第五十七話 土地の購入
そんなわけで、ブルグミュラーの冒険者ギルドの門を潜った私たち。実は、情報収集をしていた時にすでに一度来ている。冒険者ギルドは、私たちにとって一番の情報源だからね。
アニとアルトとはランクの話をするために、私は拠点についての話をするために、別々の受付に進む。もちろん私が向かうのは座ってするタイプだ。
「こんにちは。」
顔見知りとなったこの支部の受付嬢の一人に声を掛ける。この座るタイプの受付を常に担当しているらしい。
「こんにちは。今日は拠点購入の件ですよね。先日頼まれていた土地斡旋業の方とのアポイントメントですが無事、取り付けました。あちらの方もぜひお会いしたいと申しておりましたよ。」
土地斡旋業というのは前世で言う不動産屋に近いものみたいだ。この土地斡旋業をしている人を挟まないと領主に許可を取ることが出来ないみたい。ただ、ホントに土地だけしか扱ってないみたいで、家や借家みたいなのはまた別のところが担当しているって聞いた。
「いつなら会えるって?」
「いつでも構わないそうですよ。最近はこの町に土地を買いたいという人も少ないらしく、暇を持て余していると言っていました。」
まあ土地を買えるほど資産がある人は王都に住みたがるだろうし、それはある意味当然だ。
「じゃあ、今日、この後でも大丈夫かな。どうせ明日からはお休みでしょ?」
戴冠式の影響で明日から当日まで、多くのお店や施設が休みになるらしい。それまでに少しでも進めておきたいところだ。
「おそらく大丈夫だと思います。基本的には事務所の方にいるようですので、そこを訪ねれば問題ないかと。場所はここから町の入り口の反対側へ、百メートルほど進んだ場所ですので、すぐに見つかると思いますよ。」
となれば行くしかない。領主に宛てた手紙もちゃんと書いてあるし問題ない。
「ありがとう。じゃあ後で行ってみるよ。」
そう言って受付を離れる。頼めば、全く業務に関係ない、こんなことまでしてくれる冒険者ギルドだけど、なにも全ての冒険者にこうしているわけではない。こんなことまでしてくれるのは、私がAランク冒険者だからというのが大きい。ギルドの稼ぎ頭であるAランク冒険者にはそれなりの恩恵を与えるってことみたいだね。こっちからすれば、なんでもしてくれるマネージャーみたいな存在だ。私たちが提供したものと言えば、依頼料のマージンと青のダンジョンの詳細情報くらいなものに、そんなものだけで、ここまでしてくれるのだから、便利なことこの上ない。
アニとアルトはまだ話し中みたいだから、依頼の掲示版でも見て時間を潰す。なにか面白そうな依頼はないかな。えっと…なんだこれ?消えない炎の消火?五十年以上燃え続けている炎の穴の消火か…この炎の影響で、周辺は全く立ち入りができない状況になっていると。近くに宝石が取れる鉱山があるから、問題になっているらしい。報酬は金貨四百枚。高い報酬を出しても、その鉱山さえ使えるようになれば、十分元が取れるって魂胆だろうね。まあ、今度受けてみてもいいかも。炎は酸素が無ければ燃え続けることが出来ないから、穴を密封すれば消火できるだろうし。この世界は科学があんまり発展しているとは言えないから、そういうことも知らないんだろうね。火を消すには水だ!!っていう単純な考えしかない。まあ、間違ってはないけどね。
「お待たせしました。」
いろんな依頼を眺めているうちに、アニとアルトが戻ってきた。
「どうだった?」
「はい。後日、ランクアップのための試験を受けられることになりました。通常だと、Cランク試験、Bランク試験、Aランク試験と全て別々に行うということらしいのですが、今回は特別に、初めの冒険者試験と同じように、行けるところまでやっていいとのことでした。」
「今のアニなら、魔法も使えるようになったわけだから、Aランクまでいけちゃうかもしれないね。」
「が、頑張ります。」
アグニや、マグダレーネみたいなデーモンや精神生命体が出てこない限りはAランクまで行けると思う。アルトはトロールだったって言ってたし、何が出てくるかは。運次第みたいなところはあるけど。
「じゃあ、今から、土地斡旋業をしている人の事務所に行くよ。」
「あら、アポは取れたのね。」
「うん。いつでも来ていいって言ってたみたいだよ。」
「じゃあ、さっさと行っちゃいましょうか。」
「ここから近いみたいだから。ついてきて。」
冒険者ギルドを出て、言われた通りに歩いていくと、ちゃんと到着することが出来た。ここ
にも、目立たないながらに看板が出ている。「土地管理事務所」って書いてある。
「こんにちはー。冒険者ギルドから紹介されてきました。冒険者のハイデマリーです。」
扉を開きながらそう声を掛ける。
「ああ!!お持ちしておりました。話は聞いていますよ。拠点を建てるための土地を購入したいだとか。まあ、立ち話もなんですから、お座りください。」
指示されたソファーに三人揃って腰を下ろす。この人が土地の斡旋をしてる人か。線が細くて、身長が高い。180センチはあると思う。身だしなみも整っていて、いかにも、事務職って見た目の男だ。
「さて、どのくらいの広さの土地をお求めでしょうか。」
キースリング家の本館くらいの大きさの屋敷を建てようということに三人で相談して決めたから、それが入るくらいの広さの場所がいい。
「貴族の屋敷の本館が建てられるくらいの大きさが欲しいんだけど…」
「左様でございますか。といいましても、貴族の方のお屋敷は爵位や収入によって異なりますからね。具体的にどのくらいの大きさなのかが分からないと…」
「キースリング伯爵の館を知ってるかしら?」
私ではなくアルトがそう言う。
「ええ。それはもう立派なお屋敷で…」
知ってるんだ。もしかして、キースリング家、意外と有名だったりするのかな。
「あそこの本館くらいの大きさで建てる予定だから…」
続けてアルトがそう告げると、合点がいったという表情を浮かべる土地斡旋業者。
「ああ、なるほど了解しました。では候補となる土地は広さ的に二か所ですね。…こちらと、こちらです。」
机の上にブルグミュラーの地図を広げ丸を付けだす。この町は一応、一通りまわったから、大体の場所は分かる。
「二人はどっちがいいと思う?」
示された場所は町の北と南で正反対。ここまでの広さの土地となると、あんまり空いてないみたいだ。
「私は北がいいと思います。商店街も近いですし、町の入り口からも離れているので、人の通りも少なく、静かに過ごせると思います。」
南側だと入り口が近いから、目立つっていうのはあるだろうね。目立てばそれだけ強盗なんかにも狙われるかもしれない。
「あたしはどっちでもいいわ。」
アルトは特に希望はないみたいだ。
「じゃあ北側にしようか。」
「かしこまりました。では私の方から領主様の方へ申請しておきます。」
「それならこの手紙も一緒に渡しておいて。私たちからの誠意が入ってるから。」
こう言っておけば、賄賂か何かと勘違いするだろうから、開けられないで、放置ってことは無いだろう。まあ誠意ってことには間違いないし、嘘は言ってない。ほんとなら黙っていてもいいことだしね。
「はい。こちらも併せて、渡しておきます。では、許可が下りましたら、冒険者ギルドを通じてお知らせいたしますので、またこちらの事務所までお越しください。代金は金貨六百枚となりますので、そちらもご用意お願いします。」
代金も調べた相場と同じくらいだ。吹っ掛けられてるってことは無いね。さすが六百枚も一気に減るとちょっと不安だし、依頼を何個か受けてまた稼がないと。
「分かった。あと屋敷の建造を頼めるところを紹介してくれないかな?」
土地を管理している場所なら、必ずそういう会社ともつながってるだろうから、ここで聞いておくのが一番いい。
「分かりました。信頼できる所を見繕っておきます。」
「じゃあよろしくね。」
「はい。今後とも御贔屓に。」
こんな感じで、ついに土地購入のめどが立ち、本格的に拠点作りが始まった。
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