第百十一話 悪魔との契約
「この魔力、やはりあなたでしたか。こんな短期間で再会することが出来るとは、うれしい限りです。」
立ち込める白煙が晴れると、魔法陣の上に試験で倒した時の姿と全く変わらない、人間の男にしか見えないデーモンが立っていた。けがとかは無いみたいだから、私が消滅させた後、ちゃんと再生できたみたいだね。
「久しぶりだね、アグニ。君にとっては違うかもしれないけど。」
「おや、名前を憶えていてくれたのですね。私を名前を知る物は少ないですからそう呼ばれるのも初めてかもしれません。」
そもそも、デーモンの名付けって誰がするんだろう。人間みたいに親から生まれるってわけじゃないだろうし。
「まあ、そんな話はいいでしょう。後ろに精霊と魔導士を控えさせている、こんな厳戒態勢で、私を呼んだ目的を教えていただけませんか。」
アニとアルトの正体が分かっているのか。もしかして、鑑定とかが使えるのかな。
「別に取って食おうってわけじゃないよ。二人は私の仲間。精霊の方はアルト、魔導士の方はアニね。それで、あなたに頼みたいことなんだけど、この屋敷の警備を任せたい。」
「警備と言いますと、外部からの侵入を防いだりするあれですか。期間のほどは?」
「この屋敷を手放すまでだね。」
「実質無期限ですか。代償は高くつきますよ?」
代償?ああ、契約で支払う対価みたいなものだろうね。そう言えば、前に召喚された時も人間の魂をたくさん貰ったって言ってたっけ。向こうから召喚に応える言ってたわけだから、召喚自体に対価はいらないけど、何か契約するのなら、当然対価がいるってわけだね。イエレミアスと、マグダレーネにも何かそういうやり取りがあったのかな。
「何が欲しいの?」
アグニの要求を聞いてみる。人間の魂とか言われたらちょっと困るけど…
「そうですねえ…千の魂、と言いたいところですが、もっといい手段があります。貴方の魔力を定期的に頂くというもので手を打ちましょう。」
魂を集める方が大変そうだし、そっちの方がいいのはいいんだけど、全然高い対価には思えないね。
「それはいいけど、どうして?」
「デーモンが持つ魔力は負の魔力。あなた方が持つ正の魔力は我々にとって貴重です。それを取り込み続ければ、私はさらなる力を得ることが出来る。魂を取り込むのも似たような理由です。魔力の少ない人間からも魔力をと仕込むことが出来る効率的な手段ですから。」
なるほどね。魂を集めるのも、魔力を得るための手段だったわけか。
「そういうことね。じゃあ、とりあえず契約を結んじゃおうか。」
私が出した条件としては、許可のない侵入者の撃退と他者に危害を加えることの禁止。侵入者に関しては死体の処理をしてくれるならOKってことにしてある。もちろん普通の来客に対してそんなことされたら困るから、アグニに待機してもらう予定の守衛所に声を掛けてきた場合は、手出し禁止ということになっている。侵入者なら堂々と入ってくるってことは無いと思うからね。そもそも来客なんて竣工式でここに来る面々と何かを注文した時に来る商人なんかだけだと思う。商人以外は顔を覚えてもらえばいいし、その商人も何の知らせも無く来るってことは無いだろうから、それ以外の人は侵入者の可能性があるって感じで行動してもらうことになる。違っていた場合、問題だから手出し禁止ということにはしているけど、警戒するに越したことは無いからね。
使用人たちにアグニの紹介を終えたら、早速仕事についてもらう。他の使用人たちにはアグニの正体を伏せてある。見た目は人間の男にしか見えないから問題ない。不要な混乱を防ぐためだ。
「うまくいって良かったわね。」
これまでのことを静観していたアルトがそう言う。アニとアルトは交渉ごとに関しては、何か問題が無い限り口を挿んでこない。スムーズに進んでいいっていう面もあるけど、実は不満があるのかもしれないから、こういう言葉をかけてくれると安心する。
「うん。これで警備の方も問題ないね。」
ちなみに建築組合から派遣されていた人員は給金を渡して戻ってもらった。長い期間頼んでいたわけで大分多めに渡したから、それが感謝の印になってればいいんだけど。
「デーモンを警備に使うなんて史上初のことだと思いますよ。契約で縛っていなければ危なくて仕方ないですからね。」
そこまで危ないって感じもしないけどね。紳士的だし。
「デーモンは絶対に契約を破らないし、自分から反故にすることも無いから。あいつらにとって契約は重要なものなのよ。」
向こうの世界の物語とかでも悪魔は契約を重視するっていうのはありがちだ。これも向こうの世界とのつながりがあるっていう証拠になるかもしれない。いつか本格的に調査してみるのもいいかも。
「それなら安心ですね。」
とにかく、二人に異論がないみたいでよかった。
「さて、次はアニの召喚術の方だね。テンポよく行こう!!」
どうせならアニの方も進めちゃおう。
「が、頑張ります。」
「大丈夫。何かあれば、アルトが何とかしてくれるから。」
「そこは私がって言うところじゃないの?」
「もちろん、私も目を光らせとくけど。」
「大丈夫です。問題なんて起こしません。」
自信満々みたいだね。実行するって決めてから結構時間が経ってるから、情報収集とかイメトレとかしてたんだろう。
アグニ召喚に使った魔法陣を消した後、同じ場所に今度はアニが魔法陣を書き始める。私なんかより全然書くスピードも速い。きっと練習を重ねたんだろうね。あっという間に魔法陣を書き終え、今度は魔力を流し込んでいる。ここらへんの工程は他の魔法陣でも同じみたいだね。
「何も起こらないね。」
魔力を流し込んでから、少し経つけどさっきみたいに白煙が立ち込めたりってことは無い。
「見えていないのですか?」
アニは心底不思議そうな顔でこちらを見る。え?なんかいるの?
「アルト?」
アルトにも聞いてみるけど、顔を横に振るばかりで何も見えていないみたいだ。見えない何かがいるってこと?この前のダンジョンのことと相まってなんだか寒気がしてくる。アニの口ぶりから危険はなさそうだけど…
「…」
「え?」
アニが小さな声で何かを呟いた途端、突然何かの気配を感じた。だけど、姿は全然見えない。魔力探知にも反応は…ある。常人並みの魔力だけど、確かに感じる。これが召喚した相手ってこと…?この間と違って魔力探知には引っ掛かるけど、声は聞こえない。これじゃあ、アニに任せるしかないね。見えない召喚対象に不安を抱きながらも、私たちはただ眺めてことしかできなかった。
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