第30話 対策会議

 円卓を囲い、都市の危機を回避するための話し合いが進む。


 進行をするのは、この都市で最も多くの船を持ち、水上を縄張りとする、日に焼けた体と眼帯“水運の元締めウェイブ商会”商会長カルロス。

 背後の旗に描かれているのは“波と帆船”


 可憐な唇から苛烈な言葉を紡ぐのは、食料市場を支配する、最年少、美麗の才媛“食料品の老舗リューリック商会”商会長リリーナ。

 背後の旗に描かれているのは“交差する麦の穂”


 実直な意見を述べるのは、人がいるならどこまでも赴き販路を広げる、強面“陸の開拓者グラスト商会”商会長ギルバート

 背後の旗に描かれているのは“剣と馬車”


 実現可能な対策を上げるのは、厳密には商会ではない。その腕と人柄により職人達をまとめる、全ての職人の親方“都市の職人連合”連合長ガルガン。

 背後の旗に描かれているのは“槌と鉱石”


 情報を提供するのは、大陸に根をはる冒険者たちの取りまとめ、生涯現役“冒険者ギルド”ギルド長コルス老。

 背後の旗に柄は無し、ただ魔石色の赤一色のみ。


 ついでに座る一般人のオレ。


「水運は何とかなるだろう。いままでの記録からして、大河が凍ったことは無い。流れが緩いところは氷が張るかもしれないが、うちの船は水中の魔物へぶつかることも想定した作りだ。雪さえ降ろせ大丈夫だろう。問題は陸地だ。大河を進めても、荷物を陸に移動できなければ意味がない」


「材料が無くなりゃ、何も作れんな。必要な物はそれまでに作る必要があるぞ」


「そうだな。雪が積もれば馬車も使えん。必要としている者達に商品が輸送できない。冒険者に雪かきでも依頼するか?運べたとしても、依頼料と遅延で大損だな」


「ううむ。非常時だからこそ、冒険者へ依頼する場合には報酬が必要じゃな。渋れば都市に冒険者は寄り付かなくなるじゃろう。冒険者も雪が降れば森へも入れん。雪かきの依頼があるなら日銭稼ぎに受けるはずじゃ。金は掛かるがやるべきじゃろう」


「ふふふ、今回の損害は、いずれ帝国にきっちり返してもらうわ。一番被害が大きいのは私の商会ね。麦が育つのはこれからだもの。ねえ、コーサクさん、あなたはどんな問題があると思う?」


 うぇ!?ここでオレに振るの?ちょっとS属性が強くない?リリーナさん。


 うわっ皆こっち見たよ。圧がすごいって、視線で穴が開きそう。


 まあ、オレもこの都市の一員だ。ちゃんと答えよう。


「え~、まずは直接的な危険からですね。この都市の住宅は、雪を想定した造りをしていません。雪は、まあ元は水ですからね。大人の身長ほどの雪となれば、すさまじい重量です。屋根の傾斜が緩い家が多いので、雪が落ちづらく、屋根に積もっていくでしょう。最悪、寝ている間に家が潰れて下敷きになった、なんて可能性もあります」


「ああ、あり得るな」


「次は、リリーナさんが言ったとおり、農作物への損害ですね。夏のこの時期に大量の雪が降り、10日間は水が凍る気温になるならば、今育てているものは、ほとんど全滅でしょう。家畜に与えるエサもなくなります。備蓄が無くなれば、やってくるのは飢餓ですね。個人的には一番大きな問題だと思います」


「ええ、困ってしまうわ」


「後は、輸送ですか。流通が止まれば、食料を初めとした、生活に必要なものが手に入らなくなりますからね。この辺の人は寒さになれていないので、体調を崩す可能性もあります。道が歩けなければ、医者にも行けず、暖をとる燃料も入手できない人がでるかもしれません」


「病人か、考えていなかったな」


「あ~、あと、冒険者が森に入れなくなって、魔石の入手が難しくなると非常に困ります。……すぐに出て来るのはこのくらいですね」


「ええ、ありがとう。では、どんな解決方法があるかしら?」


 オレに向かってリリーナさんが言う。まだオレのターンなの?


「え~、あ~。家の強度問題からですね。まず、残り7日で都市中の家を雪に耐えれるように直すのは無理です」


 この都市の人口は確か1万人くらい。5人家族で家が1件だとしても2000件だ。


「ふん。さすがに無理だな」


「なので、何とかするとすれば、強引ですが魔道具による建物そのものの強化ですね。構造物の対象を指定して強化する魔道具はオレが作っています。家サイズでも個人の魔力で運用できるはずです。屋根の雪は住人に身体強化をして降ろしてもらいましょう。一応、2人で作業することを徹底した方が良いとは思います。危ないですからね」


 強度的に弱い改造馬車を補強するのに開発した魔道具だ。


「ほう」


「え~、農作物の被害への対策ですか、面積の分、必要な魔力量はかなり多いですが、防壁の魔道具による結界で雪はなんとかできると思います。複数の魔道具を連結して使用すれば、魔道具1個当たりに必要な魔力量は許容範囲に落とせます。あとは照明の魔道具を強化して、太陽光の代わりにしてみるしかないですね」


 防壁の魔道具はオレが一番得意なものだ。汎用性の高さが気に入っている。設定をいじれば、雪と冷気だけを遮断することができる。


「道の雪は、さっき話に出ていた通り冒険者に頼むしかないと思いますね。ついでに火の魔術が得意な人に融かしてもらいましょう。雨用の側溝も大通りにはあるので大丈夫だと思います。

 後は、雪が降る前に食料と医療品、え~と防寒具も急いで作って、冒険者には森で肉と薪を急いで取ってきてもらいたいです」


 ふう。


「オレに思いつく対策案はこれくらいですかね」


「ああ、ありがとう。悪いが、疑問がある。今の案である程度問題を解決できそうだが、必要な魔道具はかなりの量になる。7日間で間に合うのか?ガルガン、いけそうか?」


「……魔道具職人を寝ずに働かせても、作れんのは半分ちょいだな」


「ふふふふ。では、コーサクさん。あなたはどうかしら?」


 必要な魔道具数を計算する。この都市の魔道具職人達が協力してくれるならば。


「必要な魔道具の半分は、予備も含めてオレが作ります。ただ魔石が必要です」


「……そうか」


「コーサク、本当に出来るのか?」


 ギルバートさんも聞いてくる。大丈夫だ。ここで出し惜しみなんてしない。


「6日で仕上げます。必ず」


「分かった。ではこの都市からの指名依頼だ。材料と報酬は確実に渡す。異論があるヤツはいるか!」


「無え」


「無いわ」


「無い」


「よし!では早速ガルガンのところと、作る魔道具を協議して始めてくれ。頼んだぞ。ガルガン、後で魔道具以外で必要なものを一覧にして渡す」


「ああ、一人置いていくからそいつに渡せ」


 時間が貴重だ。急ごう。


「よろしくお願いします。親方」


「ああ」


 オレとガルガン親方は一足先に行動を始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る