第四章 再来の王都
第三十九話 二度目の王都
運転を三人で交代しながら、ドライブを続けること半日。合間合間に休憩をはさみながらも、もうすぐ王都に到着するというところまで来ていた。王都を囲む城壁も、目視で十分確認できる。ガンガン飛ばしたから、馬車で数日かかる距離でも、このくらいの時間で来れたわけだ。まあ馬車って時速2、30キロって聞くし、その何倍ものスピードで走ったらそりゃあ、早く着く。
「じゃあ、ここからは歩きだね。車に乗ったままだと、王都に入れないと思うし。」
全員が車から降りたことを確認して、そのまま収納魔法に入れる。仕舞い終えると三人して、足を進めだす。
「それにしても、随分と速く動くのね。車っていうのは。しかも、座ってるだけでいいから快適だわ。」
この世界の最速の乗り物が何かは分からないけど、間違いなくそれよりも速いと思う。
「一度、体験してしまうと、もう馬車には戻れませんね。」
「これがあれば、旅がもっと捗ると思うよ。」
苦労して作った甲斐があるってもんだ。初めてのドライブについて口々に感想を言いなら街道を辿ること大体、十五分。馬車やら人やらが並んでいる列が見えてきた。どうやら、入場するための審査待ちの列みたいだ。というか馬の前に、生身で並んで大丈夫なんだろうか。蹴られたりしたら大変なことになりそうだけど…
「さすが王都ですね。待機列だけでこの数だとは…」
「この国の中心なんだから人の出入りが多いのは当り前よ。でも、それを鑑みても、この数は多いわね。」
「前に来たことあるの?」
「来るのは初めてよ。正確には王宮に行ったわけだから二度目だけど。でも、この前の時は、こんな列に並ばずに、すぐに入れたじゃない。貴族の馬車だからっていうのもあるかもしれないけど。バッハシュタインに向かって飛び始めたときもこんな列は視えなかったわ。」
あの時、そんなところまで見てたなんて、驚きだ。
「となると、何か特別な行事でもあるのでしょうか?」
「うーん。最近は掲示板も見てなかったからなあ。何かあるとしても、分かんないね。」
時事的な情報を得るほとんど唯一の手段である掲示板。最近は、広場と部屋の往復だけだったから、気にも留めていなかった。
「まあ、入ってみればわかるでしょ。ほら、そろそろよ。」
いつの間にか、私たちの番まで残り一組まで来ていた。まあ、審査自体に時間はかからないからね。身分証を見せるだけだし。
「次!!」
偉そうに鎧を着たおじさんがそう声を上げる。私たちの番だ。あらかじめ取り出しておいた身分証を三人して見せる。
「ほう、冒険者か。お前たちも戴冠式を見に来たのか?」
「戴冠式?」
「なんだ、違うのか。どうせなら見ていったらどうだ?入場に関しては問題ないな。通っていいぞ。」
後ろも詰まっているから、とりあえず中に入る。町の中は食べ物いい匂いで溢れていた。至るとことに屋台がずらっと並んでいて、まるでお祭りだ。
「どうやら、戴冠式があるせいで、王都に来る人が増えているみたいね。」
「戴冠式って、王様が変わる時やるやつでしょ?もしかしてあいつ死んだ?」
「そうかもしれないわね。いい気味よ。」
「気持ちは分かりますが、誰かに聞かれたらことですよ…」
「まあ、一応掲示板で情報を仕入れておこうか。もしかしたら私たちが関わってるかもしれないし。」
そこから適当に屋台を冷かしながら、うろうろ歩いていると掲示板を発見。目立つ場所にあるからすぐに見つかった。
「ええっと、なになに、先日の王宮爆発事件により、歴史あるブランデンブルク王国、王城が半壊した。その責任を取る形で、国王である、ランドロフ・ブランテンブルク陛下は退位することを発表。その陰には、心労がたたって、王としての職務を遂行することが不可能になったという事実もある。なお、後継は王位継承権第一位の第一王子、ディートフリート・ブランテンブルク殿下が務める模様。だそうよ。」
「死んだわけじゃなかったね。」
「第一王子ってお嬢様のお披露目の時に来ていた方ですよね。」
そういえばそうだったかも。
「あたしも覚えているわ。あのイケメン王子でしょ?あいつがお披露目に来なければ、王宮に行くことも無かったんだし、ある意味、全ての元凶ね。」
「まあ、そうかもしれないけど、私はそんなに恨んでないよ。もともとは善意だったみたいだし。あの時は嘘を言っているようには見えなかった。悪いのは国王とあの女だよ。」
「まあ、あなたがそう言うならあたしに言うことは無いわ。」
「まあ、この話はいいとして、先に宿を見つけないと。戴冠式で人が集まってるみたいだから、いっぱいになってるかも。」
「それもそうですね。なら先に宿を探しましょう。」
「うん。どうせならいいとこに泊まりたいね。あんまり汚いとテンション下がるし。」
「てんしょん?まあ、わかりました。貴族向けの宿を探しましょう。」
あれ、テンションは通じないんだ。最近の言葉は通じないのかもしれない。この世界の言葉は発声は前世と同じでも、文字は全然違う。こういうところが、前世の世界とのつながりを感じさせるところだ。
そこら辺の屋台で、宿の場所を適当に聞いて教えられた場所に行くと、そこにはやっぱり貴族の屋敷みたいな豪華な建物が聳え立っていた。
「看板も出てますね。ここで間違いないです。」
二度目ともなれば、うろたえることも無く、さくっと入って受付へ。
「一番いい部屋をお願い。」
アルトがそう言う。
「期間はどれくらいになりますか?」
「とりあえず無期限で頼むわ。」
「かしこまりました。無期限ですと、事前に保証金として金貨七枚をいただきます。超過分はお部屋を出る際に返金致しますので、ご安心ください。不足した場合もその際にお支払いいただければ結構です。」
金貨七枚を渡すと、代わりに部屋の鍵を差し出される。
「お部屋は、階段を上がって右手になります。どうぞごゆっくりご滞在ください。」
その言葉を聞いて受付から離れる。
「ねえ、部屋に行く前に屋台を見に行かない?」
そう二人に声をかける。
「どうして?」
「だって、甘いものが食べたくて来たわけでしょ?あれだけ屋台があれば、一つくらい出す店があるかもしれないし。」
「確かにそうですね。先に探しに行きましょうか。夜になったら閉まってしまうかもしれませんし。」
「そうね。分かったわ。じゃあ行きましょうか。」
私達は、再び街へ繰り出した。
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