第三十一話 先代聖女のメッセージ
先代聖女の生きた道を告げられた私の頭にはいくつかの疑問が浮かんでいた。なぜ先代魔王は、私の前世である異世界の存在を知っていたのか。転生者の存在を知っていたとしても、この世界で生きた人物が一生を終え、その記憶を保持したまま転生する。普通はそう考える。だけど先代魔王、彼女は私が異世界の知識を持っていることを知っていた。もしかしたら、私をこの世界に呼んだのは彼女自身なんじゃないか。別に恨んでいるとかそういうことは無いけど…。もしくは、私が考えていた、この世界と前世の世界の交流が、実際に行われていたということになるけど…。ほかにも、なぜわざわざ私を呼び込んでまで、この話をしたのかというのにも疑問が残る。ここに自分の足で来られるような状況にあるなら、この話をする必要もないんじゃないかな。実際に先代聖女が受けたような仕打ちを受けているわけでもないんだし…。考えれば考えるほど疑問は尽きないね。
「これが最後になるが、彼女から、今代聖女に伝えてほしいと告げられたメッセージについてだ。これは、私がだれからも認識されることがなくなり、魔王城を出ようとした時のことだ。ふと、図書室に寄ってみると、何の変哲もない白い封筒が、私が使っていた机上に置かれていた。中身は手紙。彼女からの手紙だった。そこに書かれていた内容こそが、彼女からのメッセージ。もし、今後、新たな聖女に出会うことがあれば、伝えてほしいと書かれていた。この文から察するに、彼女は私が死なないということが分かっていたのだろう。様々な文献を読み漁っていたからな。どこかで精神生命体の資料でも見つけたのかもしれない。」
このメッセージの中に私の疑問を解くカギがあるのかもしれない。聞かないわけにはいかない。彼女が文字通り人生をかけて残したメッセージなのだから。
「内容はこうだ。そのまま読み上げるぞ。」
その声を合図に私に聞こえていた先代魔王の声がはっきりと変化し、年若い女性の声に聞こえた。
「あなたが聖女になったことで、不幸な目に遭ったかもしれない。これから不幸が訪れるかもしれない。だけど生きることに絶望しないで。身勝手なお願いかもしれないけど、生きていれば、必ず良いことが起こるから。一時の苦しみだけがすべてだと思わないで。その時さえ乗り越えれば必ず幸せが待っているから。」
「これが彼女からのメッセージだ。」
そう言った時には、先代魔王の声は元の声に戻っていた。戻っている気がした。きっと、このメッセージを伝えるためだけに、彼女の一生を私に告げたのだろう。
「私は絶望なんかしないよ。そんなことしてる暇があるなら、自分で解決する手段を考える。先代と違って私には、その手段があるからね。」
「そうだろうな。その魔力に、精霊契約。武力の面で人間相手に困ることは無いだろう。だが、お前より強い存在は確かに存在するぞ。私やマグダレーネがいい例だ。」
「その時は逃げるさ。テレポートだってできるしね。」
「テレポート…ああ、瞬間移動の事か。さてはお前、創造魔法を覚えたな?まあなら、安心か。それさえあれば大抵のことは何とかなる。それにしても、お前は聞いていた話と随分、印象が異なるな。」
「聞いていた話?」
「ああ。聖女がここに近づいたと気が付いた時、念のため、マグダレーネに情報を集めさせた。まあそもそも、お前を知っている人間が少なく、得られた情報はわずかだったが。その中にあったお前は、悪辣非道だとか、悪鬼だとか呼ばれていたぞ。」
「随分、失礼な話だね…。ああ。たぶんそんなことを言うのは、私が城を爆破したときに、居合わせた人でしょ。私が明確な意思をもって殺したのは一人だけだけど、巻き込まれて死んだり、けがした人も多かっただろうし。」
「そんなことを平気な口調で言えてしまう時点で、ある意味裏付けだな。とにかく、私から話すことはこれがすべてだ。ご清聴…いや、度々口は挿んでいたな。まあいい。とにかく感謝するよ。」
「いくつか聞いてもいいかな。」
「私に答えられることならな。」
「なんであなたは、異世界のことを知っていたの?」
「ああ、それか。転生者は魔人の中でも、少ないが、確認されているからな。その者たちから情報を得ている。魔人は寿命が長いから一度生まれれば、長い間存在する。見つけるのもそれほど困難ではない。まあ、魔人にばかり偏っているというのも考えにくいから、隠しているだけで、人間にもいるのではないか。」
衝撃の事実発覚である。いつか会ってみたいところだね。
「成功している商人なんかは怪しいだろう。前世の知識を使って大儲けというやつだ。」
「なるほど。気が向いたら当たってみるよ。じゃあ二つ目。この施設。なんでこんなシステムになってるの?」
「こんなとは?」
「わざわざ、宝箱を置いたり、下に行くほど強い魔物が出てきたり…」
遊び心が溢れすぎだ。
「まあ、強い魔物については、先ほども告げたが選別の意味が大きい。宝箱については、人を呼び込むためといったところか。本来の目的は、聖女を呼び込むことだが、思考に介入して呼び込むと言っても、いきなり、名も知れぬ洞窟に行こうとはならないだろ?そのため、この施設、ダンジョンの名を売る必要があったのだ。」
「なるほどね。だったら、ここまでたどり着いた私たちにも、何か報酬があってもいいんじゃない?」
魔力炉の入手という本来の目的を忘れてはいけない。
「特に何も用意してなかったが…。奥に私の私財を収納している宝物庫がある。そこから帰りに好きなものを持っていくといい。私にはもう必要のないものだからな。それとこれもやろう。」
そう言って、宙から飛んできたのは、まあ実際には投げて渡したんだろうけど。タグ…ステアーキーだったっけ。とにかくそれだ。
「そのステアーキーは特別製だ。この施設のどこにでも瞬時に移動することができるぞ。帰りはそれを使うといいだろう。私もここで退屈しているからな。それを使ってたまには話し相手になってくれると助かる。私が持っているものと、交信機能が付いている。」
なんと電話ができる物らしい。携帯電話というより決まった場所にしかかけられないから、糸無し糸電話って感じかな。
「そうだね。たまには話し相手になるよ。いろいろ教えてもらってるし。」
「期待しているよ。」
「じゃあ次。ダンジョンは何の目的で存在してるの?」
「様々としか言えないな。私が創ったのはこのダンジョンのみだからな。私のように何かしたの目的で作った物もあるだろうし、ただの拠点だった場合もあるだろう。」
古代魔王軍の拠点って話もあながち間違いじゃないのかも。
「詳しいことは、実際に行って確かめてみるよ。」
「それがいい。」
「これが最後。アニのことを魔導士の成り損ないって言ってたけど…」
「それについては、彼女自身を起こしてからのほうがよいのではないか。」
そういわれ、アニたちがいた後ろを見ると、なぜかアルトもアニも気を失っていた。
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