第百三十九話 ファクラーの町
翌日。軽めの朝食としてサンドウィッチを食べた後、町へ出る許可が出たということで、私たちは外交官たちに送り出されながら、ファクラーの町へと繰り出した。この町は、友好各国から来る船の発着場から一番近いだけあって、様々な人たちの姿が見える。商人っぽい人が多いかな。馬車を走らせているのは旅商人かな。装備がそれっぽい。服装とかが暑いところと寒いところですぐに切り替えられる作りになっている服だ。ブランデンブルクでも見たことがある。
「さて、最初はどこに行ってみる?」
町の中を当ても無く歩きながら、みんなに聞いてみる。
「まずは冒険者ギルドに向かいましょう。この国に滞在しているということを登録しなければ、依頼を受けることも、ギルドからの恩恵を受けることも出来ないらしいですから」
「それは困るわ。一角獣のいらない部分の買取もギルドを通す話になってるし」
さすがに、国王に合わせるわけにはいかないだろうからね。冒険者ギルドを通すのが妥当なところだと思う。
「じゃあ、冒険者ギルドを目指しながら、適当に見てまわってみようか」
「「おー!!」」
アルトとイザベルの揃った声で私たちは、本格的に散策を開始した。
町の中はやっぱりお店ばっかりだった。領民が住む場所とお店は完全に分かれているみたいで、この町の中に民家らしきものの姿は見えない。ブランデンブルクにもそういう町もあるけど、向こうは大体、一階部分がお店になっていて、二階より上が居住スペースになっていることが多い。町の外の村とかはよく知らないけどね。その点、この町の建物は一階建てのお店になってる建物がほとんどで、民家の姿も見えない。お店以外の建物は何かの工房か宿屋になっているみたいだね。ということは、この町の近くに住宅地みたいなところがあって、そこから通っているのかな。
「ここは何の店かな」
私たちの内、誰かが気になったお店に入るみたいな感じで歩いていると、イザベルがそう言う。看板が出ていなくて何を売っているか分からないお店も多いんだよね。さっきなんて、洋服店かなって思って入ったお店が宿屋だったし。さすがに宿屋には看板を出してほしい。泊まろうとしている人も探すのが大変になりそうだし。
ほかに入った店と言ったら、食料品店と本屋だね。
食料品店は、この国の名物っぽいものがいくつか売ってたから買ってみた。香辛料と、果物が名産みたいだね。昨晩のメロンもどきのトマトもこの国の特産品みたいだった。まあ、この町に来る前の森にも果樹がたくさん自生しているみたいだったし、果物の方は分かる。香辛料の方もさまざまな種類があった。これだけあれば、カレーみたいなものが作れるかもしれないといくつか買ってみた。作るにはちょっと研究が必要だろうけどね。
本屋の方は、魔導書なんかがあるわけじゃなく、聖典みたいなものや、レシピ本、子供向けの挿絵入りの本なんかが置いてあった。私が買ったのはそのうち、聖典とレシピ本。レシピの方は拠点の料理人たちに渡して、何かおいしそうなものがあったら作ってもらおうかなって思ってる。
聖典には、昨日、船長が言っていた、旅の神、アヴェントゥーラが登場するお話もあった。旅の神だけじゃなく、他にも神様がいっぱい出てくる感じだったね。向こうの世界でいう、北欧神話とか、ギリシャ神話みたいなものなんだと思う。ここに出てくる神々を崇めるような宗教もあるのかな。
ほかに目立った点はと言えば、同じ本が同じ筆跡で何冊も置いてあったことだね。この国が魔道具の国だって考えると、印刷の魔道具なんかがあるのかもしれない。ブランデンブルクの本はほとんどが手書きだから、ちょっと読みにくいんだよね。
イザベルが興味を持って入った店は、洋服店だった。そこで売っていたのは、この国の伝統衣装だという、ドレスとタキシード。なんでも、収穫祭で着るものなんだって。ドレスの方は普段使いも出来るデザインだけど、タキシードの方は無理そうだね。そもそも私は着られないから買わないけど。今後、昨日みたいな会食があった時に着られるように、ドレスの方は全員分購入。一目で私たちが仲間であるってことがわかるように、色やデザインを各々で変えながら揃えてみた。今から仕立てるわけだから時間は少しかかるみたいだけど、完成したころに取りに来ればいい。
仕立てを終えて、福屋から少し進んだところに、ようやく冒険者ギルドがあるのを発見。この町のギルドは結構、奥まったところにあるんだね。
「人が全然いないわね」
「昨日の話だとこの国の冒険者ギルドはそこまで栄えているわけではなさそうでしたからね」
「魔道具がたくさんあるから、大体のことは冒険者にわざわざ依頼しなくても、自分たちでなんとかできるんじゃない?」
イザベルのその指摘はもっともだ。軽い魔物とかだったら簡単に倒せちゃうんだと思う。依頼の掲示版もお使いとか採集みたいないらいばっかりだし。そう考えると、現在、軍が討伐しているらしい、強い魔物の討伐依頼なんかが個人依頼としてゴロゴロ舞い込んできそうだ。お金の稼ぎ時かもしれない。
「そうなのかもしれないね。討伐依頼もあんまりないし」
そんなことを話しながら受付に声を掛け、必要な手続きとやらを始める。ギルドカードを預けると、カードスキャナーみたいなものに通してすぐに手続きは完了した。これも魔道具なのかな。たぶん、昔からあるものじゃなくて、最近の職人が作ったものだと思う。ギルドカードなんてものが昔から存在しているとは思えないし。
「これで登録は完了です。ナハトブラオに滞在していることになるので、冒険者として登録した、ブランデンブルグとこの国以外では依頼を受けることが出来なくなります。強制依頼はナハトブラオで発令されたもの以外に強制召集の権限もなくなりますのでご安心ください。この国を出た場合は、また行く先の国で滞在の登録をお願いします」
なるほどね。よくわかっていなかった強制依頼のシステムが分かった。滞在登録している国で強制依頼が発生した場合、招集されるってことみたいだ。その代わり、ほかの国じゃあ依頼も受けられないよってことね。まあ、条件としてはトントンな気がする。
「さて、登録も出来たことだし、一度拠点に戻らない?一角獣の解体しないといけないし。こっちの国の観光は、明日からにしましょう」
確かに、そろそろ解体しておかないと、凍った一角獣が解けて腐り始めてしまうかもしれない。さっさと適正な方法で処理したいところだ。
「そうだね。一旦戻ろうか。二人もいい?」
来たばかりで帰るのは嫌がるかと思ったけど、そんなことも無く、すんなりと一時帰宅が認められる。昨日の夜はみんな帰りたがってたし、おかしいことでもないかな。人通りの少ない場所にワープポイントを作ってから、拠点にテレポートする。ナハトブラオ滞在二日目にして、一時帰宅と決め込んだ。
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