第131話 帝都の状況
欲しい物。欲しい物か。
デュークさんと向き合いながら、どう返すかを考える。
オレの欲しい物はずっと1つというか、もう決まっている訳だが、そもそもデュークさんからお礼をもらうべきなのだろうか。
デュークさんはロゼの父親だ。つまりオレにとっては身内になる。身内を助けて礼をもらおうとはあまり思わない。
「ちなみに、別にお礼はいりませんって言ってもいいですか?」
「それは私が困るね。貴族は借りを作ってはいけない生き物なんだ」
貴族って、生き物の分類なの?
「あ~……じゃあ、ロゼッタをください」
「ふむ。それも駄目だね。あの子は既に家を出ている。私とは関係がない」
関係がない、かあ……。
「じゃあ……子供が産まれたら、ロゼッタと一緒に会いに行っていいですか?報酬はそれでいいです」
デュークさんの目を見つめる。どうだろうか。どう返すのだろうか。
「それは困るね。ロゼッタとは
デュークさんは表情も変えずにそう話した。そう。そうか。なるほど。OK。理解した。
「そうですか。分かりました。ところで、オレは魔道具職人なんですが、いつかデュークさんの領地に魔道具を販売しに行ってもいいですか?」
「それは問題ないよ。私の領地では基本的に商人や職人は拒まないからね」
「それなら、余裕が出来たらお邪魔しますね。
「ああ、そのときは歓迎しよう。
「ええ、よろしくお願いします。はははは」
「ふふふふ。領地に来たら、ゆっくりして行くといい」
デュークさんと2人で笑い合う。横でレックスが『面倒な話し方してんなあ』という顔をしているのが見えた。
うん。いい気分だ。これで報酬は十分だ。オレはお義父さんに会えた。そして、ロゼが今も愛されていることを理解した。
帰ったら、ロゼにいい知らせができそうだ。
「さて、コーサク君に望むものがないのなら、私からは忠告と情報を贈ろうか」
忠告……?そして何の情報だ?
「忠告、ですか?」
「ああ、君たちも帝都に向かうのだろう?それなら知っておいた方が良いことがある」
オレの最終的な目的地は帝都を越えるけど、帝都では補給と情報収集をする必要がある。
「何でしょうか?」
「帝都は今、かなり不安定だ。次期皇帝の座を巡り、多くの貴族が暗躍している。どんなことが起きても不思議ではないほどだよ」
んん?
「次の皇帝って、王太子で決まりじゃなかったんですか?貿易都市ではそう聞きましたけど」
「ああ、元々はそうだった。しかし、氷龍の一件のせいで状況が変わってしまってね。予期せぬ寒波のせいで、帝国はかなりの被害を受けることになった。しかも、氷龍の捕獲作戦を実行したガーディア家の次期当主を、王太子が庇ってしまったんだ」
……王太子も馬鹿かよ。責任は誰かが取らないといけないだろうに。
「……そうなんですか」
「ああ、その結果、被害を受けた他の派閥の貴族から、王太子は次期皇帝に相応しくないという声が上がってきた」
当たり前すぎる。
「その声を受けて、皇帝は王太子の次期皇帝への指名を一時的に取り止めた。今は白紙の状態だよ。誰が皇帝になるかは分からない」
それは……荒れそう。というか荒れるだろう。この大陸の支配者を自称する国の帝位だ。荒れない方がおかしい。
「あの、すいません。帝位を継ぐ候補って、今何人いるんですか?」
王太子で決まりだったから、今まで気にしていなかった。
「今は3人だね。少し前まではあと数人いたのだけど」
……何で減ったのかは聞きたくないなあ。
「一番支持が多いのは、元王太子の第一王子。次点が第一王女。最後は第二王子だ。その3人を擁立する貴族達が帝都に集まっている」
「なるほど……」
超面倒くさそう。
「帝国の貴族は今、その3人のいずれかの派閥に入っている状態だよ」
「……デュークさんもですか?」
「ああ、私もそうだ。私は第二王子の派閥に所属している。まだ幼いが、一番優秀な方だと思うよ」
「なるほどー」
優秀な王子って存在したんだ。でも、第二王子って、さっきの話だと一番人気ないんじゃなかった?
「そういう状態だから、帝都では行動に気を付けた方がいい。裏社会の者と連携している貴族もいる。あまり長居をしないことをお勧めするよ」
……裏社会。帝都の裏社会か。今はどうなっているのだろうか。
「分かりました。ご忠告ありがとうございます。気を付けます」
「ああ、そうしてくれ。話し過ぎてしまったね。この話はこれで終わりだ。食事を続けよう。せっかく、コーサク君が作ってくれたものだからね」
デュークさんが鉄串にパン刺し、チーズに潜らせて口に運んだ。
「うん。美味しいね」
オレも倣う。食べて、明日の分の魔力を回復させなければならない。
チーズの絡んだパンを咀嚼しながらデュークさんを窺う。美味しそうに食べる様子がロゼにそっくりだった。
「デュークさん、ロゼッタの昔の話を聞いてもいいですか?」
デュークさんにロゼの面影を見て、オレの知らないロゼの話を聞いてみたいと思った。
「ふむ……いいだろう。どこから話そうか」
そう言って笑うデュークさんは、貴族ではなく父親の顔をしていた。
翌日。デュークさんの馬車を牽いて街に着いた。幸いなことに、逃げた馬は街に辿り着いていたようだ。
街の入り口で馬車を接続していた鎖を外す。御者さんが嬉しそうに、戻ってきた馬を撫でている。
「助かったよ。これで出費が抑えられる」
「良かったですね」
貴族ともなると、馬はレンタルではなく購入しなければないらしい。見栄を張るのも大変だ。
「さて、コーサク君。ここまでありがとう。君とはまだ話したいが、ここでお別れだ。あまり一緒にいると、君までこの国の事情に巻き込んでしまうからね」
「分かりました。ここで会えて良かったです」
「ああ、私もだよ。落ち着いたら領地に来るといい。歓迎しよう。では、さようならだ」
「はい。さようなら。お気を付けて」
「ははは。君もね」
笑顔で去っていくデュークさんを見送る。帝都では会えないから、次に会うのはデュークさんの領地になる。そのときは3人で会いに行こう。
昨日から静かにしていたレックスが近寄ってくる。
「中々いい親父さんみたいじゃねえか」
デュークさんの後ろ姿を見送る目は、どこか昔を思い出しているように見える。
「そうだね」
尚更、ロゼと一緒に会いに行かないとな。
「よし!オレ達も行こうか。帝都まであと少しだ。飛ばして行こう」
「おう!運転は任せろ!」
あ~、さすがにここまで来ると、他の馬車の往来も多いんだよなあ。
「……安全運転でね?」
「ははははは!」
いや、返事しろよ。
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