第3章 法国聖都_迷宮踏破編

第95話 ピザ 色々

 貿易都市に帰って来て、取引先や知り合いに無事に帰還した旨を伝え、少し時間が空いた。


 この時間を有効に使い、前々から食べたいと思っていたピザを作ろうと思う。

 夏ももうすぐ終わりだ。パー、とやりたい。今日は天気もいいからピザ日和だ。


 という訳で、オレはピザ用のトマトソースを作っている。刻んだ玉ねぎとニンニクを炒め、この前大量に作った自家製ケチャップを投入して煮込むだけだ。


 トマトとニンニクの良い香りがする。水分もかなり飛んだので、これでいいだろう。


 ピザ生地は朝一からこねて発酵させた。ピザ1枚分ずつに切り分けてまとめている。食べる前に広げようと思う。


 ロゼッタはタローと一緒にお酒を買いに行った。ピザなのでビールだ。飲みたい分、買ってくるだろう。

 ロゼッタは酒に強い。肝臓も魔力で強化しているのだとオレは思っている。飲む量おかしいからな。


 ピザの具も切ってある。食材は全て、ロゼッタに魔力を供給してもらったクーラーボックスに入れた。

 庭に持って行こう。


 クーラーボックスを持って庭に出ると、大きな窯が白い煙を出していた。

 ガルガン工房作の移動可能な窯だ。太いタイヤが付いている。

 窯の中は赤く、バチバチと音を立てて薪が燃えている。


 数時間前に火を付けて、定期的に薪を足していた。窯内部の温度も十分に上がっている。こっちも準備は良さそうだ。


「ただいま。戻ったぞ」


「わふ!」


 買い物に行った1人と1匹が帰って来たようだ。良いタイミングだ。


「おかえりー。でかくない……?」


 ロゼッタが頭上に掲げているのは、大きな酒樽だ。何リットル入りなのだろうか。オレの体重くらいはありそうだ。


「うむ?まあ、大丈夫だろう」


 大丈夫かなあ?


「わふ!」


「おお、タロー。どうしたー?」


 タローは背中に小さな革の鞄を背負っている。オレが作ったものだ。え~と、それを開けろと?


 背中の鞄を開けると、小さな包みが入っていた。その中には緑の葉が束になっていた。バジルに近い植物だ。オレが買い物を頼んだものだ。


「おお~。タローが運んでくれたのか。良くやった」


 わしわしと、タローの顔を撫でる。最近大きくなったなあ。子犬から普通の犬サイズに近づいている。


「わふう」


 タローも気持ち良さそうに目を細めている。一通り撫でて、お互いに満足した。


「よし!じゃあ、酒も来たし焼き始めようか」


「うむ!」


「わふ!」


 庭に設置したテーブルに移動し、クーラーボックスからピザ生地を取り出す。


「おし。『魔力腕:2』発動」


 出現した2本の魔力アームがピザ生地を持ち上げる。そのままクルクルと空中で生地を広げていく。


「おお~」


「わふ~」


 観客が声を上げる。普通に調理台で伸ばした方が楽なんだけどね。テーブルだとスペースが足りないし、一々家に戻るのも、手を洗うのも面倒だから。


 丸く伸ばした生地を、テーブルの上の鉄皿に載せた。


 鍋からトマトソースを掬い、生地の中心に載せて広げる。具材は……最初だからガッツリ行こうか。


 クーラーボックスから具材をテーブルに出す。ピザ生地は入れたままだ。暖かいと発酵が進み過ぎて、ベッタベタにくっつくようになるからな。


 トマトソースが広がった生地の上に、スライスした玉ねぎ、ピーマン、マッシュルーム、一口大に切ったベーコンを並べる。

 その上からチーズをたっぷりと。具材が隠れるくらいに。


 具材の載ったピザ生地を鉄皿ごと、魔力アームで持ち上げる。窯まで移動し、もう片方の魔力アームを窯に突っ込み、鉄皿を置くスペースを確保した。

 燃えた薪を掴んでも大丈夫な魔力アームは便利だ。ダメージで消費魔力は少し増えるけど。


 窯の中に鉄皿を滑り込ませる。白いピザ生地が炎で赤く照らされた。それをじっと見つめる。

 窯の中は高温だ。たった数分でピザは焼ける。それはすぐに焦げるということでもある。ピザ生地の耳の部分の焼き色と、チーズの沸騰を観察しながら、数度向きを変える。


 ベーコンが自分の油で揚っているのが見える。トマトソースも沸騰している。ピザ生地もチーズも焼き色が付いた。よし。今だ。


 魔力アームで鉄皿を引き抜く。湯気を立てるピザ生地の載った鉄皿を、テーブルまで持って移動した。

 テーブルに置いた鍋敷きの上に鉄皿を載せる。


「よし!1枚目出来上がり!」


「おお!美味しそうだな!」


「わふ!」


 鉄のヘラでピザ生地を鉄皿から剥がし、まな板に移動する。そして、特注ピザカッターで6等分した。溶けたチーズが糸を引いている。


 切ったピザを一切れずつ皿に載せる。オレがピザを切る間に、ロゼッタがビールを注いでくれている。


 ピザの皿を配り、オレも席に着く。うん。準備は完了だ。じゃあ。


「「乾杯~」」


「わふ」


 ロゼッタとコップを鳴らし、ビールに口を付ける。ぬるい。けど美味しい。暑くて汗をかいた体にアルコールが染みる。

 ここら辺のビールは、日本とは違い常温で飲むが一般的だ。何故か冷やすと美味しくなくなる。


 たまに冷たいビールが恋しくなることもあるが、まあ、今はいい。ピザを食べよう。熱々のピザを持ち上げる。いただきます。


 先端を齧る。熱い。やけどしそう。ハフハフと冷ましながら歯を立てる。


 もっちりとしたピザ生地。少しだけ歯ごたえを残す玉ねぎのスライス。微かなビーマンの苦み。ベーコンの旨味と熱の入ったトマトソースの濃い風味。熱々の濃厚なチーズ。

 それらをまとめて咀嚼する。


「あ~~美味い!」


「うむ!」


「わふう!」


 ビールをぐいっと。あ~美味い。いくらでも食えそうだなあ。


「わふぅう」


 タローが熱そうに首を振っている。


「ははは!タロー。火傷するなよ?」


「わふ!」


 鼻先にくっついたチーズを取ってやった。


「うむ!美味しいな!チーズとトマトソースが良く合う。肉との相性もすばらしい。焼き加減も完璧だぞ。コーサク!」


「どういたしまして」


 そう言うロゼッタは、もう一切れ目を食べ終わっていた。もう一切れを皿に渡しながら、次のピザの具について話す。


「次はトウモロコシもトッピングしようか。ヒューからたくさん貰ったから。たっぷり載せよう」


「それは楽しみだな!」


 ロゼッタの笑顔を見ながら、オレは次のピザの準備に取り掛かった。



―トウモロコシと燻製ウィンナーのピザ


「うん。美味い。トウモロコシの食感もいいね」


「うむ!トウモロコシが甘くて美味しいな」


「わふ!」


 ちょっとトウモロコシがこぼれやすいけど。美味いなあ。



―シンプルにバジルとチーズのみのピザ。


「おお。これも美味いね!」


「うむ。単純故にそれぞれの良さが引き立つな。美味しいぞ!」


「わふ!」


 バジルの良い香りが鼻に抜ける。美味しい。



―全部載せ。よくばりピザ。


「はっはっは!やり過ぎたかも。生地が足りないね!」


「食べ応えがあって私は好きだ!」


「わふう!」


 美味しいけど味が濃い。ちょっと酔って来た。



―1周回って最初のピザ。


「う~ん、美味しいなあ。昼からこんなに食べて飲んでると、なんだか悪いことをしてる気分。捕まっちゃうかも」


「ふふふ。それなら私も共犯だな」


「わふ!」


 少し陽が傾いて来た。オレはけっこう満腹だ。



―邪道。フルーツとチーズのデザートピザ。


「んん!中々美味い」


「うむ!良いな!これならまだまだ食べられそうだ」


「わふ!」


 甘くて美味しい。でもビールには合わないなあ。あと、オレはさすがにもう食べれないよ。




 全員で満腹になるまで食べた。しばらく動けそうにない。時刻はもう夕方だ。赤い夕陽が庭を染めている。


「うむ。満足だ」


「ははは。良かった」


 満腹の倦怠感の中でビールをチビチビ飲む。タローは足元で丸まっている。

 ロゼッタが夕陽を見て目を細めて呟いた。


「夏も、もう終わってしまうな」


「次の夏も、またやろうか」


「うむ。そうだな」


「秋は秋で、収穫の時期だからね。美味しいものがたくさんあるよ。一緒に食べよう」


「それは楽しみだが、コーサクは私のことを食いしん坊だと思っていないか?」


 思ってます。


「ははは。オレが自分で食べたいんだ。悪いけど付き合ってよ」


「ふふふ。仕方ない。ご相伴に預かろう」


 鮮やかな夕陽がロゼッタの横顔を照らす。来年も、こうして2人でいれたらいいと、オレはそう願った。

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