第44話 雪像作り

 この都市で祭りが開かれるらしい。ついでに雪像も作ると。それはいいのだが。


「ところで、都市運営の職員の人達は余裕あるんです?」


 氷龍の対策開始から現在進行形で働き詰めだと思うんだけど。


「ん?ああ、なんとかなるだろう。少しは落ち着いてきたからな」


 本当に?一昨日、タローの従魔登録で言ったら、完全な修羅場だったよ?けっこう皆やべー顔してた。『仕事の邪魔をしたら、殺す!』って雰囲気を出してたけど。


「本当ですか?氷龍の飛来での被害は0だけど、過労で死にましたとか嫌ですよ?」


「はっはっは、大丈夫だ。今はちゃんと休息を取らせているからな。アイツらも頑丈だし行けるだろ」


「ええー……」


 大丈夫かなあ。ギルバートさん自分が普通に激務をこなせるから、他の人も行けると思ってない?

 というか、でかい雪像を作るとなる人手が必要な訳で。そうなると、必然オレは職員さん達と仕事して提案したりもする訳で?

 ……今の修羅になってる職員さん達に恨まれたりしない?行ける?


「なんだ?乗り気じゃないのか?」


「そういう訳じゃないですけど」


 今、死にそうなほど頑張っている人に、もっと死ぬ気でやってくれって言いづらいというか。むしろそれは死の宣告では?


「今回の件を受けてくれたら、帝国への交渉で、コーサクが探している穀物についても情報を収集してみようと思っていたんだが……」


 !! マジですか!?


「やだなあギルバートさん。都市のために協力するに決まっているじゃないですか!ええ、雪像。いくらでも作りますよ雪像。魔道具使えばどんなものだって作れますよ。そうだ!氷龍の雪像作ります?オレ実物見てたんで作れますよ。あ、一般の人達にも作ってもらってコンテストとか実施するのもいいかもしれませんね。冒険者も森に行けなくて暇してますからね。参加者けっこういるんじゃないですか?なんなら、賞品でオレの魔道具出しますよ。ええ、いくらでも。審査員は選ぶより、都市の皆で投票する方式にした方が盛り上がると思いますね!祭りといえば屋台とかどうするんですか?いつもの屋台通りの食べ物だけじゃ変化がないんで、オレ何店舗か出しましょうか?オレの故郷ではこの都市には無い食べ物の屋台もいっぱいありましたからね。この都市にある食材でも作れるものに心当たりもあります!大丈夫です!オレなら魔力アームを使って1人で10分くらい働けますから、それから」


「分かった!分かったから落ち着け!」


 いやいやいやいや。この都市のトップが、オレの知る商人のトップが直々に帝国相手に情報収集してくれるんだよ?金貨千枚より価値がある。なんなら、氷龍対策の報酬もいらないくらいだ。お米の情報のためなら全力を出すよ!


「ふうう~……何はともあれ協力は惜しみませんので」


 一気にしゃべり過ぎて酸素が足りなくなった。ちょっと苦しい。


「ああ、分かったが、さっきと言っていることがずいぶん変わったな」


「気のせいじゃないですか?」


 ギルバートさんは帝国に優位に立ててWin。オレはお米の情報が手に入ってWin。都市運営の職員さんは皆この都市が大好きなので、都市のために働けてWinだ。

 つまり全員が得をする。さすがこの都市のトップ4、完璧な戦略だ。


「そういえば、実際資材とか食料とか余裕あるんですか?」


「そこは大丈夫だ。元々この都市は、有事に備えて大量の物資を保管しているからな。まだ余裕はある。それに冒険者のおかげで道もかなり復旧した。金は掛かったがな。だから他からの調達も問題ない」


 それは何より。貿易都市で貿易が出来なかったら大変だからね。


「肝心のところを聞いていませんでしたけど、祭りっていつ開くんですか?」


「とりあえず、開催は氷龍の影響がなくなる前日からだな。期間は今調整中だ」


 ……それって、今日を入れても準備期間3日しかないのでは?


「……後で職員の人達に甘い物でも差し入れします」


「はっはっは。それは喜ぶだろうな」


 結局、ドライフルーツ作らなかったしな。甘いタルトとケーキでも作って渡そう。職員さんいつもお疲れ様です。


「で、オレは何から始めましょうか?」


「そうだな。職員と冒険者を何人か付けるから、雪像の場所を設定して、見本で何体か作ってみてくれ。さっき言っていたコンテストをやるかどうかと、宣伝はこっちで手を回す。後は思いつくことがあれば、職員の許可が出たら自由にやっていい」


「分かりました」


 おお、自由行動の許可が出た。作れたら、雪の城でも建ててしまおうか。


「魔道具を使った場合の費用も都市運営から出す。任せたぞ」


「おお!了解です!」


 魔石代を持ってくれるとは太っ腹!思いっきり行こう!あ、タローは孤児院で留守番な。




 オレは今、都市の広場に来ている。目の前には雪の積もった広い敷地。職員さんと協議して決めた場所だ。


「え~と、こうしてああして、よし!防壁展開!」


 起動した魔道具によって、円柱型の防壁が立ち上がる。直径3m、高さ5mの巨大な結界だ。


「うし、OK。じゃあ皆さんよろしくお願いします」


 オレの言葉を聞いた冒険者達が結界内に雪を放り込んでいく。結界は、外から内へ雪を通すが、内から外へは雪を通さないように設定している。


 ギルバートさんはオレに冒険者を10人付けてくれた。その冒険者の身体能力によって、短時間で大量の雪が積まれて行く。


「おお~、はえ~」


 あっという間に巨大な雪の柱が出来上がった。今はその上を踏んで固めている。

 固めないと結界解除したらたぶん崩れるからな。


 5mの高さから、雪を固め終わった冒険者達が降りて来る。その1人がオレの前に着地した。


「コーサクさん終わったー」


「ありがとう、ジーン。はい、干し肉あげる」


「お、おおお!コーサクさんありがとう!」


 手伝ってくれる冒険者には『黄金の鐘』の3人もいる。ジーンは喜びすぎじゃないかな?


「じゃあ、エリザよろしく」


「はい!~~~~『凍れ!』」


 圧縮されて固くなった雪をさらに凍らせる。これで削っても簡単に崩れたりはしないだろう。


「よし、『解除』」


 支えとなる結界が無くっても雪の柱は崩れない。大丈夫そうだ。


「さて、オレの出番だな。身体強化『全身:中』で起動。加えて『工具箱』起動『魔力腕:6』」


 オレの体が強化され、周囲に6本の半透明な腕が浮かび上がる。


「おし!やるか!」


 作るのは、この間遭遇した灰色熊の雪像。あの時の灰色熊を思い出す。暴力的に力強い体格を、鎧のような毛皮を、それを押し上げる筋肉を思い出す。


 生み出すのは咆哮する灰色熊。あの迫力を、あの威容を雪を削って表現する。


 強化された脳が、縦横無尽にアームを操作する。細かい部分は自分の手で削る。


 出来上がっていく灰色熊のシルエットに、より深く集中する。周りの音も色も今は不要だ。雪と影だけが在るモノクロの世界で、オレは灰色熊だけを見る。


 全身が出来た。最後に灰色熊の鋭い目と咆哮を上げる口も仕上げて……。


「完成!」


 一点集中していた意識を元に戻す。広場に現れた灰色熊。うん、迫力ばっちり。自画自賛だけど、再現率すごいな!耳にあの咆哮が聞こえてきそうだ。


「おお~」

「すごいですね」

「迫力あります!」


 冒険者達からの評価も中々のようだ。

 さて、ギルバートさんからの依頼は雪像を何体か、だ。次に行こう!

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