第十一章 神々の扉

第百四十六話 宗教都市

 あの後、拠点に戻って私とお父様がしていた話をアルトたちに詳しく話した後、再びナハトブラオへ向かうということは無く、午後はお休みということになった。最初は素材を売るだけの予定だったのに、色々なことが起こりすぎて、精神的にくたくただったからね。


 しばらく休憩したら、通信の魔道具を使ってオリーヴィアに連絡を取った。もちろん、お父様のことを伝えるためである。途中で向こうが持っている魔道具の魔力切れを起こしてしまい、起こったことを全部伝えるのは無理だったけど、失踪したんじゃなく、追い出されていたってことや国外永久追放になっていることなんかは伝えることが出来た。状態維持の魔道具を使ってたことから、何かしらの魔力補充手段を持っているのかと思ってたけど、そこまで自由がきくものじゃなさそうだね。今度聞こうとしてたのに、聞きそびれちゃった。まあ、あと何日かで学院から戻ってくるって言ってたし、その時にでも会いに行けばいいかな。魔力補充もその時でいい。




 さて、そんなわけで、翌日である今日。いいとは言えない空模様の中、私たちは旅を再開することにした。目指すは、ナハトブラオの首都だ。この国で一番栄えている場所に行けば、魔道具もたくさん売っているだろうしね。どんな面白いものがあるか今から楽しみだ。


 「えっと、次の町までは…」


イザベルが先ほど手に入れた地図と睨めっこしながらそう呟く。


「車で移動すればすぐの距離ですね。聞いた話では、宗教都市のようですよ」

「宗教都市?また変なことに巻き込まれないかしら…」

「大丈夫だと思いますよ。例のドラゴンを信仰している、ドラッヘン・ホルト教とは似ても似つかない多神教らしいですから」

「そもそも、神を信仰している宗教って言うのが珍しくない?」


今まで聞いてきたのは、ドラゴンや勇者、真実なんていう概念的なものを信仰しているものまであった。普通のって言ったらおかしいのかもしれないけど、神様を信仰する宗教を聞いたのはこっちでは初めてかもしれない。


「そんなことないわよ。今まで触れる機会が無かっただけで、結構あったはずだわ。まあ、私が湖から出られなくなる前の話だけど」

「大昔じゃん」

「昔は信仰が重要視されている時代もあったと、以前何かで読みました。そのころの話ではないですか?」

「今は神への信仰が薄いってこと?」

「はい。時代の移り変わりとともに、そう言ったいわゆる実在が確認できないものへの信仰から、実在が確認できている、ドラゴンや勇者へ移り変わっていったみたいです」

「じゃあ、もしかしたら、この国の宗教は古の宗教なのかもしれないね。わたし、ちょっと楽しみになってきたかも」


イザベルは神様の興味があるのかな。


「どこかに精霊を信仰している宗教は無いのかしらね」


アルトは自分が崇められたいとでも思っているんだろうか。あってもおかしくはないと思うけど、私がその精霊ですなんて出て行っても、誰も信じないと思う。いや、鑑定を使われればすぐにわかるのか。となるとホントに信者に崇められた生活を送ることが出来るのかもしれないね。


「もし、あったらどうするの?」


ちょっと気になったから聞いてみた。


「自分が崇められているなんていい気分になるじゃない」


なんだ。別に何か目的があるわけじゃなくて優越感に浸りたいだけみたいだね。悪徳宗教の教祖みたいになりたいわけじゃなくてよかった。


「勇者を信仰するものがあるくらいだもの。聖女を信仰する宗教もあるかもしれないわよ」

「どうだろうね。聖女は意図的に発生しにくくされてるクラスだから…」


私的には、自分を信仰している宗教なんてない方がいい。見つかったら面倒なことになりそうだし。まあ、少なくとも、ブランデンブルクには無いと思う。もしあったとしたら、信者が押し寄せてくるだろうし。貴族の間では、私が聖女だってことは知れ渡っているみたいだしね。


 そんな話をしているうちに、町から少し離れ、人通りの少ない場所までたどり着いていた。ここからなら車を出しても問題ないかな。


「とにかく、その宗教都市ってとこに行ってみよう。どんな場所なのか気になるし」


収納魔法から車を出しながら皆にそう声を掛ける。今日の運転は私だ。まあ、勝手に運転席に乗り込んだだけなんだけど。


「じゃあ、飛ばしてくよ!!」


雨が降り出す前に到着したいからね。こっちの世界の道は石畳が引いてある街道以外、整備されている道が無いから、雨が降ると地面がドロドロになって路面状況が最悪になる。洗浄魔法できれいにできるとはいえ、車も汚れちゃうしね。

みんながシートベルトを締めたのを確認して、アクセルを踏み込み、一気に走り出す。宗教都市に向けて出発だ。





 そこから二時間に満たないくらい車を走らせ、宗教都市に到着し、検問を抜けて中に入る。この検問を抜けるのが大変だった。私たちの身分証である、冒険者ギルドのギルドカードが偽物だと難癖をつけられた。なんでも、見たことのない色をしているだとか。Aランクの身分証を見るのが初めてだったんだと思う。その証拠に、ランクが低いイザベルだけはスムーズに検問を突破することが出来たからね。私たちがごねている間に、検問をしている兵士の一人が、冒険者ギルドへ人を呼びに行ったらしく、呼ばれてきたギルド職員の執り成しのおかげで、私たちも中へ入ることが出来た。いくら高ランクの冒険者が少ないからっていっても、まさか、身分証すら見たことが無いとは思わなかった。


「まさか町に入るだけでこんな大ごとになるなんて…」


私たちがなかなか中に入れなかったことで、入町待ちの行列が出来てたし、後ろの人たちにはちょっと申し訳なかった。


「まあ、入れたんだからいいじゃない。今は新しい場所を楽しみましょう」


アルトのその声で、私たちは町を見てまわることにした。幸い、雨も降ってきていないしね。




 町の中は、王都の貴族エリアと同じで、白い建物が多く見られた。普通の住居までが白いってわけじゃなくて、教会のような建物がいたるところに建っているからそう見えるんだと思う。道の隅でいきなり祈りをささげているような人もいるし、いかにも宗教都市って感じだ。


「あそこの教会が、この都市の宗教―ゼーゲン教の総本山らしいわ。さっきのギルド職員が言ってた」


アルトが指を差す先には、辺りに建っているものと比べ、ひと際大きな教会が見えた。建物だけの規模を見たら、うちの拠点と似たようなものかもしれない。相当力を持っているみたいだね。


「すごい人だね」


イザベルの言う通り、その教会に向かって人がどんどん流れていく。普通の恰好をした人だけじゃなくて、銀の鎧を着た団体や、冒険者らしき人が何人もいる。


「さっきの話だと、あの教会、いろんなものを売りに出してるみたいなのよ。自身の宗教の聖典は言わずもがな、吸血鬼に効果のあるおお守りとか、アンデットを倒すための聖水とかね。それを買いに行く人が多いんじゃないかしら」

「教会が物を売る…?そんなことしていいのでしょうか」

「この国では普通なのかもしれないね」


ブランデンブルグの宗教団体は、お金を得るような行為、要するに商売をしてはいけないってことになっている。その代わり、税を免除されているからだ。そのため、運営は寄付や補助金で賄っているらしい。


「ちょっとあたしたちも見に行ってみましょう」


どこに興味を持ったのか分からないけど、アルトが教会へ向かう人の波に流されるように向かっていった。そうなれば私たちも着いていくしかない。中がどうなっているのか、どんな人がいるのかも少し気になるし、丁度いいかもね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る