第107話 審判の扉

 聖都に着いた翌日。質の良いベッドでぐっすり眠ったので気分がいい。


 昨日のデザートは蒸しプリンにした。市場に顔を出したところ、卵が安かったからだ。この国では肉をあまり食べないらしく、代わりに養鶏が盛んらしい。

 さらに、卵は生食が可能とのことだ。店の人に聞いたところ、なんでも魔術的に浄化をしているらしい。


 ちょっと、本気で魔術式覚えてくるわ。卵かけご飯が食べれるよ!


 まあ、相変わらずお米はないけどね。


 なお、久しぶりに食べるちゃんとした甘味は美味しかったです。


 さて、卵に心が引かれるが、まずは仕事だ。早く終わるように頑張ろう。最初は原因の調査からだな。


「よし。じゃあ行こうか」


「うむ。大聖堂だな」


「わふ」


「ああ、タローはごめん、留守番しててくれ。大聖堂に従魔を入れていいか分からないから」


 マリアさんに聞いておけば良かった。


「わふぅ」


「戻ったら美味しいものを作るから、いい子にしてろよ?」


「わふ!」


 わしゃわしゃとタローを撫でる。うむ。いい毛並みだ。


 さてと、大司教さんの手紙とガルガン親方の推薦状は持った。オレの装備も問題なし。大聖堂に出発だ。





 大聖堂の前まで来た。大きい。見上げると首が疲れる。白い柱や壁面には、控えめだが精緻な彫刻がされている。

 外見だけでも、まさに荘厳と言った趣だ。ここも完成までに、どれくらいの月日を要したのだろうか。

 ちょっと頑張り過ぎじゃない?


「すごいねえ……」


「ああ、素晴らしいな……」


 口からは、間の抜けた感想しか出てこない。


「入ろうか」


 いつまでも、突っ立っていてもしょうがない。観光は仕事が終わってからにしよう。


「うむ」


 入り口も巨大だ。太い柱に支えられた屋根が高い位置にある。ここだけで、オレの家がすっぽり入るな。


 歩みを進めると、2人の神官の姿が見えた。受付、じゃないな。警備のようだ。鍛えられた重厚さが見える。


 姿勢よく立つ2人の神官の間には、扉の枠組み?のようなものがある。先を歩く人は、みんなそれを潜っているようだ。

 なんかあれだな、空港にある金属探知機みたいだ。こっちの方がでかいけど。


 意識を集中させると魔道具なのが分かった。機能までは不明だ。


 まあ、疚しいことは何もない。ちょっと聞いてみようか。2人の神官はもう目前だ。


「こんにちは」


「ええ、こんにちは。大聖堂は初めてですか?」


 おお。良く分かったな。お上りさん感が出てたかな?


「はい。そうです。この中を通ればいいんですか?」


「ええ、どうぞお通りください」


 話し掛けた若い男性の神官は、物腰が柔らかく丁寧だ。


「ちなみに、これって何かを調べてるんですか?」


 魔道具の検知だったら引っかかるよ。


「ええ。ですが、普通の方や物には反応しませんので、そのままお進みください」


「分かりました」


 なら、遠慮なく進もうか。足を踏み出す。枠の中を問題なく通過。




 そして、甲高い警報音が響き渡った。ええ……?




 エレベーターで重量オーバーしたような警報だ。オレは引っかかったらしい。周囲がざわつく。

 さっきまで友好的だった神官さんが、戦闘用に足を組み替えたのが見えた。柔和だった顔には緊張感が浮かんでいる。捕まんのオレ?


「動かないでください。抵抗しなければ危害は加えません」


 それは、抵抗したら危害を加えるってことじゃん。オレ、何か悪いことしたっけ?心当たりがない。

 法国でやったことと言えば、前に治癒の聖遺物の魔術式をパクッ……参考にさせてもらったくらいだ。あれはバレてないはず。醤油と味噌にしか使ってないし。


 ロゼッタは、もう1人の神官と睨み合っている。強硬手段に出ることはなさそうだ。そこだけは安心。


 で、これは結局なんなの?


 とりあえず両手を上げてじっとしていると、大聖堂の中から神官たちが走って出てきた。おかわりだ。


 その中の年配の男性、上役っぽい人が、最初の若い神官に声をかける。


「おい!どんな状況だ!」


 オレも聞きたい。むしろオレが聞きたい。


「先ほど『審判の扉』が反応しました!」


 これってそんな名前なのね。


「その者には、神力がありません・・・・・・・・!」


 あ~……え、そっち?駄目なん?


「そうか。分かった。申し訳ないが、ご同行をお願いしよう。手荒な真似はしない」


 上役さん(仮)が渋い声で、まったく申し訳なさを感じさせずに発言する。


「……ええ、分かりました」


 頑張れば逃げれるとは思うが、ここで問題を起こすのは、どう考えても分が悪い。悪いことをした訳じゃないし、素直に従うか。

 状況の説明は……たぶん、ちゃんとしてくれるだろう。


「私は護衛だ。同行させてもらおう」


 ロゼッタの声が聞こえる。


「それは許可できない。この者の沙汰は追って知らせよう」


 駄目っぽい。つうか沙汰って。オレ裁かれるの?


「くっ……」


 ロゼッタは悔しそうな顔をするが動かない。それで正解だ。


 オレの両側に神官が来た。腕をがっちり掴まれる。力が強くて逃げれそうにない。ちょっと痛いんですけど。

 そのまま、大聖堂の中へ連行される。


 あ~、と。


「ロゼッタ!」


 え~、名前呼んだけど、喋る内容が決まってない。離れる前に何か言っておかないと……!


 あ、そうだ!


「タローのご飯よろしく!」


「分かった!……いや、それか!今それなのか!?」


 大事なことだよ~!


 そのまま連行された。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る