第六十六話 潜入作戦

 あらから、三日間、私たちは教会についての情報収集や、下見をして過ごした。情報については、アニもいろいろ知っているみたいだったから、そこまで大変じゃなかった。なんでも、オリハルコンの剣を管理している教会は、勇者を崇めているライナルト教の教会で、この国の国教ではないけど、勇者自体が力を持つことが多いから、非常に力と影響力を持った団体らしい。ちなみにライナルトっていうのは、初代勇者の名前みたいだね。

 教会本部というのは、貴族エリアとの境界あたりにあり、外から眺める分には全く問題なかった。教会の周囲には祈りをささげているような人も見受けることが出来たし、近づくだけなら特に怪しまれるということもない。だけど、強行突破せずに穏便に中に入るというのは難しいかもしれない。門の前には、帯刀している警備が二人。昼夜問わず、常に立っているから、無力化せずに入るのは難しい。結界を抜ける時に弾かれる恐れがあるから、透明化して侵入っていうのも無理だ。騒ぎになると面倒だから、強行突破は避けたいんだけど、今度は中に入るためのアポイントが取れない。まだギリギリで王都に滞在していたエーバルトを通して、お布施をしたいという名目でコンタクトを取ってもらったけど、見向きもされなかったらしい。お金には困ってないということかもしれないけど、そもそも、貴族からの誘いを断れるっていうのもすごい。力があるっていうのは本当の事みたいだ。

 穏便に入ることが無理そうな状況なわけで、私たちが考えた方法は、なるべく短時間で目立たずに警備を制圧して、結界内部に侵入。そしたらすぐに透明化をして、オリハルコンの剣を探すというものだ。結界の性質が推測でしかないため、そもそも成功するかもわからない。精霊や魔物、魔力なんかの侵入を防ぐだけじゃなく、不正侵入をも防がれるかもしれないし、内部では魔法が一切使えないという可能性もゼロじゃない。まあ、その時は透明化が出来ない時点で分かるわけだから、すぐに撤退すればいい話なんだけど。でもこの方法だと、侵入出来たとしても、警備している人に異常があるわけだから、結界の効果にかかわらず、時間が経てば侵入したということは知られてしまう。そうなれば何か対策をしてくるのは当たり前だ。その方法に魔力探知があれば、透明化している意味もなくなる。今回の場合、私たち以外の場所に落ち度や原因があるわけじゃないから、罪人として追われることになる。それだけは避けなければならない。今までしてきたことがパアになるからね。

「じゃあ、一時間後、計画実行で。」

現在は午後六時を過ぎたところ。内部に人が少なくなる夜に計画を実行することになる。午後七時以降は、多くの関係者が帰宅していることが張り込みの結果わかった。潜入するのに人が少ないのは好都合だし、これを利用しないことはない。

「はい。慎重にいきましょう。計画に無理があった場合は、即撤退というのを忘れないでください。」

これは、今回、不確かな情報の中で計画を実行するにあたり、私とアニがした約束。どんな状況かが不明瞭な中では、お互いの命を守ることが最優先だ。

「うん。アルトのことも大事だけど、私たちに何かあったら、助けるどころじゃあ無くなっちゃうからね。」

「では、準備をしましょうか。なるべく目立たないように、黒い服で行きましょう。お嬢様はこれをお持ちください。」

渡されたのは、アニが普段から使っているナイフ。

「どうして?」

「結界内で魔法が使えない状況に陥って、万が一捕まってしまった時の保険です。縛られることになるでしょうから、縄を切るのに使ってください。お嬢様の見た目なら、ボディチェックも甘くなるはずです。隠し持っておくことは可能だと思います。私はチェックも厳しいでしょうから、ナイフより隠しやすい、火をつける魔道具を持っておきます。」

たしかに、火をつける魔道具は、五センチくらいの竹の筒みたいな見た目をしている。隠し持つのは簡単だろうね。まあ、ナイフと違って、縄を切るには燃え尽きるまで待たないといけないけど、何も対策しないよりはましだ。最悪、私一人でも逃げ切れれば、助けることは十分可能だ。国に引き渡される前に、教会を破壊してしまうとかね。もちろん、無機物だけに作用する爆撃を実際に創る必要はあるけど。アニを巻き込まないようにしないとだし。

 数分後、準備を終えた私たちは、教会近くのワープポイントへ飛ぶ。暗視魔法で様子を見てみると、やっぱり警備は二人。下見の時と同じで、ちゃんと剣も持っている。というかやっぱり夜になっても、周りに人はそこそこいるね。こうなればここにいる人を全員の意識を奪うしかない。こういう時のために、相手を眠らせる魔法を創ったんだけど、これには大きな欠点がある。なぜか、使うと私まで眠くなっちゃうんだよね。魔物相手に実験してみたけど、一回ならまあ耐えられる。二回目以降は何度やっても睡魔に負けてしまう。普通の睡眠よりは早く目覚めることが出来るけど、少なくとも三時間は眠ったままだ。アニが言うにはどんなことをしても起きないらしい。すごく便利な魔法なのに、これじゃあ使い物にならない。私の考えでは、潜在的な考えが関係している気がする。前世で働き始めてからは、ほとんど寝られない生活をしていたからか、睡眠というものを本能で欲してしまっているんだと思う。

 睡眠魔法を使い、警備も含めて周りの人がすべて眠ったのを確認してから、教会に近づく。

「ここを超えることが出来れば、結界内部です。いきましょう。」

アニと一緒に門を潜ると、魔力の壁を通り抜ける感覚があった。どうやら、不正侵入を拒むような仕組みは無かったらしい。

「行こう。」

アニと手を繋いで、透明化の魔法を使う。直接触れている間だけ透明になるっていう条件にしたからだ。そうしないと、お互いの存在を確認できなくなってしまうからね。魔力探知をすればいいんだけど、それだと無駄に労力を使うことになる。

 教会の扉に鍵がかかっていたけど、開錠魔法で突破し、中に入る。外から見た通り、明かりは点いてないね。まずは、魔力探知で剣の場所を探さないと。目を閉じて、意識を集中させると、いくつもある魔力反応の中で一番大きいものは地下にある。他は明かりの魔道具とかだと思う。

「「地下だね(ですね。)」」

同じく、魔力探知をしていたらしいアニと声が揃った。

「ていうかアニ、真っ暗だけど見えてる?」

暗視の魔法や道具を使ってるわけじゃないのに、全然不便そうには見えない。

「特に問題ありませんが…」

そういえば、すごい遠くから町の入り口が見えるなんてこともあったし、やっぱり目がすごくいいみたいだね。魔導士の血が関係してるのかな。

「すごいね…」

「そうですか?ですが、その話はあとにして、今は地下に続く道を探しましょう。」

少しテレを隠すようなアニの声で、教会内部の探索が始まった。

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