間章七話 討伐準備

 「其方、冒険者になりたいのか?」


ヘレーネの父の言葉の裏にどんな意味が隠されているのかは僕には分からない。だけど、そんなに気に障ることだったのかな?そもそも、なぜ僕たちが冒険者ギルドに行ったことを知っているんだ?


「いえ、そういうわけでは…」

「だが、冒険者ギルドを訪れたのであろう?ギルドから連絡があった。そちらの令嬢が来ているとな」


ああ。だから知っていたのか。でも、ギルドの方もなぜわざわざ伝えたんだろう。


「言ったであろう?其方が冒険者になるなど許すことは出来ないとな。多少魔法が使えると言っても、其方はいわゆる、箱入り娘だ。冒険者として生活するなど、無理に決まっておろう。そもそも、貴族が冒険者に落ちるなど、家の評判がどれだけ下がるか…ハイデマリー様のようにと考えているかもしれないが、あの方は特別だ。秘密裏に冒険者になられているし、たとえ知れ渡ってしまったとしても、数少ないAランク冒険者だ。有利にしか働かないだろう」


ハイデマリーって、あのハイデマリーだよね。彼女結構な有名人なのか。聖女の力があれば、まあ、当たり前か。


「いえ、ですからお父様。わたくしは冒険者になろうとなど思ってはいません。確かに、幼いころは憧れていましたが、今は全くそんなこと考えておりません。今日、冒険者ギルドに行ったのも、魔法の練習をしていたところ、魔物を何体か巻き込んでしまい、その処理のために訪れたのです。人間が手を下した魔物の亡骸には、他の動物や魔物が寄り付かないですからずっとその場に残ってしまうのです。処理しなければ病原菌の温床となったり、アンデット系の魔物となり、被害を生むなど別の脅威となる恐れがあると学院で習ったので…」


上手い言い訳だ。確かに、魔物の死骸を放置してアンデット化したという事例はある。それに、冒険者ギルドへ魔物の素材を売りに行ったというのも、自力で稼ぐことに対して忌避感がある現状では言い難いだろう。


「なるほど。そう言う理由だったのか。今後そういうことがあっても、わざわざ其方がギルドへ向かうことは無い。こちらから使者を送り、処理させればよい」

「分かりました」

「うむ。では夕食までに入浴を済ませてしまいなさい。森へ行ったのであろう?」

「そうさせていただきます」




 話を済ませた後、入浴と夕餉を済ませヘレーネは床に就いた。この館は灯りの魔道具が多く設置されているわけでは無いようで、割と早い時間に就寝するみたいだ。僕は特に眠る必要もないため、ヘレーネが出来る今後の金策について考えることにした。魔物の素材を売れないとなると、何か考えなければいけない。まあ、それもドラゴンを討伐するまでの間のことだと思うけど。それさえ済んでしまえば大きな実績が出来るわけだから、後はどうとでもなる。僕がその間、お金を用意してもいいんだけど、できれば自分で稼ぐことの苦労というか、重要性を知ってもらいたい。僕に頼りきりになるというのも、彼女の成長を考えるとよくない気がするし。一応、彼女は僕の弟子みたいなものだしね。


 さてどうしたものかと考えを巡らせて、朝までに思いついた案はというと、魔力を売るという案だった。最近は魔力持ちが少なくて、魔道具の需要と魔力の量が釣り合っていないからいい商売だと思う。たしか、普通に存在している職業だったはずだし、始めるのにもそこまで苦労しなさそうだ。たしか、魔道具ギルドに登録すればいいんだっけ?この町に魔道具ギルドがあればいいけど…


 「これからは魔力を売ろう」


翌日、特にやることも無いらしく朝食を終えた所で、今日も魔法の練習をするという名目で、ヘレーネと二人で外出をしていた。今日は昨日と違って森に行くわけでは無く、町の方に向かう。魔道具ギルドがあるかも確認したいしね。もちろん、昨日の今日で町に出てきては、また何かしらで男爵に伝わり文句を言われたらヘレーネがかわいそうだから、姿がはっきり認識できないように阻害する魔法をかけてあげた。目立たない、どこにでもいるような人間に見える魔法だ。まあ、割とありきたりな魔法だね。


「いや、何がどうなって、そうなったの?」

「だって、魔物の素材を売りに行けないから、何か他の金策をと思ってさ」

「そんなにお金って重要?」

「いや、だってこれから装備なんかもそろえていかないといけないわけだし、何かと必要だよ」

「装備って剣はあるわけだし、鎧とか?」

「そんなの着たって、慣れてないと重くて動きづらいだけで、全く意味ないよ。僕が言う装備って言うのは、基本的には魔道具かな。魔法で発動するよりも、魔道具で済ませた方が良いものもいいんだよ。発動するまでが早かったりとか、呪文を使う物はそれを省略できたりね。戦闘面だと、それが勝敗を分けることもある」

「なるほど…じゃあ、魔道具を買いに行くの?でも、この町は、甘味の町だから魔道具の店なんてないよ」

「まあ、その前に魔力を売らなきゃだから魔道具ギルドに―」

「魔道具ギルドも当たり前だけどないよ。売る店が無いんだからあったところで全く意味ないし」

「じゃあ、王都にでも行こうか」

「昨日帰ってきたばかりなのに…」

「まあ、僕の魔法なら一瞬で移動できるから平気だよ」




 一週間後、魔道具やもろもろの装備の準備が完了し、ドラゴン討伐をするために必要なものは、心構えだけとなっていた。

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