第136話 蛇を狙う罠
ルヴィが所属する『白の蛇』という組織にどうやって接触するかを考えた結果、オレは今魔道具を作っている。
外見は指輪だ。量が必要なので、小さな安い魔石に必要な魔術式を詰め込んでいる。宿屋の床には、出来上がった魔道具がいくつも転がっていた。
「これで最後か。完成っと」
「できたのか?」
干し肉を噛みながら、暇そうに見ていたレックスが聞いてくる。
「うん。出来たよ。これで準備は問題ない。冒険者ギルドに行こうか」
「おう」
『白の蛇』という組織は実体が掴めない。ただ、規模は結構大きいようだ。アジトの場所さえわかればオレとレックスで突撃するだけだが、今回は残念ながら無理だ。
こちらは2人。あちらはたくさん。闇雲にルヴィを探しても、無駄に時間が過ぎるだけだろう。
だから、ちょっと人手を借りようか。
冒険者ギルドの受付で、若い女性の職員が困惑したような顔をしている。
「ええと、こちらの依頼内容で、本当にお間違いはありませんか?」
「はい。問題ありませんよ」
「そ、そうですか。分かりました。手続きをいたしますので、少々お待ちください」
「ええ、よろしくお願いします」
うん。こちらも問題ないようだ。依頼内容は、下手をすれば悪戯に見えるような内容になってしまった。
職員さんが困った顔をしたのもそのせいだろう。オレ1人では断られたかもしれない。レックスがいてくれて助かったな。
高位の冒険者が立ち会う依頼を、ギルド側も無下にはできない。
書類を記載していた職員さんが顔を上げた。終わりかな?
「あの、申し訳ありません。こちらの依頼内容ですと、ギルド規則により報酬の半分を先にお預かりすることになるのですが、問題ないでしょうか」
ああ、なるほど。悪戯や詐欺だったら大変だもんな。
「はい。大丈夫ですよ」
鞄を開き、必要なお金を支払う。中々重い。
「……確かにお預かりしました。それでは、こちら依頼の控えになります。依頼の期間終了後に、またお越しください」
手続き完了。もらった紙を丸めて鞄に入れる。
「では、また来ますね。ありがとうございました」
「はい。またのご利用お待ちしております」
美人な職員さんに見送られて、冒険者ギルドを後にする。
ちなみに、ギルドの依頼板に貼られた内容はこんな感じだ。
~依頼内容~
帝都の至る所に、悪戯で魔道具が埋められていることが確認された。
公共の秩序維持の観点から、この魔道具を回収したい。
回収できた者には、魔道具1つにつき金貨1枚を報酬として支払う。
なお、依頼を受けた者には、対象を察知することができる魔道具を無償で貸与する。
(使用方法については、冒険者ギルドから説明を聞くこと)
注意:先着50名
依頼者:元銀級冒険者 『爆弾魔』コーサク
金貨1枚は、帝都の中で受けられる依頼としては破格の報酬だ。50人くらいなら、簡単に集まるだろう。
帝都の冒険者は多い。当然、稼ぎの少ない冒険者もたくさんいる。楽に稼げると判断すれば、血眼になって探す奴もいるはずだ。
底辺の冒険者にとって金貨1枚は大金だ。依頼を受けた冒険者の、その欲望に期待しようと思う。
さて、次に行こうか。
帝都の外れ、小さな古い一戸建ての前で、不動産屋と交渉する。
相手は目付きの鋭い中年の男性だ。ちょっと堅気には見えないな。
「お客様のご希望の住宅となりますと、こちらが最適かと思われます」
「ええ。良さそうですね。ここでお願いします」
周りに人住む民家はなし。人通りも少ない。値段も手頃。いい感じだ。
「毎度ありがとうございます。それではこちらにサインをお願いいたします」
契約書の内容に目を通す。問題はなさそうだ。名前を記載する。
「はい。お願いします」
「ありがとうございます。これで契約は完了です。他の土地もお求めでしたら、ぜひ当店へお声がけください」
「ええ。ありがとうございました」
手続きは終了だ。去っていく不動産屋さんを見送る。これで、この家はオレの物になった。2階建ての小さな家。同じく小さな庭がある。ちょうどいい大きさだろう。
さっそく魔道具を取り付けていく。
手持ち無沙汰なレックスが、庭の雑草を一瞬で刈り取った。
「金、かなり使ったけど大丈夫なのかよ」
うん。冒険者ギルドへの依頼と、この家の一括購入で、結構な額が吹き飛んだ。それでもまあ、必要経費だ。問題ない。
「大丈夫だよ。お金なんて、所詮は手段の1つだし。必要なら躊躇なく使うさ」
「そりゃそうか」
レックスは簡単に納得した。レックスが魔物を狩れば、オレが使った金額くらいはすぐに貯まるからな。
そもそもレックスは、あまり金には頓着しないし。
レックスと話ながらも、庭や建物の内部に魔道具を設置していく。警報装置に防壁に罠を各種。
小さな一軒家が、見た目はそのままに、オレの要塞へと変わっていく。
『白の蛇』をこちらから探すのは難しい。ならば向こうから来てもらおう。
オレは『白の蛇』の邪魔者になった。アイツらがコソコソと設置している爆弾を、冒険者は大っぴらに回収する。
オレが依頼を止めない限り、それは止まらない。
貴族すら襲う奴等が、邪魔なオレを放置するだろうか。いや、しないだろう。自らの暴力に自信があるのなら、オレの排除に動くはずだ。
オレは奇襲や暗殺に強い。心構えさえしていれば、魔力察知により常に先手を取れる。毒見の魔道具により、毒への対策もできている。
拠点が作れるのなら、魔道具による守りも堅い。長期になると厳しいが、短期間の防護なら自信がある。
それにレックスもいる。魔境に籠ることの多いレックスは敵意に敏感だ。それこそ熟睡していたとしても、脅威を感じれば即座に飛び起きる。
オレもレックスも自分の身を守ることは得意だ。予想外の事態が起きても、大抵のことには対処できるだろう。
半面、2人とも他人を守ることは苦手だけど。
ロゼが万全な状態で一緒にいるならば、他の協力者を得る選択肢もあった。だが、今はいないのでしょうがない。
人を守ることにかけて、オレはロゼに遠く及ばない。意識の差だろう。オレは守るために、より早く脅威を排除することを狙う。
逆に、ロゼは守ることを中心に置いて戦い方を組み立てる。
ロゼがいない今、オレにとって一番困るのは人質を取られることだ。だから、今回は協力者は作らない。帝都には昔の知り合いもいるが、頼らない方向で行こうと思う。
同じく、デュークさんに頼るのもなしだ。
「よし。こんなもんだろう。出来た」
事前に作った魔道具は全て設置した。何の変哲もないこの家は、これで罠の箱になった。
オレを狙って家に入ろうとすると、何重にも仕掛けた侵入検知器と罠が発動する。捕まったら、しばらくは自力で動けなくなるだろう。
家そのものがネズミ捕りの罠みたいなものだ。エサはオレ自身。今回狙うのは蛇だけどな。
さあて、蛇どもよ。
待ってるよ。
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