閑話 ドラゴン王の目的
まさか、あの聖女と勇者に面識があったとはな。それだけに飽き足らず、こちらに勇者を引き込もうなどと…まあ、私の目的を達成するには好都合だと捉えておこう。何せ、あの勇者は私が逃がした爺様を殺した。必ず仇を打たねばならない。
本来ならば、知能を失ったドラゴンを処分するのは王である私の役目だ。だが、爺様を処分することなど、私にはできなかった。王位継承権が最も低かった私にドラゴン王のクラスを引き継がせることが出来るよう、育ててくれたのは爺様だ。まあ、最初は私を利用して権力を得ようとしているのかと思ったことだが。だがそうではなく、ただ単に私の願いを叶える協力をしてくれていただけだった。言うなれば恩人だ。それを処分するなど私には無理だったのだ。
だから私は、他のドラゴンの手が及びにくい、人間の世界に爺様を逃がした。もちろん、そちらの世界に迷惑が及ばないように対策はした。ある程度、人里から離れた森の中に彼の巣を作った。一番近くの村でも精々鳴き声が聞こえるくらいの影響しかないのだから十分な対策だったであろう。もちろん、行動範囲も制限した。森の中を動き回れる位にな。後は、自由気ままに、穏やかに暮らしてくれればいいと私は爺様に別れを告げ、ドラゴンの国へ戻った。
それから数か月が経った頃、久々に爺様の様子見に行こうと、人間界に渡った時には、爺様の姿はすでになかった。どこかへ移動したとか、そう言うことでは無い。巣の周りには明らかに戦闘の痕跡があった。狩られた。私はそう確信した。爺様の遺体なんかは一切残されていなかったが、そう確信があった。きっと、命を奪われた後、素材としてすべてを持っていかれてしまったのだろう。人間とは欲深い。残された者に悼む権利すら与えぬとは…必ず、爺様を捕らえたものを見つけ出す。必ず――
幸運なことに、爺様を害した者を見つけるのにそう時間はかからなかった。その舞台すら、聖勇戦争という世界の理のおかげで整えられた。聖女が仲間に引き入れようとしたのには驚いたが、まあ、いいだろう。信用を得た後の方が、簡単に進みそうだ。背中から刺すのは容易だからな。だが一つ、勇者について調べたことにより、確認せねばならぬことも増えた。思考誘導を受けている勇者が自らの意志で爺様を殺したのか、それとも誰かの意志に操られていたのかということだ。まあ、どちらにしろ勇者を処分するのには変わりない。対象者が増えるのか、勇者一人に留まるのかそれだけの違いだ。
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