第五十八話 鬼人討伐
一夜明け、戴冠式まであと二日、叙勲式まであと三日と迫った今日。昨日はあの後、購入する予定の土地を見に行って、特に問題が無いことを確認して、王都の宿屋へ戻り、いつも通りの夜を過ごした。今日からは戴冠式の影響で、いろんな場所やお店がお休みになる。通常営業なのは、戴冠式を見るために、王都の外から来た人たちが滞在している宿屋と、急な魔物の襲来なんかに対応しないといけない冒険者ギルドくらいみたいだ。いままで盛況だった屋台もほとんどが撤去されていた。ということで私たちが今日できることは一つ。依頼を受けることだ。討伐依頼なんかにすれば、アニの試験に向けて練習にもなるしね。
「さて、何の依頼を受ける?」
アルトが依頼掲示板を見ながらそう言う。
「アニの試験のためにも、討伐系の依頼がいいよね。」
ちょうどいい難易度のものがあればいいけど。
「ならこれなんてどう?鬼人の討伐。人っていっても、人型だってだけで、知能があるわけじゃないわ。強さ的にはケルベロスよりは下ね。まあ、魔力を使いこなす個体もいるって話だから、その場合はケルベロスよりも強いけど。」
そもそもケルベロスにそんなに強いイメージは無い。首だけになっても生き続ける生命力はすごいけど、首そのものを封じ込めちゃえば、何の脅威も無かった。それくらいの難易度なら、ちょうどいいかもね。もし、危険があれば助けに入ればいいだけだし。
「分かりました。鬼人の討伐。受けましょう。」
アニも納得したみたい。
「じゃあ、受けてきちゃうわね。」
そう言って、アルトが依頼書を持って、受付へ。
「今回の依頼はアニの練習も兼ねてるからね。最初は一人で攻撃してみよっか。何かあればフォローするから、できるとこまでやってみて。」
「頑張ります。」
やる気は十分だね。ダンジョンで手に入れた魔法の本から新しい魔法も覚えただろうから、それを見るのも少し楽しみだ。
「依頼、受けれたわよ。報酬は金貨百枚だって。それで、場所は街道を外れた森の中にある洞窟らしいわね。なんでそんなとこにいる鬼人の討伐なんて依頼が出たのかしら…」
特に問題が起こるような場所にいるわけでもないからってことか。ケルベロスの時は街道の近くで危険だからってことだったし。
「素材に高い値が付くとかですかね?」
「高値が付くのは角だけね。武器の素材になるとか言ってたわ。」
角が相当高価なのかな。でも、依頼は討伐で、角を取ってこいって依頼じゃない。討伐依頼は倒すこと自体が目的だから、素材は討伐した冒険者のものになる。となると、角が目的ってことは無いと思う。
「まあよくわかんないけど、とにかく倒しに行こうか。」
「そうですね。考えていても仕方ないですし。」
そんなわけで、鬼人を倒すべく私たちは移動を始めた。
「あそこね。この森の中では一番大きい魔力を感じるわ。」
街道を外れて森に入り、アルトの魔力探知で洞窟の入り口までたどり着いた私たち。私もアニも魔力探知はできるけど、一番正確なのはやっぱりアルトだ。精霊ってこともあって、一番魔力に敏感だからね。
「ええっと、灯りの魔道具を…」
収納魔法から灯りの魔道具を取り出す。どのくらいまで続いているかは分からないけど、奥の方まで進んだら、光は届かないと思う。近くに来れば私にも分かるけど、大きい魔力の反応は結構奥の方にあるしね。
「中にもちょこちょこ魔力の反応がありますね。注意して進みましょう。」
暗い中で、不意打ちされないようにしないと。
洞窟の中はダンジョンみたいになっているわけでもなく、自然にできた洞窟って感じだ。
途中で出てきた魔物を倒しつつ、奥に進んでいく。やっぱりダンジョンみたいに宝箱があったりはしない。あったら、アニが見つけてるだろうし。試しに目利きの義眼で倒した蝙蝠型の魔物を見てみると、この蝙蝠は自然治癒力が高いみたいで、血が回復薬の素材になるってかいてあったから、そこそこ値段が付くかもしれない。こいつの素材も持って帰ろう。
「もうすぐだと思うわよ。大きい魔力反応に近づいてきたから。」
魔力探知に意識を集中させてみると、確かに近づいている。静止しているわけじゃないから、ケルベロスの時みたいに寝てるってことは無いね。
もう少し進んでいくと、ついに目視でとらえることが出来た。まだ向こうは気が付いていないけど、暗い洞窟の中にある唯一の光源が、私たちの持ってる灯りの魔道具なわけだから、すぐに気が付くはずだ。
「アニ、気が付かれないうちにぶっ放そう!!」
「はい!!」
元気のいい返事とともに、鬼人に向かって放たれたのは、水の刃。アルトがケルベロスの首を切ったのと、同じ魔法だ。見た感じ、命中はしたみたいだけど、暗くてよく見えない。こんな時のために、創った魔法がある。暗視魔法だ。ダンジョンを出た後に思いついた。
「暗視魔法。」
小声でつぶやくと、視界が一気に明るくなり、外にいるのと変わらないような見え方になる。望遠魔法と組み合わせて、鬼人をまじまじと見てみると、大したダメージはない様子だ。それどころか、こっちに向かって狙いをつけている様子が見える。
「倒せてないよ!!攻撃続けて!!」
そう声を掛けると、続けてアニが魔法を放つ。今度は、水の球に閉じ込める魔法。鬼人を閉じ込めると、そのままカチンコチンに凍らせてしまった。これなら、完全に倒せたと思う。魔力の反応も消えた。
「氷魔法?これ魔法の本で覚えたの?」
「はい。アルト様の協力のもと、使いやすく改良しました。」
「使いやすく?」
「ええ。本に書いてあった氷魔法は魔力消費の大きい物だったから、空気中から氷を出現させるんじゃなくて、水魔法で出現させた水を凍らせるようにしたのよ。それなら、魔力を節約できる。この短期間で覚えられたのは、あの本のおかげね。アニに適正もあって良かったわ。」
水魔法と氷魔法の親和性は高いだろうし、戦術の幅が広がりそうだ。私も目的は違うけど、冷却魔法を創ったしね。それに、水に閉じ込めて、窒息させるより、時間短縮にもなりそうだ。
「こいつ、砕いちゃってもいい?収納魔法にこのまま入れて、氷が解けて動き出すなんてことになったら、中を荒らされちゃうし。」
凍らせたことで、仮死状態になってる可能性もあるから、解けたら暴れるなんてことが起こるかもしれない。
「そうですね。そんなことが起こったら大変です。」
「じゃあ、やっちゃうね。」
凍った鬼人に向かって、爆撃魔法を打つ。氷が溶けないように、パワーは強めで、温度は低めだ。それをそのまま氷の塊にぶつけるとバラバラに砕ける。氷も解けてないね。そのまま収納魔法に仕舞っちゃおう。
「よし。じゃあギルドに戻ろうか。帰りはワープでいいよね。」
手を差し出し、二人が握り返したのを確認して、テレポートする。王都のポイントは宿屋にしかないから行先はそこだ。冒険者ギルドとそんなに離れてるわけじゃないから、特に不便でもないし。
冒険者ギルドに戻り、 依頼完了の旨を伝えて、報酬を受け取る。鬼人の角の買取量と併せて、金貨百五十枚だった。蝙蝠の方は薬屋に直接持って行った方が高く売れると教えてくれたので、後日持っていくことにする。今日はお休みだろうからね。
「この後、もう一個依頼受けたいんだけどいい?」
私が受けたいのは、昨日ブルグミュラーで見た、消えない炎を消すっていう依頼だ。
「私は構いません。魔力もほとんど消費していませんから、特に疲れたということもないですから。」
「あたしもほとんど何もしてないし、全然問題ないわ。」
二人がいいなら受けちゃおう。あの依頼は報酬がおいいししね。
「じゃあブルグミュラーで依頼を受けるから、もっかい移動するよ。」
少し目立たないところに移動して、私たちはまたまた、ブルグミュラーへ飛んだ。
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