第七十八話 目覚めと再会
あの後、防衛策について少し詰めた後、侯爵家の近くまで飛んで行って、ワープポイントを創ってきた。これがあるだけで、攻めるのはだいぶ楽になる。何人かなら連れていけるしね。その時、ちょこっと様子も見てきたけど、誰もが忙しなく動いている感じだった。着実に準備を進めてるってことだね。
防衛については、エーバルトが兵を出すってことになった。町の衛士隊だけだから、そんなに数はいないみたい。要するに、衛士たちが戦う状況になれば、敗北は確実で、そのまま占領される可能性が高いってわけだ。となれば、なるべくこちらに近づかれる前に、仕掛けたい。進軍中のタイミングで討つつもりだったけど、進軍開始と同時に挑むということにする。となれば、進軍のタイミングを知るために偵察を出す必要がある。そんなわけで、衛士隊の一人を偵察に出したわけだ。連絡手段としては、創造魔法で創った使い捨ての魔道具を使う。二つ一組の札みたいなもので、一つを破り捨てると、もう一つも同じ状態になるっていう感じだ。これが破られたら進軍が開始されたという合図になる。それと同時に攻撃開始っていうわけだね。
そして現在その翌日の早朝。アルトが目を覚ましそうな兆候を受けて、アニと一緒に湖まで来ていた。依り代である湖全体の魔力が一気に膨れ上がっている感じがする。契約で生まれた繋がりを通して感じる、アルトの気配もどんどん濃くなっている。
「きっともうすぐですよ。」
朝日の反射とはまた別の光を宿す水面を眺めながら、不安そうに呟くアニ。その一言は自分に言い聞かせているかのようだった。
「うん。」
ここで私が何か言ったとしても、気休めでしかない。今はただ待つことしかできないのだから。
そこから、アルトの気配はどんどん大きくなっていくのに、姿を現すことは無いまま、だいたい三時間が経過した。もはや、魔力の反応も気配も、今までのアルトと同じ規模まで大きくなっている。その影響なのか、周囲の魔力もどんどん濃くなっているみたいだ。
「出てこないね…いっそのこと、潜って探してみようか。」
「アルト様が、湖の中にいるのは確かですけど、沈んでいるというよりは溶け込んでいるという感じですからね。私には湖そのものがアルト様の魔力を放っているように感じます。」
言われてみれば、確かにそうかもしれない。魔力を感じるっていう面ではすでにアニに抜かされちゃってるね。大きな魔力や、概念的な魔力は、魔力探知をしなくても感じることが出来るけど、やろうとしないと無理だ。その点、アニは無意識に常にアンテナを張り巡らせているような状態。特に意識することなく、魔力反応が分かるって感じらしい。場所や大きさを詳しく知るにはやっぱり魔力探知をしないと無理みたいだけどね。
「お嬢様、魔物の大群が近づいてきています。十や二十じゃありません。文字通り大群です!!」
そう言われて、魔力探知をしてみると、確かに多くの反応がある。百匹なんて優に超えているだろう。
「もしかして、湖の魔力につられて…」
今まで現れていなかった魔物が急に集まってくる原因なんて、それくらいしか考えられない。
「一旦、離れましょう。さすがにあの数は危険です!!」
一体一体に脅威が無くても、あの数は不味い。湖に引き寄せられてるわけだから、人が住む地域に出てくることも無いだろう。だったらここは撤退…
「いや、ダメだ。もうすぐアルトが復活するのは目に見えてる。その直後はすぐ戦える状態じゃないかもしれない。ここで逃げたらアルトが危険にさらされる。」
脳裏をかすめた嫌な予感。その正体を口にすれば、無視してはいけない可能性だと理性が告げてきた。
「分かりました。それなら、討伐するしかありませんね。」
ハッとした表情を浮かべ、そう言うアニ。
「屋敷に使っている、障壁魔法を使えたらよかったんだけどね。設置箇所を増やすと、一気に弱体化しちゃうんだ。」
ここにも、設置したとしても、あの数で攻められたら、簡単に突破されちゃうと思う。
「しかも、森の中だから威力が強すぎたり、大規模なのは使えない。結構骨が折れそうだね。」
もう目前と言っていい距離まで近づいてきている魔物の大群。戦闘を走る魔物の一体を小規模爆撃で吹き飛ばすと、目の色を変えたように、私たちの方へ突撃してくる。連続で爆撃を放っていると、やはり、周りの木々が燃え始めてしまった。今度は水魔法を使って消火。その間にもどんどん襲い掛かってくる。これじゃあ、爆撃魔法を使うのはよくない。だからと言って、水魔法だと倒すまでに時間が掛かりすぎる。それならばと身体強化魔法で殴り飛ばしてみる。だけどすぐに起き上がり、こっちに向かってくる。基準が私本来の筋力だから、魔物を倒せるほどの力が無いのか!!これじゃあ、さすがに分が悪い。アニは大丈夫だろうかと、視線を向けると、電撃の魔道具を使って攻撃している。私が教えた方法だ。この状況を考えると、濡らすことさえできれば、一気に感電させることが出来るから、有効性はばっちりだね。となれば、私も水を使えば、その範囲を増やせる。水魔法と相性のいい魔法も持ってるしね。
私が出せる最大の水を放出する。水の流れに私たちが巻き込まれないように、雨のように降らせる感じだ。境界は私とアニのライン。いきなり振り出した豪雨を気にもかけず、相変わらず私たちに突っ込んでくる魔物。だけど、それもここまでだ。
「冷却魔法!!」
その魔法を使った瞬間、魔物たちは急速冷凍され、カチコチに凍ってしまい、動くことは無くなった。だが、その安心もつかの間、凍った魔物たちを突進で砕きながら、さらに突撃してくる魔物たち。
「限がない!!」
何度凍らせても、際限なく現れる魔物。二度目以降は、体温が高い魔物が現れたのか、凍らない魔物も増えてきた。その取りこぼしはアニが狩ってくれてるけど、こうも魔法を連続使用していては、アニの魔力が尽きるのも時間の問題――
「うっ」
その時、私の視界が急激に狭くなり、体がフラつく。立ち続けることもできずに、膝をついてしまった。不味い。このままじゃいい的だ。
「お嬢様!!」
近くにいるはずのアニの声も、遠く離れた所から聞こえてくるみたいだ。とにかく、立たないと――あれ、足に力が入らない。もしかして、毒?いや、あり得ない。浄化の力があれば毒は無害。こんなに魔力の濃い場所で、魔力切れもあり得ない。違う。限界を迎えたのは、私の体力だ。前世を含めても、体験したことのないような、圧倒的疲労感。魔法の連続行使がここまで体力を使うなんて…
体は思うように動かなくても、頭の方は冴えている。妙な感覚だ。視界が狭くなっているせいか、すぐそばに迫る魔物の顔もはっきりは見えない。ランナーズハイを通り過ぎた後みたいな状態だと思う。このままだと、意識を失ってしまう。何とか庇ってくれているアニの魔力も限界だ。仕方ない。立てないだけで魔法は使えるはずだ。アルトは心配だけど、一度戻るしか…
「ア…ニ…」
口から出るのはかすれた壱岐のような音だけで、思うように声も出ない。テレパシーなら…
(アニ!!私、体力の限界みたい。アルトは心配だけど、一旦戻ろう。アニも限界でしょ?)
テレパシーは問題なく作用したけど、頭が重い。魔法を使う上で重要なイメージに支障を来すのも時間の問題だ。
『やっと繋がった!!』
帰ってきたのはアニの声じゃなく、もう一つの聞き馴れた声。
(アルト!?)
(アルト様!?)
テレパシーなのに声が揃ったかのようなそんな感覚。
『話は後よ!!湖の魔力の流れが悪くて出られない!!水面に魔力の塊を打ち込んで!!』
アニの魔力は限界だ。私がやるしかない。幸い、魔力を打ち出すだけなら、イメージする必要もない。動かない体に鞭を打ち、最大火力の魔力弾を湖に打ち込む。その瞬間、真っ白な強烈な光とともに、水面が爆発したのが辛うじて目に入った。爆発によって飛び散った水が、魔物たちを勢いよく貫いていく。そこから数分後には、魔物は一掃されてしまった。
「すごい…」
私を介抱してくれているアニの呟きが聞こえる。あんなに苦労していたのに、一瞬で片が付いてしまった。
『久しぶりね。二人とも。』
「アルト、お帰り。」
空から舞い降りてきた小さな人影にそう告げるとともに、私は意識を手放した。
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