第六話 お披露目②

 マズイと思った時にはすでに手遅れ。鑑定が使えるという神父服を着たおじさんが私を観察するような視線を向け、いつの間にか取り出した羊皮紙に何かを必死に書き込んでいた。まるでトランス状態だ。


(なんとかならないの!?)

『無茶言わないでよ!!スキルに対抗できるのはスキルだけ…。一度発動したスキルを外部から止めるのは不可能だわ。あなたの持ってるスキルは浄化だけだし、この鑑定をごまかすことは不可能よ』

そんなこと言われても何とかしなければ私たちの人生設計が狂ってしまう。


(あの紙を水でびしょ濡れにするとかどう!?)

『そんなことしても何の解決にもならないわよ!新しいのに変えられるだけよ!!』


何も解決策が浮かばない中でも無慈悲に時間だけは過ぎていく。あーでもない、こうでもないと二人で言い合いしているうちについにおじさんの目に色が戻ってしまった。


「どうやら鑑定が終わったようです。では神父様読み上げをよろしくお願いしますわ」


そのとき広間の扉が勢いよく開かれた。


「母上!遅れましたがエーバルト・キースリング、オリーヴィア・キースリング共に参上いたしました」


空気を読まずに馬鹿でかい声でそう告げるとヅカヅカと私たちの方へ土地数いてくる一組の男女。何を隠そう名前だけは知っていた私の兄と姉である。


「あら二人とも。ずいぶんと遅かったのねえ。道中何かあったのかしら」

「少し街道が混雑していただけです。ご心配ありがとうございます」

「そう。それならよかったわ。皆様!!ご紹介いたします。ハイデマリーの兄であるエーバルト・キースリング、それに姉であるオリーヴィア・キースリングです。二人はハイデマリーのお披露目に伴い、学院から駆けつけてくれました」


簡単な紹介の後控えめな拍手が会場を包んだ。なんで拍手が起こるのか訳が分からない。この家の住人が返ってきただけのことなのに…


「では改めまして、鑑定結果を神父様お願いします」

『これはもうどうしようもないわね。あきらめて今後のことを考えましょう』


アルトさんもあきらめムード。面倒ごとを増やした貴族の慣習許すまじ。


「ではわたくしの方から読み上げさせていただきます」


そう告げた神父の目には驚きの色が見て取れた。


「名、ハイデマリー・キースリング。クラス、聖女」


その瞬間会場がざわめいた。


「聖女ってあの勇者と並ぶと言われている聖女か!?」

「まさか、まだ八歳の子供だぞ!?」

「王都にも聖女がいるって噂を聞いたことがあるが…」

「それはダニエラ様だろう?確かに彼女は聖女のような人だが、ただの修道女だ」


口々に騒ぐ貴族たち。二人の兄姉も心底おどろいたという顔をしている。


「皆様。静粛に願います。まだ鑑定結果は終わっておりません」


あの女の一声で会場は静寂に包まれた。


『やっぱりこうなったわね。これからもっと大変なことになるわよ』


不穏な言葉をつげるアルトさん。私は今後の作戦を考えるので頭がいっぱいだというのに…。


「では、続けさせていただきます。保有スキルは、浄化、契約。最後にハイデマリー様は精霊と契約しております。私からは以上です」


その瞬間ひときわ大きなざわめきが起こった。


「精霊と契約!?そんなことがあり得るのか!?」

「物語の中だけの話じゃないのか!?」


またもや騒ぐ貴族たちやっぱり精霊と契約っていうのはとんでもないことだったらしい。


「沈まれ!!」


おさまらない喧騒の中まるでメガホンでも使ったかのような大きな声が響いた。声がした周りから人が捌ける。そこにいたのは第一王子であるディートフリート・ブランデンブルグだった。王子は私たちの方へゆっくりと歩みを進めている。


(なんか嫌な予感…)

『あたしも同感』


私たちの目の前に立つと私とあの女に視線を向ける王子。


「キースリング伯爵。今回の鑑定を鑑みるに、ハイデマリー嬢はとんでもない逸材のようだ。そこで、一度ハイデマリー嬢には王宮へ足を運んで頂きたい」

「大変光栄なお話なのですが、それはなぜでしょう?」


あの女が答える。


「伝承によれば過去に聖女の存在が確認されたのは、約三百年前。そのため、この国での聖女の扱いというのが全く決まっておりません。勇者のような特権を与えるべきなのか、国からの支援は必要なのか。そういったことをご相談したいのです」


国からの支援と聞き、あの女の目の色が変わった。¥マークにでもなっているかのようだ。


「そうですね。承知いたしました。後日王宮へ伺わせていただきます」

「では後日、使者を送りますので日程等ご確認ください。では本日はこれで失礼します」


そういうと王子は従者を連れて広間を後にした。これから王宮側でもいろいろと打ち合わせることがあるんだと思う。


(やっぱりものすごく面倒くさいことになったね。)

『このままじゃ一生首輪をつながれた生活よ。何とか対策を考えないと…』


そう言うと押し黙ってしまったアルトさん。


「では、これにてお披露目の儀は終了となります。皆様本日は本当にハイデマリーのためにありがとうございました。ささやかですがお土産もご用意しておりますのでよろしければお受け取りになっておかえりください」


こうして面倒ごとだらけのお披露目は幕を閉じた。

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