第25話 プラントキメラを解体
ガタゴトガタゴトガタゴトと、ゴルドンが引く荷車が進む。
振動が酷くて尻が痛い。口を開くと舌を噛みそうだ。
「そしたら、俺のアビーがな!!俺の好物をあいつと一緒に作ってくれたんだ!!そしてパパいつもありがとうだと!!」
「おー」
「おお!!思わず思いっきり抱きしめて怒られたんだが、怒った顔も可愛くて」
暇なゴルドンがひたすら愛娘の話をしてくる。会ったことも無い、ゴルドンの家の末っ子アビーちゃんに詳しくなってしまった。
オレの気の無い返事も気にせずにずっとしゃべり続けている。
灰色熊とプラントキメラをそれぞれ倒した後、オレは倒れた木で荷車を作った。それはもう全力・超特急で。倒木から荷車を作る世界大会があったら優勝できただろう。
再び身体強化で酷使したせいで、頭が痛い。
出来上がって、今乗っている荷車は残念ながら出来があまり良くない。車輪なんて、木の幹を輪切りにしただけだ。おかげで揺れが酷い。
灰色熊とプラントキメラの重量のせいで、ギシギシ軋む音もしている。乾燥していない木材を使ったので、その内縮んで割れて、使い物にならなくなるはずだ。
今、通っている道の両側は麦畑だ。こっちでは春に植えて秋に収穫されるので、夏に差し掛かったばかりの現在では、まだまだ青くて低い。
これから伸びていくだろう。収穫前は一面黄色に実って圧巻の風景になるはずだ。
後ろに置いてある灰色熊に体重を預けて青空を見上げる。いい天気で気持ちいいが、背中に当たる毛が固すぎて痛い。
振り返ると灰色熊が横たわっている。胸に空いた穴はオレが銃型魔道具を使った結果だ。
……銃か。
銃を試作してみたのは、もうかなり前だ。
あの頃は、銃を持てば魔物ともそれなりに戦えるだろうと甘い考えを持っていた。
火薬が手に入らなかったので、銃身に加速の魔術が発動するようにした。威力的には期待通りのものが作れたが、結果的に言うと魔物にはほとんど効果が無い上に弱点だらけだった。
そもそも、銃弾を工場で大量生産できないので全て手作りだ。高い上に、製造にも時間が掛かる。
最も致命的だったのは威力だ。魔物は大型のものが多い。巨体を支える高密度の肉体を貫き、傷を与えることが出来なかった。
頭を狙っても、分厚く硬い頭蓋骨に弾かれる。目を狙うと反射的に避けられる。少しでも動かれたら頭蓋骨に阻まれるだけだ。
威力を上げるには銃を大型化するしかないが、大型化すると消費する魔力量が跳ね上がって、とても使えなくなった。
やはり、銃というのは、人が人を殺すために最適化されたものだと思ったものだ。
そんな挫折を経て生まれたのが、銃弾型爆弾魔道具だ。体にめり込んだ銃弾が内側から爆発してダメージを与える。
まあ、明確な弱点が体のどこにあるか分からないプラントキメラのような魔物相手には弱い。もし、実際に戦っていたら、使う銃弾は2発では済まなかっただろう。
「おお!!都市が見えてきたぞ!!」
ゴルドンの声に雲を見ていた顔を戻すと、確かに都市が見え始めていた。
まずは、ギルドで解体だな。
都市に入り、今は大通りの半分を占領しつつ、冒険者ギルドに向かっている。
目立ってる。めっちゃ目立ってる。
大型の魔物2体を積んだ荷車だ。皆こっちを見て来る。
楽しそうに荷車に並走しながら手を振ってくる子供達には、手を振り返しておいた。
君たち、この熊の顔怖くないの?
「お~。すごいっすね~」
聞き覚えのある声に視線を向けると、リックがいた。ちょうどいい。
「お~い、リック~。この熊の肉、孤児院にも分けるから、このままギルドまで付いて来なよ」
オレとゴルドンで分けても多すぎる。
「本当っすか!ありがとうございますっす。ても配達があと1件あるんで、それ終わったら行くっす!」
「了~解」
仕事中だったようだ。リックはすぐに人波に消えていった。
ギルドに着いて、荷車を馬車用の搬出入口に入れる。
依頼の完了と、解体の依頼手続きだな。
さて、お米はあるか。
「んじゃ、解体の結果だな」
そう言って、酒やけした声で話し始めたのは、解体を専門にするギルド職員のベギウスさん。
解体一筋30年、あらゆる魔物と植物に精通する大ベテランである。血だらけの作業着とエプロンが似合っている。
「まずは、灰色熊だな。ぶっちゃけ状態は悪いな。魔核は割れてるし、毛皮にはでっけえ穴が開いてる。まあ、内臓は無事だった。よかったな。肉を持って帰るんなら、買取はこんなもんだな」
解体手数料を引かれた金額だ。安いが、まあ仕方ないだろう。
「了解です。問題ありません」
「おお、分かった。注文通り肉は3つに分けといたぜ」
「ええ、ありがとうございます」
オレ、ゴルドン、孤児院分だ。
「んで、本題のプラントキメラだな」
来たね。
「はい」
「体のほとんどは、魔の森とそのへんに生えてるもんだったな。見つかったのは変種と新種2つずつだ。」
「はい」
来るぞ。
「まずは、変種だな。手に当たる部分に生えてたヤツだ。皮が金属みたいに固い、蕪だな。鋼鉄瓜と似たもんだ。まあ、虫に食われなくなるくらいしか利点はないな」
いらねえ。
「次はこいつだな。紅陽花の変種だ。元々は赤い花なんだが、見ての通り青だな。元も毒のある花だったが、毒性が強くなっているようだな」
う~ん。エイドルへのお土産にするか?
「で、新種だな。体の奥の方から見つかったもんだ。豆だな。毒性が無いのは確認した。味は食ってみんと分からんな」
ベギウスさんが見せてきたのは小さな豆だ。小さな、豆。見た目はオレの知っている小豆にそっくりだ。
餡子作れる?
「最後だな。最後は木だな」
おおぅ。お米が無いことが確定してしまった。
「おれも見たことが無いヤツだ。今回、採取できた中で一番魔力が濃いな。今は枝みてえな状態だが、たぶん植えたらすぐ生長するぞ」
見た目はただの折れた枝だ。葉の形が見たことがあるような、ないような?分からん。
異世界とはいえ、さすがに木からお米は生えてこないだろう。今回も外れかあ。
「以上だな。持って帰るものはあるか」
「……あ~。じゃあ、最初の蕪以外は持って帰ります。後は売却で」
「おう、分かった。それで清算するぜ。ちょっと待ってな」
「よろしくお願いします」
ベギウスさんがメモした紙を手に事務スペースに入っていった。
「お?終わったか?」
「うん。だいたい終わり。あとは最後にサインかな。ゴルドンも運搬お疲れ。そっちの肉がゴルドンの分ね」
「がっはっは!!この程度は疲れたとは言わんな!!では、それが終わったら飲みにいくとするか!!」
「え、なんで?」
「うむ?冒険者には、依頼が終わったら飲みに行くという決まりがあるだろう!!がっはっは!!」
「いや、初耳だし。オレ冒険者じゃないし」
「うるせえぞっ!ゴルドン!建物の中に響くだろうが!」
「おお、ベギウス。すまん、すまん」
いつの間にかベギウスさんが出てきていた。
「それじゃあ、コーサクさんよ。問題がなければ、これにサインしてくれや」
「……はい。よし。お願いします」
「あいよ。毎度あり。金はギルドの口座にいれとくぜ」
「はい。ありがとうございました」
「うむ!では行くか!」
「うおっ」
ゴルドンに軽々と持ち上げられて左肩に担がれる。ぐえっ、また腹が。
「熊肉は持ち込みだな!何が出て来るか楽しみだ!」
言いながら、ゴルドンの分の熊肉が右肩に担がれた。ゴルドンはそのままギルドの外に向かって歩いていく。疲労したオレの体は上手く動かない。
「お~い。こっちの肉と植物はどうすんだ?」
「い、家に送ってください!」
「コーサクさん。来たっすよ~」
「リック!そっちの肉の山が孤児院の分だから!」
なす術なくゴルドンに運ばれながら、ベギウスさんとリックに必要なことを伝えた。
もちろん、酒場に着くまで非常に目立った。
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