第十二話 創造魔法を覚えよう
離宮に戻って大穴の空いた服を着替えてさっくっと昼食を済ませると、練習場所へと案内してもらうことにした。
「こちらです。」
言われるがままアニの後を追う。敷地内だというのにあっちへ行ったりこっちへ行ったりくねくねと進んでいく。絶対にこんな道覚えられない。この家は広すぎる。
そこから十分ほど歩いたところにあったのは小さな小屋。
「本当にここ?」
「はい。こちらの地下になります」
そう言いながらアニはギシギシという音を立てて扉を開いた。
「おお!!」
小屋の中には地下へと続く階段しかなかった。秘密基地感が満載でわくわくする。
『なんでそんなにうれしそうなのよ』
(秘密基地感があってわくわくする!!)
『ただのぼろっちい小屋じゃない。』
この感覚はアルトにはわからないみたいだ。ロマンがない。
「外の小屋は地下に雨水がたまらないように作られたみたいです」
『このおんぼろもしっかり考えられて作られてるのね…』
妙に感心した様子のアルトさん。
アニがそばにあったランプにマッチで火をともす。これなら暗い空間でも安心だ。
「お嬢様行きましょう」
「うん」
そういって石造りの階段を下りてしばらく。目の間には重そうな石づくりの扉が現れた。アニがすぐそばの小さなテーブルにランプを置き、扉を開く。ずいぶんと重そうな扉だけど軽々しく開いてしまった。意外と力持ちなのかもしれない。扉が開かれると中の空間に一斉に光がともった。
「まぶしっ」
急に明るくなった空間に目を細めるとそこには運動場くらいの広さの空間が広がっていた。
「ここは昔、キースリング家の衛士隊が訓練に使っていた場所だそうです。今は全く使われていないようですが。そもそも衛士隊が存在しないわけですから。ここで大丈夫そうでしょうか?」
コンクリート造りのような壁はすごく頑丈そうだ。地下なら音も気にしなくていいし。これなら大丈夫そうかな。
「ばっちりよ!!ところでどうしてこんな場所知ってたの?」
「少し前に天井についている明かりの魔道具を放置しておくのはもったいないとのことで回収を命じられたことがありまして。結局完全に固定されてしまっていて取り外すことはできなかったのですが…」
「外れ無くてよかったわ」
明かりをつけるところから始めなきゃいけなくなるところだった。
「お役に立てのなら幸いです。早速、練習なさるのですか?」
「そのつもりだけど」
「では、見学させてもらってもよろしいでしょうか。せっかくの機会なので」
「別にかまわないわよ」
「ありがとうございます」
そういうとアニは扉の方まで下がった。
(せっかく広い場所が手に入ったんだし、なんか大きい魔法使いたいんだけど…)
『それなら創造魔法覚えちゃいましょうか』
(いいの?まだそんなに魔法に慣れたって感じしないけど)
『さっきの魔物との戦闘を見る限りもう十分安定しているし大丈夫だと思うわ』
(そう。分かった。なら早速教えてもらおうかな)
『じゃあ始めるわよ。創造魔法は前にも説明した通り、魔法を創る究極の魔法よ。イメージできることなら大体のことができるわ。でも生物を創るのは無理ね。創った魔法を使うにはトリガーが必要よ。そのトリガーは自分で自由に割り当てることができる。例えば魔法の名前を口に出すとか特定の動作をするとかかしら』
「なんでもいいの?」
『まあ、基本的にはね。でも日常で使う動作に割り当てるのはよくないわね。事故が起こるかもしれないから』
(事故?)
『例えば、そうね…顎をさわるという動作に何かしらの攻撃魔法を割り当てたとするじゃない?で、ふとした表紙に顎を触ってしまう。それに運悪く魔力が流れてしまうとその攻撃魔法が発動してしまうってわけ』
「あまり単純すぎる動作に割り当てるのはよくないってことね」
『影響の大きくない魔法ならいいと思うけど。すぐに発動できるのがメリットのものもあると思うし。まあとにかく注意した方がいいわね』
(よく考えないとだね。それでどうやったら覚えられるの?)
『魔術じゃなくて、魔法を使えるあなたなら簡単よ。複数の魔法を組み合わせて新しいものを作るのよ』
(でも、水魔法しか使えないけど…)
『水魔法だけどもできると思うわよ。例えば、あなたがいつも作っている水の球があるでしょ?それに何か変化をつければいいの』
変化って言われても難しい。なにせ水で水に変化をもたらさないといけない。ん?そうだ!!
(浄化は魔法とは違うの?)
『厳密にいえばスキルだけど…魔力を使ってないわけではないから魔法といえなくもないわね』
何とも曖昧な返事だけど試してみよう。
(ちょっと試してみる)
私はいつもの水の球を作り出した。そこに手を突っ込み浄化の力を流し込む。すると水の球がほのかに光を纏う。
「これは成功かな?名付けて治癒の液体!!」
『個体、ハイデマリー・キースリングが創造魔法を習得しました』
どうやら浄化でも平気だったらしい。こういう時便利だよね。神の声。
『やったわね。早速何か魔法を創ってみない?』
(どうやるの?)
『創りたい魔法をイメージしてみて』
とっさに思いついたのは空を飛ぶことだけど、ここじゃあ無理だ。ならここはシンプルに火でも出してみようかな。
(そしたら?)
『全身に魔力を流しながらトリガーを決めて。そうすればイメージした通りのものが使えるはずだわ。威力なんかは発動させてから流す魔力の量で調整できるから気にしないで』
全身に魔力を流しながらトリガーについて考えてみる。火は戦闘でも使えるし、声に出すトリガーにはしない方がいいかな。手の内は隠せた方がいいしね。意味がない言葉とか、あっちの世界の言葉なら大丈夫かもだけど。となると何かの動作になるけどそれはそれで事故らないようにしないとだし…。もしやトリガー決めるのが一番難しいのでは?
少し考えた末、私が決めたトリガーは手を握って、開いてそのまま掌を上に向けるというものにした。これなら事故も起こらないよね。まあちょっとダサいけどその辺はこれからブラッシュアップしていこう。
手順通り動作をすると掌の上に火が出た。
「できた!!」
『完璧ね。でもそんなとこに火を出して熱くないの?』
(薄く魔力の膜で包んでるから平気)
『魔力の扱いも十分うまいわね…』
(意外と簡単だね。創造魔法)
『全然簡単じゃないわよ。そもそも精霊と契約しなきゃ使い物にならない魔法だし、聖女の補正がなければこんな簡単に習得できないわ』
(そういえば聖女は魔法に特化してるんだっけ)
『そうよ。だからといって、それに胡坐をかいてたら後で痛い目見るかもしれないわよ。練習は欠かさずした方がいいわ』
(魔法使うの楽しいし、練習は苦にならないかな)
『ならいいけど』
(じゃあ次はアルトの肉体作ろっか)
『そんなに急がなくていいわよ』
「お嬢様。そろそろ夕食のお時間です」
気合を入れなおしたところで、そんな声がかかった。そういえばいたね、アニ。集中してて忘れてた。
(仕方ない。また今度ね)
「ええ」
そんなことを話しながら練習場を出る。
「お嬢様は炎魔法も使えたのですね」
「使えたというか今使えるようになったって感じかな」
「この短時間で、誰にも教わらずにですか!?」
驚愕の表情のアニ。
「いや?精霊に教えてもらった」
「そういえば、精霊と契約をしてらっしゃるのでしたね。お嬢様が規格外であることを改めて認識しました」
アニはなんとなく疲れた表情をしていた。まあ今日はいろいろあったから仕方ないね!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます