでもあります。何百年か前に向こうに残しておいた魔法陣が機能していれば、移動することは簡単でしょう。まあ、それが無理でも、いくつか手は有ります。今回は早さを競うものらしく、少々手間がかかるのは厄介ですが、何とかなるでしょう。
私が例の場所に到着したのはギリギリだったようです。まあ、魔法陣が機能しなかったので仕方ありません。悪魔公のクラスを失わなかっただけ良しとしましょう。このクラスを失っていたならば、この聖勇戦争という催しに参加することすらできなかったのですから。それに、まさか自らの陣営にデーモンとの契約者が存在しているとは思いませんでした。どうやら中位のデーモンのようですが、ほぼ対等、どちらかと言えばデーモン側ではなく、契約者側が優位な契約内容のようです。デーモンが自らが少しでも不利になる契約を結ぶことはほとんどないですから、面白い事例ですね。この催しの間、少し探ってみましょうか。悪魔と契約した聖女のことを。
全く、あの若造ども。儂を何だと思っておる。老い先短いこの身に、クラスへの執着などあるはずなかろうが。儂のクラスを継承できなければ、エルフの中に最上位クラスは存在しなくなる。そのクラス自体が失われてしまっても同じじゃ。それを避けたい気持ちは分かるが、この老体を酷使することになるとは思わなかったのか。百年以上も前にたまたま接点を持っただけの精霊の話をしていなければ、こんなことに参加せずとも済んだものを…いや、神の声を聞くことが出来るスキル持ちが集落にいた時点で無駄だったかの…じゃが、ここに来た時点で儂の役目は終わりじゃ。最上位クラスの戦争にも、世界が崩壊しようとも儂には関係ない。何せ儂の命は、残り数年あるかないかと言ったところじゃからの。それが少し早まるくらい別に気にならぬ。
我を呼びつけるとはなんと傲慢な。ただの世界の機能ごときが神の名を語るのも不遜だが、クラスを人質に取り、我を動かすなど、あってはならない。だが、クラスを失ってしまえば、天界に戻るという、我の目的を果たすことが出来なくなる。仕方があるまい。精霊の集会場とやらに出向いてやるか。どうせこれから行われるのは戦争だ。我の力をもってすれば、勝利など容易い。戦争により発生する莫大なエネルギーをかすめ取ることが出来れば、天界に戻ることも容易いだろうしな。
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