第百九十五話 ソプラノとの接触

 拠点へと戻った私たちは、イザベルや情報収集を頼んでいたエーバルト、オリーヴィアにドラゴンの国で得た情報を説明し、今後の方針を打ち出した。まあ、とりあえずはヘレーネをこちらに引き抜くために、ソプラノと接触する方針でいる。渡す情報の精査は終わっているし、早速接触したいところだけど、アルトに思うところがあるらしく、二人で少し話し合うことになった。


 「一応、勇者と契約しているあいつも、あたしたちのことを警戒しているかもしれないから、こっちも何か対策を取っておいた方が良いわ」

「いや、でも精霊への対策って何したらいいわけ?それこそ武力行使なんかしたらホントに敵対したって思われちゃうだろうし…それに、こっちが何かしたとしても、ソプラノの知識があれば簡単に無効化されちゃうんじゃない?だったらいっその事、このまま接触するのも手だと思うけど」

「うっ…」


言葉を詰まらせるアルト。おそらく、アルトも出来ることはほとんどないと分かってはいるんだろう。私たちが何をしたところで、ソプラノはそれを越えてくるそんな確信があった。それでもアルトがソプラノを警戒するのは、同じ精霊だからこそのものだろう。他の精霊が嫌いって言ってたし、それも関係しているかもしれないけどね。


「まあ、すぐに離脱出来るくらいの対策は取っておいてもいいと思う。もし、何かあるようなら、私の新スキル―魅了をかけてみてもいいし。このスキルならまだ、ソプラノも私が習得したことを知らないだろうから、通用すると思う」


魔法以外の離脱手段も確保しておくべきだよね。こんなことならスキルの方のテレポートを教えてもらうべきだったかも。まあ、この間、遊びで作った二つのものの位置を入れ替える魔道具を持っていけばいいか。一つを拠点に置いておいて、入れ替える物の登録を私たちにしておけばいい。いや、よく考えてみると、逆にここで会うことにした方が向こうに、こちらが信用しているということを示せるかもしれない。なにせ、私たちの本拠地に招き入れることになるわけだし。それとも、罠だとか思われるかな。何なら、場所は向こうに指定してもらうとかにした方が…


「アルト、とりあえずソプラノに声を掛けてもらっていい?場所は向こうに指定してもらおう。そっちの方が話が早そうだし」

「本当にいいのね?」

「うん。頼むよ」


恐らくテレパシー的なものでコンタクトを取っているんだと思う。雰囲気が私たちとそれをする時と似たものになる。


「すぐに会えるそうよ。場所は―」

『やあ。早速来たよ』


アルトが場所を言うよりも早く、その声は私の頭の中へ響いた。


「ソプラノ!?」

「…ここよ」


遅まきながらアルトがそう言う。結局ここで話すことになったのか。まあ、正直場所はどこでもいいからいいんだけど。場所を入れ替える魔道具は役に立たなそうだ。


『それで早速だけど、君たちが僕にくれる情報は何?』


少し疑わし気な視線を向けてくるソプラノ。おそらく、こちらが何を言い出すのか測りかねているのだと思う。


「私たちは、ヘレーネを―勇者を聖陣営に引き抜こうと思うんだけど、彼女に会わせてくれないかな?」

「やっぱり、ヘレーネが勇者であることも、僕と契約していることも知っていたか…でも、それは出来ないね。今のところ、そちらの陣営に移る利が無い。聖陣営の状態は調べてある。強いて言うなら、特権持ちが三人揃うってことだけど、正直それにそこまでの魅力も無い。新たなスキルに人員補充だろ?三つ揃えた所で…」


やはりこちらの陣営の状態は知られてしまっているらしい。まあ、こっちも調べているんだから、向こうも調べていて当然だ。


「こっちに付いてくれるなら、いや、ヘレーネと会わせてくれるなら彼女が今置かれている状況について重要なことを教えられる」

「彼女なら今、王城で穏やかに過ごしているよ。鍛錬を積みながらね。彼女のことなら、君なんかより僕の方が―」

「彼女に危険が迫ってる。割と早めに手を打たないと―」

「どういうこと?…確か君、この国の王家とは対立していたよね。王家に勇者を取り込まれたくないとかそういうこと?」

「別にそれはどうでもいい。あんな奴ら滅ぼそうと思えばすぐに滅ぼせる。ヘレーネがいようといなかろうとね。まあ、面倒になるとは思うけど。って、そんなこと、今はいい。私がヘレーネを引き抜こうとしているのは、彼女を助けたいからだよ」

「助けたい?君はあんな陣営の状態で勇陣営に勝つつもりなのかい?」


どうやらソプラノは、勇陣営が敗けることによって起こるクラス、スキル、魔力の剥奪からヘレーネを助けようとしていると思ったみたいだ。


「そうじゃない。私が助けたいのは王家から―対立している権力からかな」

「どういうことだい?」

「ヘレーネは今、勇者を引き入れて私に対する対抗手段としようとしている派閥から洗脳を受けている。と言っても、周りに悟られないように思考を誘導するくらいに抑えているらしいけど」


私のその言葉でソプラノの瞳に驚愕と納得の色が映るのが分かった。


「…なるほど。だから彼女はあんなことを…情報提供感謝するよ。彼女に掛かっている

洗脳を解いたら必ず君に合わせると約束する。ああ。そうだ。ブラックリリーのことももういい。代わりになるものが見つかったから。じゃあ、失礼するよ」


そう言い残し、再びソプラノは姿を消した。


「ホントに風のような奴ね。要件済ませたらさっさと帰っていくんだもの」

「アルトはもっとソプラノと話したかったってこと?」

「冗談でもそんなこと言わないで!!」


本気の不快を表すアルトの叫びが二人になった部屋の中に木霊した。

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