第百八十三話 途絶えていた交信

 「交信が来るのは数年振りですか。そちらの世界では、どれくらいの時間が経っているのやら…」


高そうなスーツを身に纏った日本人らしき壮年の男性が神々の扉に映し出される。交信機能はちゃんと使えるみたいだ。


「こ、こんにちは」


とりあえず、そう声を掛けてみる。ちょっと緊張するな…試しにと思って、交信機能を使って見たけど、何を話したらいいのか全く分からない。


「ええ。こんにちは。私は、日本国という国での神々の扉の管理を任されている者です。貴方のいる世界と隔絶された別の世界の国になります。いえ、扉を使っているのですからこのくらいはご存じですよね。失礼しました」

「私は、ブランデンブルク国、キースリング伯爵家令嬢ハイデマリー・キースリングです」


私もそう挨拶を返すと、不思議そうな顔をされてしまう。何か変なこと言ったかな?


「ブランデンブルク国ですか。聞き覚えのない国ですね…扉の反応からして、そちらの世界が、こちらの世界と交流のあった世界であることは間違いないのですが…やはり、交信が途絶えた数年の間の変化は大きかったようです…」

「ブランデンブルグは私の出身国ではありますが、神々の扉が設置されているのは、ナハトブラオ魔道王国という国です。そちらに聞き覚えはないですか?」

「生憎、そちらにも聞き覚えはないですね…こちらとそちらは、時間の流れが全く異なっていることが、過去の交信から判明しています。こちらでは数年交信が無かっただけですが、そちらの世界だと、数百年単位で時間が流れている可能性があります。その間に、国そのものが変わってしまったのか、国名が変わっただけなのかは定かではありませんが…」


時間の流れが違う。そう聞くと納得できる点がいくつかある。古代壁画に現代日本の大都会が書かれていたりとかね。


「おそらく、それで正しいと思います。古代壁画にそちらの世界の大都会が描かれていましたから」

「古代壁画…?どうしてそれがこちらの世界を描いたものだと分かったのですか?」


しまった。まだそっちの世界で生きてた転生者だってことまで明かすつもりはなかったのに…


「へ、壁画には国名まで書かれていましたから。ほら、他の世界と交信するには、神々の扉が設置されている、場所の名前が必要でしょう?その壁画に国名が書かれていたからこそ、今こうして、交信が出来ているのです」

「なるほど…」


何とかご誤魔化せたかな?我ながら、よくこんなそれっぽいことを思いつけたなと、感心してしまう。


「そういえば、そちらの世界は神々の扉を動かすのに、魔力という魔法を使うための力を使うのですよね?現在もそれは変わっていないのですか?」


少しの沈黙の後、今度はそんな問いが飛んでくる。言われてみると、向こうの世界は魔力が存在しないのに、どうやって神々の扉を動かしているんだろう。普通に電力でとかなのかな。


「ええ。変わっていません。ですが、魔力を持った人間は、とても数が少ないです。おそらく、数百年もの間、交信が出来なくなった理由の一因になっているものだと思われます」

「そうでしたか。確かに、過去の交信で魔力を持った人間の数が少ないという情報はありませんでしたね。それが、国力を誇示する等の理由のために隠されていたことなら分からなくはないですが、おそらくそれは無いでしょう。隔絶された世界相手に隠し事をして情報交換という最大のメリットを失う可能性がありますからね。数百年前までは、魔力を持った人間の数も今ほど少なかったわけではないのだと思いますよ」

「そちらの魔力事情はどうなんでしょう?」


今度は私がそう聞いてみる。上手い質問の仕方でしょ?この聞き方なら向こうが魔力が無いことを知らなくて、向こうの事情に詳しくないように聞こえると思う。魔力が存在していることを当たり前だと思っている的な。


「こちらの世界には、魔力は存在しないんです。神々の扉は、設置された世界で一番最適な動力で動くようになっていますから、魔力でなくても動作するんですよ。ちなみに、こちらの動力は電力という電気のちからです」


やっぱり電力で動くんだ。まあ、普通に考えたらそうだよね。あれだけ電力の存在が当たり前の社会なんだから。そう思うと、こっちの世界はちょっときつい。だって、一番最適とされている魔力でさえ、使える人が少ないんだから。魔人とかも含めたら解決するだろうけど…


「電気というと、雷とかそう言うものと同質のものですよね。こちらでもほんの少しだけ使われているものもあります。まあ、魔力を使って発生させているんですけど…」


雷の魔道具とかそういう物だね。灯りの魔道具も含まれるかな。スイッチとかついてるし。


「驚きました。前回交信があった時にはそのようなことは無かったですから。やはり数百年という年月は侮れませんね」

「その、数百年前の情勢を詳しく教えてもらうことは出来るでしょうか?そちらがどうなのかはちょっとわかりませんが、こちらの世界は、紙が高価なうえ、識字率も低く過去の記録がほとんど残っていないんです。精々口伝がいいとこですね。私は過去に起こったとある事件のことについて調べているのですが、詳しい情報が得られないままでして…すこしでも、こちらの世界の過去について、情報が得られればと思い、今回の交信を実行しました」


物は試しだと勢いで使ったわけだけど、そう言うことにしておこう。これで聖勇戦争について情報が得られれば儲けものだ。時間の流れがこちらよりはるかに遅い日本側なら、それこそ、聖勇戦争のころから、交信をしていた可能性もある。


「それは構いませんが、神々の扉は世界間での情報交換を目的に設置されたものです。

そちらからも、何か有益な情報をいただきたい。そうですね…現在の世界情勢を教えていただけませんか?」

「私が知りうる限りの情報になりますが、それでよければ…」

「よろしくお願いします」


隔絶された世界の情勢を知って何になるんだろうと思いながらも、私は了承の返事を返した。

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