第22話 植物キメラ
珍しく、冒険者ギルドから手紙が来た。お米の情報については、冒険者ギルドにも依頼を出している。
もっとも、どこにあるのか分からない植物を持って来てくれ。なんて依頼は出せないので、「特徴の似ている植物を知っていたらギルド職員に声を掛けてください」という表示が冒険者ギルドの依頼板の隅にあるだけだ。
「プラントキメラ?」
手紙の初めの方には、プラントキメラ、植物型の魔物が都市の近くに出現した旨が書かれていた。
「確認された個体は少ないが、周囲の植物を取り込みながら生長し、討伐された際には“変種”や“新種”の植物が採取された記録がある!」
変種や新種だ。お米が見つかる可能性も0じゃない!
後の部分はこれまで採取された植物の記載だったので流し読みする。
以前購入した、仮称メタリックかぼちゃが記載されているのが目に付いた。
「そっか、あれもか。どうりで、いくら魔力があってもあんな進化はおかしいと思った。魔物産か」
手紙から必要な情報は収集した。魔物の素材の権利は討伐した者にある。基本早い者勝ちだ。すぐに動く必要があるだろう。
うし、魔物狩りだ!
と、いうことで現在、オレは冒険者ギルドの前にいる。魔物の討伐を依頼しに来た。当然だ。オレは基本戦わない。
冒険者ギルドの入り口に来た途端、建物の中から何かが飛んできた!
「危なっ」
横っ飛びして避ける。飛んで来たのは人だ。鎧を着ているし、何かマントも付けていたがたぶん冒険者だろう。地面に落ちてゴロゴロと転がっている。
喧嘩か?ずいぶんと下手くそな受け身だな。
ギルドの中からもう一人出て来た。背中にさした2本の長剣が特徴的な冒険者だ。
「ったぁくよお、ヒヨッコがピーピー騒ぐんじゃねえよ。あん?『爆弾魔』じゃねえか」
「その名前で呼ぶんじゃねえ『切裂き男』」
犯罪者みたいに思われるだろうが。
オレを変なあだ名で呼ぶのは、『切裂き男』スライ。腕の良い冒険者で変態だ。
こいつが喧嘩とは珍しい。柄の悪い変態だが、基本的には常識的に行動しているはずだ。
「何やってんの?」
「あア?こいつがよお、俺が取ろうとした依頼を横から取りやがって。テメエじゃ死ぬから無理だっつたら、自分が貴族だとかぬかしてピヨピヨ鳴くからよお、狩れる能があんなら避けろよってぶん殴ってみたとこだ。避けずにふっとんでやんの」
「何言ってんだ?貴族が冒険者になる訳ないだろ?」
「そいつァ、そこで転がってるヤツに言えよ」
「転がってなどいない!」
いや、転がってたよ。ゴロゴロしてた。
「私は栄光あるシュタイナー家現当主が第一子!ストームだ!私に対する侮辱は許さん!」
自分の家を皆が知っている前提で話すなよ。知らねえよ。
ヨタヨタと立ち上がり、叫んでいるのは少年。若い、というよりも幼い顔をしている。年齢は高めに見ても10台半ばだろう。
受け身や立ち上がる際の動きに無駄がありすぎる。戦闘経験はほぼ無いな。
「依頼って、何を受けようとしてたんだ?」
「ああン?二刀鹿だよ。そろそろ、若けえのが育って美味え時期だろ?」
名前の通り、2本の角の先端が刀のようになっている鹿の魔物だ。でかい。体重を乗せた高速の突進は、たとえ防具を着ていても食らえば串刺しになる。その動きの速さから討伐の難易度は高めだ。
少年を見る。着ている鎧は細かな装飾をされ、くもり無く太陽の光を反射していて、マントはここからでも滑らかさが見て取れ、ほつれ一つない。剣と鞘にいたっては、美術品か、というくらいゴテゴテに飾りと彫りがある。小さな宝石まであしらわれている。
実用性が皆無だ。これでは森を歩くのも無理だろう。
「確かに、こりゃ止めて正解だな」
「だろお?バカでも死なれちまったら、飯がまずくなるからよお」
「それは同感」
「侮辱するなと言っている!!私は貴族だぞ!!」
ん~。確かに身に着けているものからして貴族なのは本当なのだろう。……だけど。
「貴族にしては、ずいぶんと魔力が少なくない?」
「あン?魔力なんて見ただけで分かんねえよ」
「……っ!!……っ!!」
オレの言葉を聞いた少年がプルプルと震え始めた。パクパクと開閉する口からは声が出てきていない。やべっ地雷踏んだ?
う~ん。少ない魔力量と過剰に反応するこの態度、そして貴族のいないこの都市で冒険者となっていること。ついでに貴族には必ずと言って良いほど付いてくる護衛の姿も無し。
以上のことから推測されるのは……たぶん魔力が少なすぎて家を追い出されたな。第一子なのに。
貴族は自らの強大な魔力量を誇りとしているからな。外面を病的に気にする貴族達は魔力が少ないものは家族だとしても貴族とは扱わない。
魔力量はある程度遺伝される。この少年の下に何人兄弟がいるのかは知らないが、たぶん下に貴族らしい魔力を持つ者が生まれたんだろう。
まあ、たまにあることだ。家の恥だと消されなかっただけマシだろう。
「すまん少年。馬鹿にするつもりはないんだ。大丈夫だ。人生意外となんとかなる。住む国が変わるくらい大したことじゃないよ」
オレなんて住む世界ごと変わってるからな。国が変わるくらい余裕だ。
少年はまだ再起動しない。よほどショックだったか。悪いことをした。次に会った時にはお菓子でもあげよう。
美味しい食べ物さえあれば、人間どこでも生きていけるものさ。
「よし!スライ、後は任せた。面倒見てやれよ?」
「はあっ?勝手なこと言うんじゃねえよ」
「頑張れよ~、少年」
慌てるスライと固まっている少年を置いてギルドに入った。なんだかんだで面倒見は良いヤツだから大丈夫だろう。
さてと、依頼を受けてくれる冒険者はいるかな?
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