第31話 魔道具職人との関係

「バカにしてんのか、テメエ!!」


 オレは今、魔道具職人の1人に胸倉を掴まれて持ち上げられている。苦しい。


 会議を行った日から3日が経過していた。

 目の前の若い職人さんも、この3日ほとんど寝ていない。目が少し赤くなっている。


 オレは今日のノルマの魔道具を作成したばかりで、体を動かすのも億劫だ。頭いたい。


 たぶん、怒った拍子に身体強化発動しちゃったな、この人。自力で抜けんの無理かな~。


 何でこんなことになったのか。オレも眠いよ。




 そもそも、オレは他の魔道具職人に好かれていない。魔道具職人以外の職人なら、にこやかに談笑もできるものだが、魔道具職人だけは別だ。


 原因は明らかだ。オレが彼らの領分を侵しているからだろう。


 オレは一度魔道具を開発してしまえば、魔術式をコピーすることで短時間で魔道具を量産できる。

 この世界の魔道具職人とは製造スピードの桁が違う。


 こっちの職人が手書きで写本を作っている横で、パソコンを使ってコピー・貼り付けし、プリンターで印刷しているようなものだ。どんなに書くのが速くても、手書きでプリンターに勝つのは無理だろう。


 まあ、この世界の人と現代日本人のオレでは、知っている・流用できる技術と概念の数が違う。しょうがないことだろう。

 こっちの職人にコピペの概念を説明しても理解できなかったし。


 だけど、しょうがない、当然だ、というのはオレから見た理屈だ。彼らから見れば、オレの製造スピードは、彼らの誇りと伝統のある魔道具製造方法が間違っていると言わんばかりのものだ。


 ……ついでに、この都市に来たばかりの頃、お米の情報を入手するために、いろんな商会に安価で魔道具を売って繋がりを作った。それなりに魔道具市場を荒らしたと思う。


 他の魔道具職人に良い顔をされないのは分かっていたが、まあ、魔道具職人からの不満<お米の情報だったので後悔はしていない。


 そんな訳でオレはこの都市の魔道具職人にあまり好かれていないのだが、その程度で胸倉を掴んでキレるほど、職人の誇りは安くないはずだ。


 胸倉を掴まれる前のことを思い出す。




「ふう~、今日のノルマ終わった~」


 疲れた。あの会議から睡眠は最低限だ。大急ぎで活動している。今日の魔道具は必要数作り終わったが、この後は都市を巡って魔道具の調整をしなければならない。


 ここは、ガルガン工房の作業部屋だ。他の魔道具職人はまだ忙しく魔道具を作っている。


 食事は職人さん達と一緒に大鍋で作られたスープと硬いパンを腹に入れている。残念ながらあまり美味しくない。

 テンションが上がらない。美味しいものが食べたいし、がっつり料理したい。


 ……周りを眺めていると、この部屋で一番若い職人が少し遅れていることに気が付いた。

 今日の必要数を達成するのが少し厳しそうだ。表情にも焦りの色がある。


 外回りまで少し時間があるし、手伝うか。

 ついでに、マイナス方向に振れた好感度を上げるチャンスではなかろうか。


「少し、手伝いましょうか?」


「はあっ?」


 急に声を掛けられた若い職人さんが驚いて声を上げる。


「少し、遅れているようなので。残りの魔道具をいくつか受け持ちますよ」


「……ざけんじゃねえぞ」


「はい?」


「バカにしてんのか、テメエ!!」


 ワオ。なんか逆効果?


 そして胸倉を掴まれ今に至る。回想終わり。


 さて、どうするか。バカにしていないと説明したいのだが、首が軽く絞まって声が出せない。困った。


「っなあにしてやがんだ、バカ野郎ォ!!」


 おや、ガルガン親方。


 部屋に入ってきた親方が、オレ達を見た途端に顔を怒気に染めて突進してきた。右の拳が大きく振りかぶられている。


「お、親か、っったぶへえっ!」


 思いっきり殴られた若い職人さんがふっとんで行く。手が離れたオレの体は、親方によって襟元を掴まれて支えられた。

 どっちにしろ苦しいです。親方。


「んで?何があったんだ?」




「……それでテメエはつい手を出しちまったと」


 顔を腫らした若い職人さんと並んでの説明を聞いた親方の第一声だ。


「すまねえ、親方。コーサク、さんも……すまなかった。上手く進まなくて焦ってたんだ」


 まあ、オレは特に被害を受けていない。少し苦しかっただけだし。修羅場状態だと荒れるのは仕方ないよね?


「謝罪を受け入れます。そんなに気にしなくていいですよ。オレは怪我もしていないですし。緊急事態ですから、お互い頑張りましょう。あ、蜂蜜クッキー食べます?」


「い、いや、俺は甘いのは……」


 ありゃ、残念。


「じゃあ、干し肉どうぞ」


「え?ああ、どうも……」


 干し肉をもらった若い職人さんが微妙な顔をしている。普通の干し肉は不味いけど、オレ特製熊の干し肉だから美味しいよ?


「じゃあ、オレは魔道具の調整に出掛けて来ますんで、後はよろしくお願いします」


「おう、いって来い」


「では」


 作業部屋を後にする。


「……お?美味い!?」


 部屋から出た直後、背後から若い職人さんの驚いた声がした。はっはっは、干し肉美味しいだろう。


「お疲れ様っす、コーサクさん。準備はいいっすか?」


「リックもお疲れ様。良いよ、行こうか。今日もよろしく」


「任せてくださいっす」


 まだまだ、やるべきことは多い。頑張ろうか。

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