第41話 白狼
子狼を抱えて、ゴルドンとエイドルに声を掛けに行った。
「お~い、昼飯にしようぜ~」
「こ、コーサク殿!?それはどうしたのですかな?魔物では?」
「なんだ!昼飯で食うのか?食いごたえがなさそうだな!!がっはっは!!」
「いや、食わねえよ……。途中で拾った。近くに群れがいないから、はぐれたみたいだな。昼飯食ったら、ちょっと群れの痕跡を探してみる」
「そ、そうですか。……噛みませんよね?」
「大丈夫だろ。たぶん」
そんな体力も無さそうだ。それに魔物は頭いいからな、飯をやればこっちに危害も加えないだろう。
「じゃあ、ゴルドン。場所作ってくれ」
「おお!!任せろ!!」
「うん、任せた」
森の手前で、ゴルドンがいつもの大剣を振り上げる。
「ふん!!どおっせええええい!!」
大剣を雪に覆われた地面に叩きつけ、そのまま薙ぎ払った。大量の雪が瀑布のように飛んでいく。
広範囲で雪がなくなり、地肌が顔を出した。休憩のスペースの出来上がり。
よし、昼飯だな。
ソリから昼食の入った籠を出す。中に入っているのはサンドイッチだ。切ったパンに辛子マヨネーズを塗って、レタスとハム、チーズを挟んである。
「2人とも、これ先に食べてて。オレ、この子狼の飯を準備するから」
「ええ、いただきますぞ」
「おお!!そういうことなら先に食っとるぞ!!」
さて、この子狼には何を食べさせるか。さすがにサンドイッチは微妙だろう。狼だから肉がいいだろうが、干し肉しかない。あの熊の干し肉だ。魔物だから大丈夫かもしれないが、塩分が含まれているのは不味いかもしれない。
……茹でて塩抜きするか。ソリから鍋を取り出して、水筒から注いだ水を入れて火に掛ける。
湧いて来た鍋からお湯をすくい、皿に入れて少し冷ましてから子狼に差し出す。
「すぐできるから、これ飲んで待ってな」
ついでにサンドイッチを食べている2人にもコップに注いで渡した。
ぴちゃぴちゃと白湯を飲み始めた子狼を横目に、鍋に干し肉を放り込む。
茹でられて柔らかくなった干し肉を取り出し、少し噛みちぎってみた。
「うん、かなり味は薄くなったな。これなら大丈夫だろう。ほれ」
尻尾を振りながらこちらを見上げていた子狼に茹で干し肉を渡すと、はぐはぐと勢い良く食べ始めた。やはり、かなり空腹だったようだ。
追加でいくつか皿に入れてやる。
オレも飯を食うか。
でもその前に、干し肉の出汁が出た鍋の中身がもったいないので、スープでも作るとしよう。
「え~と、あった、あった」
小物入れから取り出したのは、葉っぱに包まれている物体。二重になった葉っぱは紐で固定されている。
中身は味噌玉だ。
ネギと生姜、キャベツの漬物を刻んだものを味噌でまとめている。お湯に入れるだけで即席味噌汁の出来上がりだ。
投、入!
味噌玉を入れた鍋をかき混ぜていくと、味噌のいい香りが広がる。うん、美味しそうだ。
お湯に溶かすだけなので、すぐに出来上がった。3人分注いで、オレも昼飯を食べ始める。
「ふぅ~~」
やっぱり、寒いときはあったかいものがうれしいね。味噌汁美味い。
「わふっ」
美味しそうに味噌汁を飲むオレが気になったのか、子狼がオレを見てくる。
「いや、さすがに味噌汁はやれないぞ?肉で我慢しておけ」
魔物とはいえ、味噌の塩分はつらいんじゃないか?たぶん?
昼食が終わり、オレ達は再び森へ入った。
1回目と違うのは、オレが子狼と一緒なことだろう。
「さて、いいか。飯もちゃんと食べただろ?お前の群れに向かいな。途中まではついていってやるよ」
「クゥン?」
オレの言っていることが分かったのかは知らないが、子狼が森の奥に歩き出した。時々オレを振り返ってくる。その後ろを付いていく。
さっき、子狼と出会った場所を通り過ぎた。まだ奥に向かっている。
「ん?なんだ?」
さらに進んだところで、見えて来た景色に違和感を感じて立ち止まる。子狼も動きを止めた。少し、脳の強化割合を上げる。
「……争いのあと、か?」
広範囲でなぎ倒された藪、雪に付いた足跡、傷の付いた樹木、そして強化された嗅覚に入ってくる血の匂い。
規模から魔物同士の戦闘と推測される。片方は複数体だ。
「こいつの群れか?」
足跡に近づくと、血に濡れた毛が落ちていた。子狼に良く似た白い毛だ。たぶん当たりだろう。
争いの原因は、この雪による食料の不足だろうか?どちらにせよ、魔物同士の争いが起き、双方重症のようだ。血に染まった雪が見える。両方とも、森の奥へ向かって行った跡が見える。
……さすがにこれ以上単独で森の奥に進むのは厳しい。
「おし、ここでお別れだな。頑張って生きろよ?」
「クゥ~~ン」
後はこの子狼しだいだ。オレはこれ以上手を出すべきではないはずだ。来た方向に戻る。
「クゥ~ン」
「おいおい、お前が進むのはあっちだろ?頑張って群れに帰れ」
子狼がオレの足元に寄ってくるが、オレは歩みを止めない。
「クゥ~~ン」
それでも、子狼はオレに付いてくる。
「ふう~、いいか?オレに付いてくるってことは、もう群れには戻れないってことだぞ?戻った方がいい。家族は大事だ」
そうだ、戻る場所があるなら戻るべきだ。子狼の体を押してやる。だが、それでも子狼はオレから離れない。じっとオレを見つめてくる。
「クゥ~ン」
「はあ~あ、オレのところに来るのか?」
「わふ!」
本気か?分かってるのか?
「そうか……はあ、まあいいよ」
元々、飯を与えた時点で多少情は移っていた。弱った状態のこの子狼が、1匹で森の奥を進んで群れに合流するのは、かなり厳しいのも分かっている。いいさ、帰る場所が分からないなら、面倒を見てやろう。
名前は……なんにするか。狼だからな。ポチとかではかわいそうだろう。オスだったから……。
「よし!お前は太郎な。太郎、うん、分かりやすい。こっちの発音だとタローだな」
「わふ?」
都市に帰ったら、同じ狼型の魔物をテイムしている『赤い牙』の人に飼い方を聞こう。
「さてタロー、オレの家の決まりは『働かざる者食うべからず』なんだ。まずは、薬草を探すのを手伝ってくれ。これな?」
タローに薬草の匂いが嗅がせる。
「ぅわん!」
藪に突っ込んでいくタローを追いかける。分かったのだろうか?
見つけてくれるなら、非常に助かるね。
こうして、オレの家の住人が1匹増えた。
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