第82話 閑話 第7話
この村で祭りが開催されるらしい。
村長の指揮の元、例年より多い税を納めて少し時間が経った。不満そうな顔をしている人も多かったが、村長に諭されてしぶしぶ納得したようだ。
税である麦は、ジョンさんが中心となって若い男衆と荷車で運んでいった。
その男衆が帰ってきてから、ここ数日は、村人総出で畑に種を植えていた。もちろんオレも手伝った。オレが植えたのは種イモだったけど。
この村のイモは少し水っぽい。蒸してそのまま食べるなら、日本のジャガイモの方が美味しかったな。
まあ、ともあれ、植えた農作物の豊作を精霊に祈ることが、祭りの本題らしい。
精霊ってなんなんだろうな。村の人の話にちょくちょく出てくるけど、日本でいう神様みたいなものだろうか。
魔術っていうのは、精霊に魔力を渡してお願いを聞いてもらうものだ。ってルヴィが言っていたけど、本当にいるのだろうか。普通は見えない存在らしいし、実在するのか怪しい気がする。
さて、オレも祭りの準備に駆り出されている。1日の半分は森の中だ。精霊に捧げる料理に使う薬草だったり、飾りの花だったり、何に使うか分からない木の実だったりを集めている。
今も森にいる。地面に目を凝らして、薬草探しの最中だ。
最近は森を歩くのも慣れてきた。浅い場所限定だけど。村に貢献できるのはいいことだ。
ただ、最近変な感覚がある。
今も、藪を避けようとしたときに感じた。名状し難い感覚だ。
無理やり例えるなら、コートを着た上から、羽毛で撫でられている感じだろうか。
はっきりとは感じないが、何かがあるのは分かる。変な感覚だ。
森に入ったり、近くで誰かが魔術を使うと感じる。これが魔力なのだろうか。でも、他の人に聞いても、魔力は直接触らないと分からないと言われた。
謎だ。そもそも魔力とはなんなのか。
「ピー、ピピピ、ピュー」
「うお、と」
野鳥の鳴き声で我に返った。危ない、危ない。森の中で考え事をするものじゃない。さっさと薬草を探さないと、暗くなってしまう。
夜の森は、人の目では見通せない。早く終わらせないと。
止まっていた足を動かし、オレは薬草探しを再開した。
森から村に戻り、収穫物をパルメさんに渡したら次の仕事だ。オレが力仕事では役に立たないことは、村では周知の事実なので、回される仕事は細かいものだ。
今は、年配の人や女性陣と一緒に縄をなっている。
出来上がった縄は、精霊へのお供え物を作るのに使ったり、豊作のおまじないで木の実を結んで軒先に吊るしたりするらしい。
隣の家のユリカさんが教えてくれた。ユリカさんは木こりのダンさんの奥さんだ。娘のレンちゃんも一緒に縄を作っている。
それにしても。
「たくさん必要なんですね」
手が痛くなってきた。最近厚くなってきたオレの手のひらも、縄との摩擦ですっかり赤くなっている。
「そうなのよー。毎年、お祭りのときは大変なの。いっぱい使うから」
オレの隣に座っているユリカさんは、そう言いつつも、素早く手を動かしている。はやいなー。性格はおっとりしてるのに。
「むー。上手くできない」
娘のレンちゃんは不器用らしい。小さな両手の間にある縄は不格好だ。それに、さっきから、ブチ、ブチ、と材料のわらが切れている音がする。レンちゃん力強すぎない?
「あらあらー。こうやるのよー」
ユリカさんが、レンちゃんに見本を見せている。
オレも、10歳の女の子にすら力で勝てない現実から逃げて、ひたすら縄を作るとしよう。
悲しくはないさ。もう慣れた。
今日のノルマが終わったので、ルヴィの家に戻る。
「むむ?」
また、あの感覚だ。違和感。異物感。無いのが正しいのに、有ってしまうような変な感覚。近くからだ。
……家の裏?
家の裏に回ると、ルヴィが鹿?の解体をしていた。近くまで来ると血の匂いもする。
鹿、だよな?硬そうな鱗があるけど。
「おかえり」
「あ、うん。ただいま。ルヴィ魔術使ってた?」
「ん~?魔術は使ってないな。身体強化は使ってた」
「そう」
やっぱり、オレが感じているのは魔力なんだろうか。もしそうなら。この感覚。魔力を感じるということは、魔力はオレに影響を与えているということだろう。
だとしたら、オレも魔力に影響を与えることが出来るんじゃないだろうか。魔術が使えなくても、他の手段なら……。
「おーい。コーサクー?聞いてるかー?」
ルヴィが鹿の解体を続けながら、オレに話し掛けていた。やべ、考えこんでた。
「ご、ごめん、聞いてなかった。なに?」
「祭りのときは、豪華な飯を食うもんなんだけどさ。森で採ってきて欲しい食材はあるか?」
「えーと、ちょっと待って」
「おう」
森の食材。ルヴィが行く森の奥で欲しいものは……あれかな?
「それなら、卵かな。ルヴィが前に1回とってきたやつ。茹でただけで美味しかったし。あ、そうだ。大人しい鳥とか森にいない?家で飼えたら、いつでも卵食べられるよ」
うん。養鶏だ。
「う~ん、鳥ごと?そこまでする?」
「出来れば。卵、美味しいじゃん」
「まあ、美味いけど」
ルヴィが唸りながら考えている。
「う~ん。分かった。ちょっと探してみる。無理だったら、卵だけになるかも」
「うん!ありがとう!」
卵があれば、料理のレシピも増える。養鶏できたらいいな。
「ああ、鳥がいなかったら、卵、蛇のでもいいか?」
蛇?……蛇!?
「蛇?卵?え?食えるの?」
「食えるよ」
マジで!?
ええ……いけるかなあ。蛇の卵、使えるのか?オレ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます