第六十七話 魔法封じの罠とオリハルコンの剣
地下へ向かうための道を探しているけど、全然見つからない。探し始めて、一時間はたったかな。隠し通路みたいになってるっていう予想は大当たりだったかもしれない。
「このフロアは粗方探しましたよね…」
聖堂ホールに通路、何個もある部屋、床や壁に隠し扉があるかもしれないと、目利きの義眼まで駆使して、隅から隅まで探してみたけど見つからない。探し物に長けているアニも、特に何か気づいたということは無かった。まあ、手を繋いで動いているわけだから、そうなるだろうけどね。他にも、お約束的に、本棚が隠し扉になってるとかも考えたけど、そもそも本棚が無かった。
「もしかして、二階に階段があったりるのかな。」
直通でスロープや階段があるのかもしれない。
「これだけ探してないのであれば、おそらく。後は屋外でしょうか。」
「屋外は無いと思う。建物の中にいたら目が届かないし。」
「確かに、大切なものの保管場所は常に目が届くようにしておきますよね。」
「うん。だから一階は無人なんだと思うよ。重要そうなものもあんまりなかったし。」
「なら、次は二階の調査ですよね。人もいるようですから、より注意して調べましょう。」
「物音とか気を付けてね。私たちの足音とか声が聞かれることは無いけど、物を落としたりしたら、普通に聞こえるから。」
「もちろんです。抜かりありません。」
「じゃあ、行こう。」
上に上がる階段は目立つところにあったから、すでに発見済みだ。
二階フロアも一階と似たような作りだけど、聖堂は無いみたいで、部屋がたくさんある感じだね。
「人の気配がない場所から探そうか。」
部屋の中にあるのか、扉を開けたらすぐにあるのか、それとも隠し通路みたいになっているのか…これに限っては、地道に探すしかない。
いくつか部屋を見てみると、一階にある、食堂や、執務室のような部屋、応接室に簡易的な医務室などの明確な用途があるものとは違って、物置みたいな部屋が多い。保管場所って感じかな。人がいるような部屋には何か役割があるんだろうけどね。
「あれ、この部屋鍵がかかってますね。」
「ホントだ。」
試しに私もドアノブをガチャガチャといじってみるけど、扉が開くことは無い。ほかの部屋は鍵なんて掛ってなかったのに。…明らかにあやしい。
「入ろう。」
開錠魔法で扉を開け、中に入ると、その部屋に異様な雰囲気が漂っていた。だけど、何処か心地いい。この感じどこかで…
「この部屋、ダンジョンの周りみたいですね。」
そうだ。魔力が濃くて、何処か力が湧くこの感じ。ダンジョンの近くと同じだ。
「もしかして、剣から魔力が漏れているのかもね。」
「それなら、この部屋に地下へ続く道があるかもしれません。」
通路を伝って魔力が漏れてるなら、そういうことだろうね。だけど、他の部屋の魔力が濃くない理由も分からない。なんで、魔力がこの部屋だけに留まっているんだろう。そんなことを考えながら、誰かが通った時に怪しまれないよう、扉を閉めたその時だった。
「わっ!!急に暗くなった!!」
びっくりして大きい声が出ちゃった。明かりはつけてないから、暗視の魔法がどうしてか解けちゃったみたい。
「だ、大丈夫ですか?」
私の声でアニまで驚いてる。
「ごめんね。暗視の魔法が解除されちゃって。」
窓もなくて、光が一切差さないから真っ暗で何も見えないし、早くかけ直さないと。
「暗視魔法。」
トリガーである魔法名を発しても、なぜだか視界が変わらない。こんな事初めてだ。この部屋は、魔力で溢れているわけだから、魔力が足りないってことは無いはずだし…。となると…
「魔法が使えない?」
暗視魔法だけじゃなく、ほかの魔法も試しに使おうとしてみたけど、発動しない。
「お嬢様。私も試してみましたが、魔法が使えません。透明化も解除されているでしょう。使えないのはおそらくこの部屋だけでしょうから、一度出ましょう。そしたらすぐに透明化をお願いします。」
「分かった。」
再び扉に手をかける。だんだん目が慣れてきて、少し見えるようになってきた。
「あれ…開かない。」
オートロックなのか!?内側から鍵を開くことが出来そうなものは無い。開錠魔法も使えない。まずい。完全に閉じ込められた。
「どうしよう…」
失敗した。これなら扉を開けたままにしておくべきだった。魔法が使えなくなるのも扉を閉めるのがトリガーだったんだ…。
「魔道具は使えます!」
後ろでアニが火をつける魔道具を使って、火花を散らすのが見える。それなら、目利きの義眼も使えるはずだ。何か解決策が見つかるかもしれない。
「最悪、この教会に火をつけて脱出するしかないかもね…」
魔法が使えない状態じゃあ危険すぎるから、避けたいけど…
目利きの義眼を使ってみてわかったことは、扉のことだけ。この部屋の扉は、予想通り魔道具で、効果としては魔力を通さないというものだった。この部屋の魔力が濃いのも、空気中の魔力が外に出ていかないからってだけで、剣から漏れているわけじゃなかったみたいだ。だけど、ロックするみたいな機能は付いてなかった。それには他の要因があるかもしれない。
「この部屋は、おそらく罠だったのでしょう。剣を盗みに来た者に対しての…」
それにまんまと嵌ってしまったわけだ。魔力を感じられる人にとってはうってつけの罠だね。
「こんなことになるなら、さっさと床をぶち抜いておくんだった!!」
一階を探索していた時点で、それは思いついていた。大きな音が出るし、盗んだことも一目瞭然で分かってしまうからやめといたけど、失敗だった。
「何とか、魔法を使えるようにしないとですよね…」
部屋の中をウロウロしながらアニが呟いた。でも、魔法を封じる仕組みが何なのかが分からない。扉の効果ではなさそうだし、魔法を使えないようにする魔法なんて、矛盾するものが存在するわけもない。できるとしたら、創造魔法くらいだけど、精霊魔法が無いと使えないわけだから、それもない。
「これは、もしかして…」
そんなことを考えている横で、アニが何かを見つけたらしい。
「どうしたの?」
「この机の裏側に、何かが書かれていまして。おそらく、アルト様が前に言っていた魔法陣というものだと思うんですが…」
机の裏を見てみると、確かに何か書いてあるみたいだ。白で書かれているからか、辛うじて見えるけど、詳しい内容はわからない。
「そもそも、魔法陣ってなに?」
前世の創作物上の知識と合致するなら、魔法を使うのに必要だったり、儀式に使ったりするものだと思うけど。
「魔法陣というのは、特定の魔法を永久的に発動させるものです。確か、普通に魔法を使うのと違って、空気中から、魔力を取り込むことが出来るから、永久的に発動できるってことだったと思います。」
もしかするとこれを消したら、扉が開いたり、魔法が使えるようになるかもしれない。
「これ消してみよう。」
「ですよね。それくらいしかやれることもないですし。」
消すと言っても道具がないから、アニが着火の魔道具で焦がして消すことになった。他のところに燃え移らないように注意しながら進めているのが分かる。その間、私は水魔法を常に発動させられるようにしている。今は発動できないけど、こうしていけば魔法が使えるようになった瞬間が分かるからね。それがだめなら、扉が開くことを祈るしかない。
半分以上を消すことが出来たとアニが言ったその瞬間、私の手に水が生成される。
「使えた!!これなら…」
扉をブチ抜ける。でも、音でばれちゃうから、もう一つ魔法を創らないと。私の周辺から、音が外に漏れないようにする魔法。
「吸音魔法。」
試しに手を叩いてみるけど、音は全くならない。これなら…爆撃魔法でいける!!
(このまま扉を壊したら、剣の真上まで移動して、床を壊しちゃおう。他にもこんな仕掛けがされてたら、また不味い状況になるかもしれない。)
声が聞こえないだろうからテレパシーでそう伝える。この際、透明化も必要ないと思う。スピード勝負だ。
(わかりました。)
その声を合図に、扉をブチ抜き、浮遊魔法を使って吹き抜けから一階に降りる。魔力反応の真上に着地してそのまま床をまたまた爆撃で破壊。煙が晴れると、真下には黄金に輝く、オリハルコンの剣が。
浮遊魔法を使って降り立った私とアニ。後は剣を持ち帰るだけだ。まるで御伽話に出てくる伝説の剣みたいに、台座に刺さった状態で鎮座している。柄を持ち上に引っ張り上げても全く抜けない。
(ぬ、抜けない…)
(私もやってみます。)
アニがやっても全く変わらない。
(もしかして、勇者にしか抜くことが出来ないとか…)
そんな不穏なことをアニが呟く。
(もう台座ごと収納魔法に入れちゃおう。床の穴に気が付かれたら面倒だし早く撤退しないと。)
台座の真下に、収納魔法の入り口を開くと、そのまま吸い込まれる。よし成功。
(じゃあ、撤退しよう。)
手を繋いだままのアニにそう声をかけテレポートを発動した。
次の瞬間には私たちがいるのは宿の部屋。掛けてある魔法をすべて解除して一息つく。
「いやあ、一時はどうなることかと思ったけど、成功してよかったよ。」
最後は大分慌ただしかったけどね。
「あんな罠が仕掛けてあるとは思いませんでした…」
それを知ってたら、最初から床ブチ抜き作戦でいってただろうしね。
「ともかく、これでアルトを救えるかもしれない。明日にはテノールのところへ行こうか。」
「そうですね。今日はゆっくり休みましょう。」
安心したせいか、疲れと眠気が一気に押し寄せてくる。睡眠魔法を使った影響もあるし。
「うん。今日はもう寝るよ…」
着替えだけして、私はベッドに飛び込んだ。
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