第百三十二話 楽しい賭け事
とりあえず、何か知っているゲームが無いか、賭場の中を見回ってみる。アルトとアニは知っているゲームがあったみたいで揃って同じ卓についている。どうやら、プレイヤー同士が争うんじゃなくて、ディーラーと争う形式のゲームみたいだ。私が少し賭場の中をうろうろしている間に、もうゲーム自体は始まってたみたいだね。後ろから見てみると、二人は白と黒の碁石みたいな小さな石を他の人に見えないように手の中に持っている。二人とも持っている石の数は同じだけど、色のパターンが違う。アニは白と黒を一つずつ、アルトは白が二つだ。これがチップの代わりなら隠す必要はないだろうし、この石がゲームに関わっているんだろうね。
「では、石の数と色を…私は、黒が二つ、白が一つです。」
ディーラーが自分の石を見せながらそう申告する。
「私は白と黒が一つずつです。」
「あたしは、白が二つ。」
アニとアルトも同じように自分の石を申告する。
「では、お二人の勝利ですね。配当は―」
うーん。後ろから見てても何が何だかさっぱり分からない。持ち石の少ない方が勝ちってことなのかな。それの何が面白いんだろう?それに、こんなルールじゃ自分が持っている石の数なんて誤魔化し放題で、イカサマも簡単だ。あんな小さい石、簡単に隠せる。全く公平なゲームに見えない。私が見ていたのは、途中からだったし、石の公開まで、何かしらのプロセスがあるのかな。でも、あんまりおもしろくなさそうだし、このゲームをするのはやめておこう。
またまた賭場の中をうろうろする作業に戻る。私の中のギャンブルのイメージは、スロットやパチンコだけど、機械化されていないこの世界にあるわけがない。それに、この二つは賭けとは少し違う気がする。そんなことを考えながらうろうろしていると、人が少ない賭場の一角に、数人が集まっているのが見えた。あ、イザベルもいるね。
「これはどんな感じのものなの?」
イザベルに近づいて聞いてみる。
「小型の魔物のレースだよ。あの甲羅が付いた小さい魔物の内、どれが一番先にゴールするかを予想するんだ。掛け金は自分で決められて、予想が的中した人たちで等分される。もちろん、何割かは賭場に引かれるけどね。」
なるほど。競馬とかみたいなのレース系の賭け事か。これなら、ルールも簡単だし、ちょっとやってみてもいいかも。
「イザベルはどれに賭けたの?」
「わたしは三番。一番人気だと、配当が少ないから二番人気にした。」
甲羅を背負った、ハムスターみたいな魔物を指差しながらそう言う。全部で七匹だね。魔力的にはどれも同じくらいだから、速さも強さも似たようなもんだと思う。オッズの方は…一番人気は六番で1.2倍、一番不人気は三番で4倍だ。イザベルが賭けている三番は1.8倍だね。向こうの世界で使われていた、正しいオッズ計算で求められているのかは分からないけど、そういうことになっている。たぶん、かけられた金額じゃなくて、人数で決まってるんだと思う。さて、私は何番に賭けようかな。ただ勝つだけなら、魔法的干渉をして三番を無理やり勝たせて大儲けするところだけど、せっかくだから楽しみたい。
「あと二分で受付を終了します!!」
そんな声にせかされながら、少し考えた末、私は一番不人気の三番に銀貨三十枚、賭けた三番人気に金貨を一枚賭けた。マージンにもよるけど、どっちかが勝てば、金貨一枚以上の利益は出るしね。ハラハラ感を楽しみたいなら、一点に高金額賭けるのがいいんだろうけど。
「では、レースを開始します!!」
その声で、卓上に置かれているちょっとしたコースで亀ハムスターが走り始める。ちゃんと調教されてるみたいで、走り出さない個体はいない。私は後ろの方で見ると、人垣で様子が分からないから、すぐ近くで見ているから、レースの状況も分かりやすい。今、先頭を走っているのは一番人気の六番。その後に三番人気、二番人気、五番人気と続いている。私が賭けた七番人気はまあ、予想通りビリだ。このままいくと、大負けだよ…そんなことを考えていると、コース上に障害物が現れ始めた。ミニチュアのポールがあったり、網なんかが張られている。あ!!戦闘を走ってた六番が網に絡まって動けなくなってる!!あれじゃあ、自力で脱出するのは無理そうだ。そこからも、観客の落胆の声をBGMにレースは続く。実況が無いから、観客の声だけしか聞こえてこないね。ちょっと寂しいというか、盛り上がりに欠ける。
そこから、追い抜き、追い抜かれで結構な接戦が続き、最終的に優勝したのはイザベルが賭けた二番人気だ。小さいからか、迫力は無かったけど、そこそこ面白かったね。のそのそとゆっくり進むわけでもなく、なんというかちょっとした疾走感みたいなものも感じられた。まあ、金貨一枚に銀貨二十五枚の大損だけどね。
「大儲け、大儲け。」
イザベルが配当を受け取ったようで、そう言いながらこっちに戻ってくる。
「いくらになったの?」
「うーんと、金貨一枚と、銀貨が少し。」
ほう。それだと私があげた金貨以外のお金を全て突っ込んだんじゃないかな。勝てたみたいでよかったよ。
「間もなく出航時間となりますので、本日の賭場営業は終了です。明日以降も営業いたしますので、奮ってご参加ください。」
マイクを通したかの音量でそんな声が鳴り響く。放送の魔道具とか拡声器みたいな機能がある魔道具があるのかな。
「あれ、もう終わり?」
敗け分を取り返す間もなく、賭場が終わってしまった。イザベルもこれからさらに稼ぐ?つもりだったのか、素っ頓狂な声を上げている。
「しょうがないね。向こうに着くまで時間はあるし、また来ればいいよ。」
そう言いながら、人の流れに乗るように賭場を出ると、入り口のところでアニとアルトが待っていた。
「そちらはどうでしたか?」
アニがそう聞いてくる。アニはどうだったんだろう。私が見たときは勝ってたけど…
「私は金貨一枚と銀が二十五枚の損。イザベルは金貨一枚と銀貨を幾らか得したって。」
二人で見れば、プラマイゼロみたいなもんだし、完全に負けたとも言い切れない…よね?
「あら。あなた、マイナスだったのね。いろんなゲームを知ってるし、てっきりこういうのは得意なんだと思ってたわ。」
アルトの顔は珍しいものを見たといった表情だ。おそらく向こうは勝ったんだろうね。嫌味っぽいってわけじゃないけど、ちょっと嬉しそうなのが声から分かる。
「まあ、私たちがやったのはレースゲームだったし、イチかバチかみたいな要素が強かったから…」
私はとりあえずそう返す。
「そっちはどうだったの?」
私ではなく、イザベルがそう聞く。
「あたしは金貨が何枚かね。必勝法を思いついちゃったから。」
もしや、魔法を使ったのかな。お金を稼ぐ手段として割り切ってるならいいと思うけど、それで楽しいって言えるのだろうか…
「勝ちが過ぎると、出入り禁止になるかもしれないから、ちょっと気を付けた方がいいかもね。」
一応そう忠告しておく。カジノでそういうことになるのは映画とかじゃお約束と言っても過言じゃない。
「私は銀貨八十枚のプラスですね。」
アニも勝ったみたいだね。負けたのは私だけか…なんかちょっと悔しくなってきた。
あのゲームが面白かったとか、あれは理不尽だったとか何種類かのゲームをやったみんなから話を聞きながら、船の中を探索していると、少し揺れ出したのが分かった。今までも、水に浮いているわけだから、全く揺れないってことは無かったけど、それに比べると一段と強くなった。たぶん、船が動き出したんだと思う。
「出航したみたいですし、もう少し見てまわりつつ、甲板に出てみましょうか。そのころには、景色も良いものになってると思いますよ。」
アニのその一言で、私たちは船内の冒険を再開した。
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