間章八話 VSドラゴン①
さて、今日はいよいよドラゴンの討伐だ。今回の個体は、この町から随分と離れた場所に巣を作っているみたいだけど、僕の魔法があるから移動のことは考えなくていい。なんなら討伐さえ済んでしまえば、日帰りも出来る。どれくらいの時間で倒すことが出来るかは分からないけどね。ちなみに今回は、ヘレーネだけの力で討伐を目指すことになっている。彼女の力がどれくらいなのかを測ることも目的だからね。さすがに、そこら辺にいる魔物なんかを倒しただけじゃ分からない。力の差がありすぎて一瞬で始末が付いてしまうからね。まあ、危険があれば僕も助太刀するつもりではある。死なれると僕の計画がダメになるし。
「じゃあ、行こうか」
屋敷から突然瞬間移動すると、発覚した時に使用人なんかを大騒ぎさせることになるというヘレーネの言葉で、いつもの魔法の練習という名目で外に出てそこから移動することにした。突然家からいなくなっていたら、大騒ぎになる可能性があるって説明されれば、その必要性も理解できる。それを考慮したわけだ。
「ちょっと緊張してきたわ…」
ドラゴンの巣から、近からず遠からずの森の入り口へ移動を終えた後、ヘレーネがそう呟いた。
「ある程度緊張感がある方が、油断しなくていいんじゃない?」
緊張のせいで身体が凝り固まって、いつも通りの動きが出来ないということもあり得るけど、見た限り、そこまで深い緊張状態になっているようには見えない。これならそこまで気にすることも無いと思う。
「そうかしら…」
「そうだよ。それより、魔道具の使い方は大丈夫?」
今回の討伐にあたり、僕はいくつか魔道具を作った。というか、王都の魔道具店を見に行ったけど、先頭に役立ちそうな魔道具は売っていなくて、材料を買って僕が作るしかなかった。一番手に入れるのが難しい魔力炉は手持ちにいくらでもある。昔、大量に集めておいてよかった。
まず作ったのは、人里に近いということで、隠蔽と、人払いの魔道具。これは一定の範囲に作用し、騒ぎを聞きつけて、人が集まってくることを防止するため。二つ目は、烈火の魔道具。投げると辺りを火の海にすることが出来る。もちろん、込められた魔力の質を記録するようにして、使用者には被害が行かないようにしてある。森や植物を巻き込む可能性もあるけど、これも効果を及ぼすのは一定範囲だけだから、森を焼き尽くす心配もない。三つ目の魔道具は、魔力を吸い取る魔道具。これを作るのが一番簡単だった。だって、何の効果も持たない空の魔道具に、魔力を強制的に込めさせるようにするだけだからね。これは、相手に投げつけて使うようにすれば、ヘレーネに被害が行くことは無い。最後は、属性付与の魔道具。これは、魔法属性である、風、水、火、雷の性質をオリハルコンの剣に付与することが出来る魔道具だ。普通、そんなことしたら、剣と方が耐えられないけど、オリハルコンの剣なら耐えられる。簡易的な魔宝剣の完成だ。まあ、これを全部作るのには、結構な手間がかかった。楽しかったからいいけど。
「完璧よ」
「じゃあ、行こうか。大きな魔力反応があるの分かる?」
そう言うと、少し集中した面持ちで、ヘレーネが魔力探知を発動するのが分かる。ヘレーネの魔力探知の精度は、並み以上ってところで、そこまで高くはない。でも、対象がドラゴンで、莫大な魔力を体内に内包しているのなら、さすがに探知できるはずだ。
「うん。少し離れたところに大きな反応がある。でも、そんなに強そうには感じられないわ」
ドラゴンに強さを感じられない?正確に魔力探知できていないのかもしれない。
「それホント?」
「ええ。だって、ソプラノの方がよっぽど…」
「ああ。なるほど。僕と比べたからそう感じるのか。魔力だけで見たら、確かに僕の方が上だよ。でも油断はしない方が良い。ほぼ最弱の個体とはいえ、相当な強さがあるはずだから」
そう言うと、ヘレーネが気を引き締めたのが分かった。
あれから三十分ほど進んだところで、酷く鼻につく獣臭さと腐臭を感じた。ドラゴンの巣にほど近い場所まで来ている証拠だ。ドラゴン自体の獣臭さと、捕食した動物なんかの食べ残しが腐った臭いだと思う。魔力反応的にも間違いはない。
「だいぶ近づいてきたから、ここからは慎重に進もう。大きな音なんかは立てない方が良い。普通のドラゴンなら、魔力反応で探知してくるけど、今回の個体は知能を失っているからそこは気にしなくていいよ」
小声でそう声を掛け、慎重に進んで行くと、少し開けた場所にドラゴンがいた。全身を緑の鱗に囲まれた、巨体。一般家屋数軒分ほどはある。眠っているとか、そんな都合のいいことは起こらず、黄色く濁った瞳はギンギンに開かれている。
「まずは、人払いと隠蔽の魔道具を…」
ドラゴンに相対しても、手順は忘れていないようでヘレーネが魔道具を作動させる。さて、お手並み拝見だ。
発動を確認すると、今度は烈火の魔術具と、魔力を吸い取る魔道具を投げつける。まずは魔道具を使って攻め立てる作戦らしい。魔道具の攻撃ラッシュにドラゴンの方は混乱しているっぽい。周囲をしきりにキョロキョロとしながら、こちらの鼓膜を再起不能にする勢いで、とてつもない音量の咆哮を上げている。うるさい。耳栓でも用意しておけばよかった。
「じゃあ、行ってくる!!」
ドラゴンの咆哮にかき消されつつ、ヘレーネは大声でそう言い、風の属性を付与したオリハルコンの剣を構えて飛び出していった。その速度は、到底人間のものとは思えないもので、勇者としての恩恵を受けているのが見て取れる。これは意外と余裕かもしれない。
ドラゴンの背後に回り込んだヘレーネが、ものすごい跳躍でドラゴンの首元に斬りかかろうとするが、それを察知したのか、紙一重で避けられる。が、少し掠っていたようで、若干の血しぶきが見て取れた。それで、ヘレーネのことを敵として認識したのか、ドラゴンの瞳に、ヘレーネの姿を捕らえたのが見て取れた。
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