第百八十七話 招集

 その声が私の耳の届けられたのは、本当に唐突だった。


『全ての最上位クラスが誕生しました。保有者は精霊の集会所へ集合してください。なお、到着上位三名には特権が与えられ、下位三名はクラスが剥奪されます』


工房にこもりがちな生活を送っていた私の元に届いた神の声。今まで聞いてきたものとは全く異なる内容を一方的に告げた後は、何事も無かったかのような静寂を齎す。だが、その静寂が続いたのはほんの数舜のことで、工房内に飛び込んできた一人の精霊によって、打ち砕かれた。


「ハイデマリー!!今の聞いた!?」


この様子だと、アルトも詳しいことは何もわからないみたいだ。もしかして…


「聞いてたけど…」

「と、とにかく集会所に行くべきよ。聖女クラスを剥奪なんてされたら、あたしとの契約も解除されるし、今まで使ってきた魔法が全て使えなくなるわ!!」


異様とも呼べるアルトの焦り様を見て私も認識を改める。そうだ。私は聖女クラスであるが故、精霊魔法で魔力を無尽蔵に補充できるし、創造魔法で魔法を創れる。それが失われればどれほどのデメリットがあるか考えるまでも無い。


「そうだね。そういえば、アルトは精霊の集会場まで行けるんだっけ?」


あそこは精霊の助けが無ければ行くことが出来ない。前回はアルトが眠っていたからテノールに連れて行ってもらったけど…


「もちろんよ。まあ、長いこと行っていなかったから、ちょっと不安だけど…」


そんな不穏な声が聞こえた直後、視界が歪む。ああ。これはあの時と同じ感覚だ。


「ちょっと待って、一応みんなに―」


伝えてから。という私の声も時すでに遅し。気が付いたときには、辺り一面に星の無い夜空が広がる亜空間へと転移していた。




 「ちょっとアルト。何も言わずに出てくることになっちゃったじゃない。すぐに戻れるかも分からないのに…」


いきなり私たちがいなくなってしまったら、アニたちが混乱するだろう。ここは魔力枯渇空間で魔法を使えば際限なく魔力が外へ出て行ってしまうため魔法が使えない。となると、テレパシーなんかも使えないわけで、外と連絡する手段がないのだ。


「確かに…少し焦りすぎてしまったわね。早く戻れることを祈りましょう」


そう言うアルトは、体を向こうに置いてきたらしく、精霊本来の姿をしていた。この姿を見るのは随分と久しぶりな気がする。


「まあ、こうなったら仕方がないね。とにかく、焚火の方へ行かないと」


正確に言うと、真っ暗闇の空間にポツンと置かれている唯一の光源、その焚火の周りが精霊の集会所だ。あそこまで行かないとゴールにはならないかもしれない。


「そうね」


そうアルトが言った直後、再び視界が切り替わる。普段行っているテレポートとは全く違う、目的地の方からこちらに近づいてきている謎の感覚の後、私たちは精霊の集会所へ到着した。





 『人間、最上位クラス聖女、到着。順位二位。特権は全ての最上位クラス集結後付与されます。終結までしばらくお待ちください。なお、終結完了まで、他最上位クラスの者を認識することは出来ません』

『水の精霊アルト。順位測定外。精霊契約締結済みのため運び任は免除されます』


そんな神の声を聞きながら辺りを見回すと、私たち以外に誰かがいるようには見えない。だけど、私が二位だということは、少なくとも一人はここにいるはずだ。それに、前回来た時には四つしかなかった丸太の椅子が十二まで増えている。となると最上位クラスは私と勇者のほかに十人…もしくはそこから精霊の分の椅子を除いて六人かな。さっきの神の声はわざわざ人間と前置きしていたくらいだから人間以外の最上位クラスも存在するみたいだ。少なくとも、魔人の最上位クラス、魔王はいつかやってくるだろう。もしくは、その一位が魔王なのかもしれない。


「運び任っていうのは、ここに最上位クラスを連れてくることよね…誰かと契約してればそれをしなくていいと。となると他の三人でその運び任をするわけね。でも、精霊が連れてくるなら、精霊側が順位を決めれることになるけど…いや、そもそも精霊と接触するのだけでも難易度が高いはず。それこそ精霊側から接触しなければほぼ不可能だわ。でも、最上位クラスの者を把握している可能性は高くない。となると、精霊と接触すること自体が今回の最初の試練―」


アルトは隣で何かブツブツと呟いている。まあ、私もいきなりこんなことになって何が何だかさっぱりだけど、詳しい説明とかちゃんとされるのかな。それに、全員揃うまでここで待っていないといけないみたいだけど、どれだけかかるのやら…収納魔法も使えないし、食事とかどうしよう。


「どのくらいここにいればいいんだろう…」

「恐ろしく長い間とかではないと思うわ。集会所と向こうの世界は時間の流れが違っているし」


私の言葉で現実に引き戻されたのか、先ほどの深刻な表情とは正反対の顔でアルトがそう言う。この世界、ホントに時間の概念どうなってるんだ?全く別の世界である日本とかはともかく、青のダンジョンとかも時間がずれていたし…いや、私たちが普段生活している世界とは、全く空間が異なっているわけだから時間の概念が一致しないことも普通なのか…?時間と空間を合わせた時空なんて言葉があるくらいだし。さすがに、私も物理は専門外だから詳しいことは分からないけど…そもそもこの世界と向こうの物理法則には大きな差異があるだろうし。


「時間の流れって、そんなにコロコロ変わっていいものなのかな…」

「普通に生きてればそんなこと考えないんだけどね。貴方の場合、特殊な場所に触れ過ぎなのよ」


そんな話をしながら丸太椅子に腰を掛け、私たちは最上位クラスが集まるのを待つことにする。さて、いったい何が起こるんだろうか…

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