第106話 聖都到着
さて、聖都に最も近い街を出発してから、さらに3日が経過した。広くなった土の道の先に、聖都イルオスが見えている。
「うわあ。すごいな」
「うむ。見事なものだな」
眼前に広がるのは白い壁。高さ10mはありそうな巨大な壁が、太陽の光を白く照り返している。
「ふふふ。初めて聖都に来た方は、皆さん驚かれますね。あの壁は聖都全体を囲んでいるのですよ」
全体て。何kmあるのこれ?すげえな。作るのに何年かかったんだろう。
聖都に近付いて行くにつれ、その威容がはっきりと見える。超重量の構築物はそこに佇むだけで圧を生む。これの建設に、いったい何人の人が関わったのだろうか。途方もない労力だ。
「壁に継ぎ目が無いね」
「ふむ。魔術的に加工したのだろう。私と同様に、地の適性があれば可能なはずだ」
なるほどなあ。継ぎ目は基本的に弱点だ。力が掛かれば破損しやすい。それを克服したこの壁の強度はどれくらいのものだろうか。
……内側から爆発させたら壊せるかな?何発か使って、斜めに亀裂が入るようにすれば、自重で崩せるかも……。
「コーサクさん」
「はいぃ!」
マリアさんに呼ばれた。やべっ。口には出てないよな。発想が完全にテロリストだった。
「ええと、大丈夫ですか?」
「ああ、うん。問題なし。ちょっと考え事をしてただけ。どうかした?」
目の前に、少し申し訳なさそうな顔をしたマリアさんがいる。なんかあった?
「申し訳ありませんが、私はここでお別れです。聖職者と一般の方は入り口が違いますので。お二人は、このまま他の馬車の後ろに並んでくだされば大丈夫です」
「ああ、そうなんだ。てっきり、聖都の中でお別れだと思ってたよ。道中ありがとう、マリアさん。おかげで、この国の信仰について詳しくなった」
「うむ。短い間だったが楽しかった。聖都の中でも会えるのだろうか?出発のときには声を掛けたいのだが」
「聖都の中で会うのは……少し難しいかもしれません。余裕がありましたら、私から会いに行きます」
オレ達の居場所分かるのかな?
「それでは、お二人ともお世話になりました。タローちゃんもありがとう」
「わふ!」
「ふふふ。皆さんに光の神の加護があらんことを。では、さようなら」
「さようなら~」
「ああ、さようなら」
「わふ」
若葉色の髪を揺らして去って行くマリアさんを見送った。2週間程ずっと一緒にいたので少し寂しい。まだ甘い物食べさせてないのに。
「コーサク、列が進んでいるぞ」
「うん?ああ、ありがとう」
馬車を少し進ませる。先に並んだ馬車たちは、白い壁に空いた巨大な門に飲み込まれていく。遠目に見える街の中も白い。衛星都市と同じ石材を使っているのだろう。
馬車の列が進むのは遅い。この時間で少し調べておこうか。
意識を切り替える。五感を閉じて。魔力の感覚に集中する。
「う~んと」
あった。結界だ。広大な壁に沿うように、透明な魔力の結界が張られている。
そして、確かに所々に穴というか、結界が薄い場所がある。さらに探ると、壁の中に魔道具があるのが分かった。
壁の内側に一定間隔で設置されている。これがオレの修理する魔道具か。
もう1歩踏み込む。壁の魔道具から、聖都の中心に魔力が繋がっているのが分かる。制御の役割を果たす中枢の魔道具はそちらにあるのか。
……原因は見てみないと分からないな。
まあ、結界が薄い場所でも、オレが売っている防壁の魔道具くらいの強度はありそうだ。魔物が襲って来ても、それなりに耐えられるだろ、う……?
「うん?」
「どうかしたのか?」
んん?
「ロゼッタ。オレたち法国に入ってから魔物に遭ってないよね?」
「うむ。実に平和な旅路だった」
「聖都の近くに、魔物が出そうな場所もないよね?」
「ふむ。無さそうだな。一国の首都なのだ。周囲の安全が確保されているのは当然だろう」
「だよねえ」
なんでこの結界、常時発動されてんの?
釈然としないまま。聖都の中に入った。門では来訪の目的を聞かれたが、魔道具の修理をする旨を伝え、大司教さんからの手紙を見せたことですんなり通れた。
聖都の中は白い。光の神の色だけあって、白色が良く使われているようだ。遠くに目をやると、白い壁が続いているのが霞んで見える。
そして、一番目立つ建物が中心に建っている。巨大な城のような建物だ。これまで見てきた教会に酷似した意匠をしている。
「あれが大聖堂かな?ここからでも目立つね」
「うむ。実に美しいな。これを見られただけでも来た甲斐があった」
依頼をくれた大司教さんは、あの大聖堂にいるらしい。光の神を信仰する大本山だ。
「とりあえず、今日は宿屋でゆっくり休もうか。大司教さんに会いに行くのは明日でいいよ」
どうせ、早めに着いたしね。
「うむ。そうだな。さすがに私も少し疲れた」
「ああ~。そうだよね。ずっと馬車に魔力を供給してたし。お疲れ様。今日は甘い物でも作ろうか。時間はあるし」
「ふふふ。それならお願いしようか。楽しみにしている」
宿屋で厨房を貸してくれるとありがたいけど。駄目だったら、改造馬車を持ち出して料理だな。
さて、何の甘味を作ろうか。
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