第7話 宴
夕方になり、準備ができたとアリフさんに呼ばれたので付いていくと、村の広場に通されたうえに、村人がたくさんいた。
てっきり村長の家でごちそうになるものだと思っていたんだが。
「じいちゃんも言ってたが、行商以外でこの村に人が来るなんてめったにないからな。歓迎してるのもあるが、大っぴらに酒飲んで騒げるからみんな集まって来てんだよ」
アリフさんがそう説明してくれて、オレたち4人をど真ん中に座らせた。
周りを見渡すと既に酒を飲んでいるのか顔の赤い人もいる。女性陣は料理や配膳で動き回っていて、邪魔な酔っ払いをたまに蹴飛ばしていた。
オレ達の前にも酒や料理が並び、クリフさんがオレたちを村人に紹介して宴が始まった。
すぐにオレ達に村人が寄ってくる。オレには主におっさん達が集まり酒や料理をどんどん勧めて来た。毒見の魔道具を起動する。
「酒飲んでるか?」
「この野鳥は今日とって来たんだ。食え食え」
「あっちの暮らしはどうなんだ?」
「こっちもうめえぞ!」
視界がむさくるしい。勧められる酒と料理を口にしながら、都市での暮らしや、オレがお米を探す過程で見つけた珍しい食材などについて語っていく。
村では娯楽が少ないのか、喜んで聞いてくれた。
そばを使った料理も勧められた。そばの実を使ったお粥?だろうか。食感が良い。刻んだキノコらしきものも入っていて出汁が良くでていた。
他にもいわゆるガレットだったか。そば粉の生地で具材を包んで焼いたものもあった。そばの香りも良く、食べ応えがあった。
酒は濁酒で、くせが強すぎてあまり好きではなかった。
オレのおっさんによる包囲網も薄くなったので、他の3人の様子を見てみると、エリザは奥さん方と盛り上がっていた。時折黄色い声が聞こえてくる。会話のテンポが急すぎてオレには何の話題か分からない。
グレイとジーンは男衆に囲まれていた。グレイは談笑しながらかなりのペースで酒を飲んでいて、ジーンは勧められる料理をひたすら黙々と食べている。ずっと食べているのでしゃべる暇がないようだ。
オレは気になっていたことをクリフさんに聞いてみることにした。
「クリフさんは何で、ここに村を作ろうと思ったんですか?」
「ほっほ。……少し長くなりますがのう。わしの妻は同じ村で育った幼馴染でしてのう。器量良しの美人じゃったが病気で体が弱くて、いつも薬が必要じゃった。」
「わしも若いころは冒険者として走り回っとって、金を稼ぐために魔物の討伐に遠征にも行っとった。あるとき、わしが村を離れている間に妻が風邪になりましてな、生来の病気と合わさり、死ぬところじゃったそうな。わしはそれを帰ってきてようやく知りましてな」
「わしはそれがとても恐ろしくて、伝手を使って情報を集め、方々を駆け回り、ようやくここを見つけたのじゃ。この村の近くには、薬の材料となる茸が群生しておっての。近くに住んでおれば薬は作れて、薬代を稼ぎに妻から離れることも無いと考えたのじゃ」
「あの頃は若かったですからの。ほとんど寝ずに木を伐り、開墾し、魔物を追い払い。なんとか住めるようにして、妻を連れてここで暮らし始めたのじゃ。まだ村とも呼べない状態でしたがの」
「そうして暮らしているうちに、引退した冒険者仲間やらが増え、行商人も来るようになって、いつの間にか村と呼ばれるようになっておった。娘も生まれて、今では孫も仕事を任せられるようになっとります」
「妻も孫の顔を見てから、笑いながら死にました。幸せだったと言ってくれましたのう」
クリフさんはそう言って、懐かしむように目を細めてお酒を口にした。
「そうだったんですか。……すごいですね」
あまり気の利いたことは言えないが、その後はクリフさんの思い出話を聞きながら、ゆっくり美味しくない酒を飲んだ。
次の日は、朝から村の猟師さんの案内で村周辺の植生を調べさせてもらった。昨日聞いた薬の材料になる茸とそば以外には、珍しいものはなかった。詳しく言うと野生の稲は無かった。
村に戻ってからはアリフさんとそばの購入について相談する。
「そんなに余ってる訳でもないからよ。金じゃなくて食料との交換にしてくれよ」
まあ、こんな僻地の村ではお金なんてほとんど使わないだろうから当然だろう。
こっちも物々交換のつもりで荷物を積んでいる。
そばと同量の小麦粉を交換することになった。同量と言いつつ、オレが用意したのは細かく挽いた品質の良いものなので、こっちの方が食べる量は多いだろう。
他にもいくつか物々交換をして、新鮮な野菜を手に入れた。帰り道で食べよう。
その後はアリフさんに育てているそばを見せてもらって、育て方やら注意点やらの話を聞き、もう一泊した。
村に着いて3日目。そろそろ都市に帰ることにする。気前良く食料やお金を落としたおかげか、村人総出で見送りしてくれた。
特にエリザなんかは、いつの間に仲良くなったのか泣きながら見送っている女の子もいる。
「またいつでも来てくだされ。いつでも歓迎しますぞ」
「また来いよ。待ってるぞ」
「ええ。またいつか」
クリフさんとアリフさんと握手を交わして村を出発する。
そばは行商の人と交渉して定期的に購入してもらうつもりなので、オレがこの村に来る必要はない。
だが、いつかお米が見つかったら持って来て食べてもらうのも良いだろう。そのときは美味しいと言ってくれるとうれしい。
さて、帰ったら蕎麦をつくろう。村で食べた料理も美味しかったが、やっぱり蕎麦でも食べたい。
ところで、オレは蕎麦だろうがラーメンだろうが、一緒にご飯を食べる。お米の隣に置かれたものは全ておかずとなる。
蕎麦ならお握りがいいなあ。蕎麦をすすったあとにパリパリの海苔のお握りにかぶりつきたい。
やっぱり異世界でもお米が食べたい。
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