第四十一話 新王からの迷惑なメッセージ

「お待ちしてましたわ。お兄様と…そちらは?」

なぜか、私でも、アニでもなくオリーヴィアが出迎え、そのまま席へと着かせる。見た感じ、どうやらもう一人の男が来ることを彼女も知らなかったみたいだ。

「ああ、こちらの方は…」

「王宮使者のザシャ・ヘラーです。」

王宮使者。その言葉を聞いた途端、アルトの雰囲気が目に見えて変わった。

「ああ、俺を呼びに来たタイミングにたまたま居合わせていてな。なんでも、王家側もハイデマリーとコンタクトを取りたがっていたらしい。にしても驚いた。まさか王都にいたとは…」

私の方へ視線を向けて、そんなことを呟く。

「それで、話とは?」

アニが、追加で二つのお茶を用意した後、私が聞いた。こんなのは早く終わらせるに限る。

「ああ、それなんだが、俺からの話より、王家からの話の方が優先だ。先にザシャさんにお任せしようと思うが…」

「では、私からお話しさせていただきます。先日王宮で起こった事件についてです。つまり、王宮の爆破、並びにキースリング伯爵殺害についてということになります。この件に関しては、現王、新王ともに不問とするということで合致しています。」

「ハッ。偉そうに。」

アルトがそう声を上げる。それにつられて一同の視線を集める。

「あなたは精霊様ですね。人間でないあなたには分からないかもしれませんが、実際偉い立場にいるお方なのですよ。」

王宮をあんな風にされておいて、よくそんな軽口が叩けるなあ。というか、この話を聞く限りだと、オリーヴィアとエーバルトは事実を知っているみたいだ。

「続けます。その件について現王の方は問題なかったのですが、新王の方が条件を付けまして…」

たまらずここで口を挿む。

「条件って、そもそもの原因はそっちじゃない。それに別に許してもらわなくたって、こっちに何のデメリットもない。今まで通りの生活が続くだけだし。」

「いえ、今度はそうはならないと思いますよ。この条件を飲まなければ、新王は事件のことを公表するおつもりです。もちろん、あなたの顔と名前も含めて。そうなれば、この国で冒険者活動はおろか、普通に生きていくことさえ難しいですよ。貴族殺しは大罪ですから、これでもかなり甘い処置ですがね。」

私が冒険者をやっていることも調べられているみたいだ。そのことを知っているのは王家側だけだと思う。もしエーバルトや、オリーヴィアが知っていたなら、私を探してほしいだなんて依頼は出さないだろうし。ってそんなことはどうでもいい。

「おっと。その条件を伝え忘れていましたね。その条件とは、賠償金として、金貨500枚の支払いです。ちなみにこの賠償金は王宮の破壊行為に対するものです。前キースリング伯爵殺害については、含まれていません。そちらの賠償は王家に支払うものではないので。」

金貨500枚。ものすごい額だ。となると、私たちが冒険者として稼いだ額も当然把握しているんだろうね。だからこそのこの金額だ。

「金貨500枚!?そんなの払えるわけないわ!!」

今まで口を閉ざしていたオリーヴィアがそう叫ぶ。大方、私が払えなかったら生家であるキースリング家が支払わなければいけないとでも考えたんだろうね。

「いえ、十分払いきれる金額ですよ。ハイデマリーさんは事件のあと、史上最年少でAランク冒険者となり、ケルベロスの討伐や、青のダンジョン完全攻略という偉業まで成し遂げています。その報酬額のことを鑑みれば十分、支払い能力があるはずです。」

やっぱり完全に調べられている。

「支払う前提で話を進めないでもらえる?」

このまま何も言わないと、支払う流れになってしまう。

「失礼ですが立場をお分かりで?支払わなければこの国で生きていくのは困難だと申したはずですが?」

「立場を分かってないのはそっちでしょ?私は別にこの国で生活することに拘りはない。敵対している国にでも亡命すればいいだけだよ。手土産に、国王の首でも持ってね。どうせなら貴族を全員皆殺しにしてもいいかも。そっちの方が侵略しやすくて喜ばれるだろうし。」

それを聞いて青ざめているのは、エーバルトとオリーヴィア。

「そんなこと、できるわけ…」

それに比べてザシャの表情は何でもないといった顔だ。

「できない。なんて思ってるならそれは大間違いだよ。何なら、今から予行練習に、ここだけ残して、王都を更地にしてこようか?それくらいなら数分で済むし。ああ、安心して。ちゃんと民間人は死なないようにするから。」

まあ、国ごと消すならともかく、貴族だけを殺すのは面倒すぎるから無理だけど。技術的には可能だし、嘘は言ってない。逆に、人だけを生かして、王都を更地にするのは簡単だ。無機物だけを破壊する爆撃魔法を創ればいい。まあそれだと、民間人だけじゃなくて、王族も貴族も死なないけど。

「ざ、罪悪感はないのですか!?」

かろうじて、冷静を保っているという様子で、そんなわかりきったことを聞いてくる。

「そんなの、母親を殺したっていうのに普通に楽しく生活してるのを見ればわかるでしょ?」

まあ、これは嘘。私に何の害もなして無い人を殺したとしたら、さすがに思うところがあるだろう。

「なるほど…あなたのことがよく分かりました。誰が言い出したかは知らないが悪辣非道とは言いえて妙。八歳の子供とは思えない…分かりました。とにかく、そのように伝えます。」

鋭いな。精神的には三十路近いは確かだ。まあ、ここまで言っとけば今度こそ、ちょっかいをかけてくることは無くなるでしょ。アルトも私が話しだしてからは、口を挿まないで、やりたいようにやらせてくれたから、ありがたかった。無言の圧力という意味でも役に立ったと思う。すごい威圧感だったしね。何ならちょっと魔力を放出してたし。魔力に慣れてない人にはそれこそ、ものすごい剣幕に見えたはずだ。

「では、私はこれで。」

そう言って、ザシャは部屋を出ていった。

「さて、では次はお兄様に、お姉さまのお話ですね。」

この勢いで、こっちもサクッと終わらせたいところだ。

「この空気で話せるか!!!」

私の思考と裏腹に、エーバルトの咆哮が広い部屋に響き渡った。

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