第百七十八話 情報収集と店舗探し

 パーゼマン商会を出た後、一度拠点に戻りアルトたちと合流。その後ランチタイムとしけこんだ。デザートの蜂蜜パイまで食べ終えたところでアルトたちがレルナー蜜店から持ち帰った情報と、私たちがパーゼマン商会で聞いてきた情報を交換する。二人の話を聞いてみると、この町で商会を起こすなら有用なものだったけど、王都で起こすならあまり役に立たないものだった。


 ブルグミュラーで商会を起こすのは、私たちの場合、王都より簡単だ。領主の許可と店になる場所があればいいらしい。領主の許可はすぐに取れると思う。ブルグミュラー男爵は私たちのファンだって言ってたし、土地も売ってるから、店にできそうな場所を買えばいい。貸店舗を借りるより初期投資は高くつきそうだけど、その分、使いやすくできるかもしれない。でも、王都に起こすよりは客足が期待できない。逆に王都は開店できる場所が限られている。そこら中お店だらけで、空いている貸店舗なんて見たことがない。城壁で囲まれた都だから、新しく開拓するのも無理だ。貴族エリアになら空いている場所があるかもしれないけど、それだと、顧客が貴族だけになってしまう。うーん。とりあえず、空いている店舗があるかを探してみるしかないかな。そもそも、向こうの世界でいう、不動産業みたいな人がいるのかな。土地斡旋業者とはまた違うだろうし…どうやって借りるのかも聞いておけばよかった。…いや、教えてくれなかったってことは、そんな業者はいないんだろう。利に目ざといあの店主に限って、そんなわざと情報を秘匿するなんていう、今後の関係に響きそうなことはしないはずだ。となると、建物のオーナと直接交渉するしかないわけだね。


 「とりあえずは、王都内で貸店舗を探す方向でいこう」


向こうで言う、企業を買収するみたいなことがどこかの商会でできたら楽なんだけど、株式会社でもないこっちの商会に対しては難しいかな。できるとしたら、そうだなあ…例えば、借金まみれの商会とかの借金を代わりに返済して、商会の権利を貰うとかね。そこの従業員はそのまま使えばいい。まあ、そんな都合よく見つかるとも思えないけどね。


「まあ、そうなるわよね。この町で商会を開いても、王都に比べて客足が乏しいだろうし」

「ブルグミュラーは王都からそこまで距離があるわけじゃないから、人が少ないわけじゃないけど、ここで物語を扱う店を作っても売れないだろうね。ブルグミュラーに来る人達は、総じて、名物の甘味を買いに来るわけだし。料理のレシピはもしかしたら売れるかもしれないけど、メインは物語だからなあ…」

「王都に本屋さんはあるけど、この間見た時、物語は全然なかったよ。研究発表とか歴史の本とかあとは偉人伝がほとんどだった。そこに物語を売るお店が出来たら、すごく繁盛すると思う」


イザベルの言葉を聞くと、王都で開く以外の選択肢がさらに狭められる。演劇の繁盛の仕方を見るに物語に触れる機会は少ないから、人さえいれば売れるだろう。識字率の問題はあるけど、劇団とかも買いに来るだろうから、あまり気にしなくてもいいかな。


「王都で開くのはほぼ絶対条件ですね。貸店舗を探さないといけないわけですが、何も店が入っていない建物を見たことが―」

「そう。そこが問題なんだよね」

「あ、それならあたし、当てがあるわよ」

「え?」


まさかのところからそんな言葉が飛んできて、素っ頓狂な声が出てしまう。アルトがそんなこと知ってるなんて思わなかった。私と別行動の時とかに見つけたのかな。


「前に超回復薬の素材集めの依頼を受けたでしょ?あの薬屋のおばあさん。後継がいないから店を閉めるかもしれないって言ってたじゃない?そこをもらい受けられるんじゃないかしら。要するに、私たちが後継をするってことよ。薬も売るって言えば文句は言われないでしょ。私たちでも問題なく作れるしね」

「そんなうまくいくかなあ…」


イザベルは無理そうだと思ってるみたい。実際にあのおばあさんに会ったことがないからそう思うんだろうけど、私は割と勝算があると思う。あのおばあさんはもうかなりの年齢だ。それこそ九十歳とかそのレベルだと思う。もうずっと引退を考えてたらしいんだけど、王都内に薬屋がひとつしかなくて引退するわけにもいかなかったんだって。あんなおばあさんが王都内の薬を一手に担っているってわけだ。それならいっその事、薬のレシピを公開してしまえばいいって言ってみたけど、薬を作るのにはかなりのセンスが必要なうえ、どんな理屈なのかはわからないけど、一番最初の時点で作ることが出来なかったら、今後作れるようになることは無いらしくて、そうもいかないんだって。事実、アニは作ることが出来なかったしね。私は特殊な料理を作っている感覚でそこまで大変に感じなかったけど、普通の人には難しいみたいだ。もしかすると、体質とかスキルとかが関わってくるのかもね。アニが作れなかった時点で、魔力は無関係なはずだし。


「いや、勝算はあると思う。無理だったとしても、試すのはタダだし、行くだけ行ってみよう」

「お嬢様がそう言うなら…」


イザベルは依然として懐疑的。念のため、第二の案も考えておかないとだね。


「決まりですね。なら王都に戻りましょうか」


時刻は昼下がり。まだまだ十分行動できる時間だ。


「そうだね。ダメだった時のことも考えないとだし、さっさと済ませちゃおう」


 私たちは本日二度目となる王都への移動を開始した。

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