第四十話 あの二人との再会

 遅めの昼食にと食べ歩きをしながら、屋台巡りをすること数十分。それでも、特に甘味と呼べるものは見つからない。果物で作ったジュースや、果物そのものを売っている店はちらほらあるけど…

「見つかりませんね。」

適当に買った、肉串を食べながら歩いているアニが言う。

「うーん。屋台はたぶん庶民向けだから、普通に食べられてるものが多いね。」

たぶん甘いものは高級品だろうから、屋台には無いのかも。

「もう、回り切っちゃったし、一旦、戻らない?おなかも膨れたし。」

「そうだね。」

アルトの提案に応じて、踵を返す。距離としては、そんなに離れたわけじゃないから、十五分やそこらで宿に戻れると思う。

「ハイデマリー!?」

歩みを進めていると、少し離れた所から声を掛けられる。振り返ってみると、そこにいたのはもう二度と会うことは無いと思っていた、見覚えのある人物。

「ああ、ハイデマリー。無事でよかったわ。あんな事件があって、とても心配していたのよ。」

そこに立っていたのはあの女によく似た黒髪に、私と同じ青色の瞳。それを見ればいやでも思い出す。オリーヴィア・キースリング。私の実の姉だ。二人の護衛を連れて、私たちの前に現れた。なぜ王都にいるんだろう。それに、あの事件って私が王宮を爆破した時のことだろうし、もしかして、公表されているのと同じで、魔法の事故って思ってるのかな。

「お久しぶりです。お姉さま。」

一応、そう返す。私を探す依頼も出てたけど、まさか姉に見つかることになるとは思わなかった。

「ええ。本当に無事でよかったわ。いままでどうしてたの?それに、メイドのアニと、そちらの方は?」

そう言ってアルトの方に視線を向ける。いざ聞かれると、アルトのことを説明するのは難しい。そのまま精霊っていうわけにもいかないし…

「あたしはアルト。この子と契約してる精霊よ。」

(え!?なんで言っちゃうの!?)

今までアルトが精霊だと明かしたことは無かったのに…

『精霊がついてるとなれば、今後何かしてくるとしても、手出しするのは難しいはずよ。』

今後の対策のためってことだったらしい。こういう時は頼りになる。

「精霊…ですか…。まさか実際にお会いできる時が来るなんて…」

随分驚いてるみたいだ。そういえば、前に精霊魔法に興味があるって言ってたっけ。

「っと、今はそう言ってる場合じゃないわね。わたくしたち、戴冠式に出席するために、王都に来たの。今は、王宮の迎賓館に泊まっているわ。お兄様にもあなたが無事だということを伝えないと。一緒に来てくれるかしら?それに、あなたに話さなければならないこともあるのよ。」

王宮。絶対に行きたくない。王族は基本的に私の敵だ。きっと向こうもそう思っている。王宮に入って何事もなく帰ってこれるわけがない。

「それは無理です。私は、王宮に行くわけにはいかないので。」

「そう…なら、場所を変えましょう。あなたたちが滞在している場所はだめかしら?他の人の目がある場所は都合が悪いのよ。」

他人の目を気にするなんて、相当込み入った話なのか、それとも何か仕掛けてくるつもりなのか…まあ、仮に何かされても、打つ手はたくさんあるし問題ない。テレポートで逃げてもいいし、魔法を使えば制圧も問題ない。それに、ここで断って逃げたりしたら、王都に来た目的を果たせない。

「分かりました。私たちが泊まっているのは、この先の貴族向けの宿です。」

「ああ、あの宿ね。では行きましようか。あなたはお兄様を呼んできなさい。」

オリーヴィアが護衛の一人にそう声をかけると、その護衛は逆の方向へ走り去っていく。

『よかったの?自分から招き入れるなんてことして』

(仕方ないよ。ここで逃げたら、目的を果たせないし、これから何かと付きまとわれても、迷惑でしょ?ここできっぱり決別しないと。)

『そういうことね。まあもしもの時は任せなさい。』 

(頼りにしてるよ。)

 宿の場所を知っているらしい、オリーヴィアを先頭に進む道中、ここまで、テレパシーですら口を開くことのなかったアニの様子を窺う。その顔は、暗い表情といっていいのか、とにかく何かを考え込んでいる様子だ。

(アニ、どうかしたの?)

この際だから聞いてみる。するとハッとしたような表情を浮かべ、テレパシーで返してくる。

(その…いえ、私の思い違いかもしれないので、今はまだ…)

どうやら何か思うことがあるみたいだけど…

(そう。まあ、何かあったら言ってね。)

(はい。必ず。)

そんなことを話していれば、あっという間に宿についてしまった。私たちも、今回の宿の部屋に入るのは初めてだから、少し楽しみにしてたけど、なんだか複雑…

 階段を上がって、部屋に入る。一番いい部屋だからか、かなり広い。リビングルームにプラスで、二部屋ついているようだ。

「いい部屋ね。王宮の迎賓館にも引けを取らないわ。」

オリーヴィアは、備え付けのソファーに狙いをつけると、ちょこんと座った。護衛の一人は、扉の前で待機しているみたいだ。

「座り心地もいいわね…」

「まあ、一番いい部屋だからね。」

アルトがそう答える。

「一番いい部屋…」

一瞬、オリーヴィアの目つきが変わったような気がした。

 その後、アニがみんなの分のお茶を用意してからは、だれも口を開かない、一見、重苦しい空気が流れていた。そんな中、私たちは、テレパシーで前に二人に教えた、しりとりをして遊んでいた。要するに、その重苦しい空気を感じているのは、オリーヴィアだけってことだ。しりとりを続けること数十分、そろそろ飽きてきたというところで、扉をコンコンコンと三回叩く音がした。出るまでもなく、待機していた護衛が扉を開けると、そこに立っていたのは、先ほど戻った護衛に私の兄、エーバルト・キースリング。もう一人、見知らぬ男が立っていた。

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