第47話 唐揚げ
オレの目の前には大量の鶏肉がある。レックスからもらったものを冒険者ギルドで解体してもらった。肉だけで良かったのだが、魔核までもらってしまった。野球ボールサイズの魔核だ。深い紅色をしている。大きさと色からかなり強い魔物だったのだろう。
祭りの開始はもう明後日だ。まずはこの鶏肉で唐揚げを試作してみないとな。
唐揚げに使うのはモモ肉だ。ムネ肉でも手間を掛ければ美味しく作れないこともないが、やはりモモ肉ほどのジューシーさは無い。
ただ、使うのがモモ肉だけだと、他の部位の肉が大量に余ってしまうのだが……どうするか。いくつか孤児院にお裾分けするとして、また干し肉作るか?熊の干し肉がまだまだあるが、ムネ肉とササミの干し肉も好きなんだよなあ。他の部位も色々と料理したいな。
まあ、祭りが終わったら考えよう。強い魔物は死んでも肉が悪くなりづらい。冷蔵室に入れておけば問題ないだろう。
「わふ!」
「ん?どうしたタロー?」
足元にいたタローに目を向けると、鶏肉を見つめながら尻尾をぶんぶん振っている。オレと同じ黒い瞳が輝いている。食いたいのか?大量にあるから別にいいけど。
「少しなら食っていいぞ?どれが食いたいんだ?」
教えなくても自主的に「待て」が出来るんだから、やっぱり魔物は頭いいよな。
「わふ!」
タローの視線の先にあるのは赤い内臓。あれは心臓、つまりハツだな。
「……お前、中々渋いとこ選ぶな」
「わふぅ!」
大きな魔物だけあって、心臓もでかい。タローが食えるサイズに切り取って皿に入れて渡してやる。
「はいよ」
「わふ!!」
タローは勢い良く食べ始めた。口元を赤く染めて心臓を食いちぎっている。うん……小さくても狼だな。食い方に野生を感じるぜタロー。
オレも今日の夕食はハツの焼き鳥にでもするかな。
とりあえず、今使わない部位は冷蔵室に突っ込んでおいた。さて、唐揚げ作るか。
唐揚げ試作、レッツクッキング!
まずは、試作用に切り出したモモ肉の塊を1口サイズに切っていく。
切り終わったらボウルに移して、醤油と酒、生姜とニンニクをすりおろして入れる。
本当は料理用に日本酒使いたいけど、お米ないからなあ……。
今はどうしようもない。
鶏肉は少し置いておいて、油の準備もしておくか。鍋に油を注いでいく。たっぷりと。ここでケチってはいけない。もったいないとか思わない。
油の鍋も加熱を開始する。低目の温度に設定した。
下味も大体ついただろう。小麦粉と片栗粉をまぶして、余計な粉を落とす。
油の温度も問題なさそうだ。準備はOK。揚げるか。
衣の付いた鶏肉を油に投入する。油の温度が低目のため、音も軽い。たっぷりの油の中を鶏肉が泳ぐ。
……そろそろいいだろう。
まだ、色付きの薄い鶏肉を引き上げ、油を切っておく。余熱で火を通す。
余熱で中まで火が通ったら、もう一度油に投入だ。高温にした油に鶏肉を投入する。
先ほどとは違い、油の弾ける音も強い。さっきよりも乾いた音が大きく響く。
2度目は短時間だ。色を見てすぐに油から取り出す。うん、持った感じでも外側はカリカリになっている。
そういえば、当たり前のように2度揚げしたが、屋台ではどうしようか。屋台で2度揚げ、行けるか?……唐揚げ用に鍋2つ準備する?フライドポテトと合わせて3つだな。大変そうだ。どうせ、採算あまり考えてないしな。いいか。
全て揚げ終わった。油が落ちたものを味見してみる。
2度揚げのおかげで、外側はカリっとしている。
「アチっ」
揚げたてなので、当然熱い。口の中で冷ましながら食べる。歯を立て、カリっと揚がった衣を抜けると、柔らかな肉が現れる。内側に閉じ込められていた肉汁が溢れてくる。
この魔物の肉自体も良い物のようだ。食べ応えのある肉の弾力。衣の油と肉汁、優しく感じる醤油の風味、かすかなニンニクの香りが合わさり、とても美味しい。
「ああ、美味いなあ……」
ご飯食べたい。
やっぱり揚げ物は揚げたてが一番美味しいと思う。
「わふ!」
ハツを食べ終わったタローがオレの手元を見て尻尾を振っている。
「なんだタロー。お前も食べたいのか?……というか食えるのか?調味料入れてるけど」
グレンさん曰くなんでも食えるとのことだったが、唐揚げ、食えるの?
とりあえず、1個割ってタローの前に出してみる。
「食えそう?」
タローは唐揚げに鼻先を近づけて、クンクンと匂いを嗅いでいる。
「わふ!」
相変わらず尻尾ぶんぶん振ってオレを見上げて来るが、それは食えるってことでいいのか?
冷ました唐揚げを皿に入れてみる。
「ほいよ」
「わふぅ!」
タローは唐揚げを食べ始めた。問題なく食べれるようだ。さすが魔物。
雪が融けたら、運動しに森へ連れて行ってやらないとな。今は家の庭走り回ってるだけだし。
さて、唐揚げの出来は問題ないだろう。
今日は屋台の看板を作って、明日1日掛けて、ジャガイモと鶏肉の処理だな。
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