第21話 元女騎士さんをお見送り
「ん……。眩しい……」
顔を上げると朝だった。朝日が顔に当たってとても眩しい。
目の前には酒の空ボトルが乱立するテーブルに、突っ伏して眠っているロゼッタが見える。
昨日、いや今日か。酔って帝国時代の愚痴をひたすら言うようになったロゼッタに付き合って、かなり長い時間飲んでいた記憶がある。そのまま眠ってしまったようだ。
「ぐっ、うっうー」
伸びをすると、ずいぶんと体が固まっているのが分かる。無理な姿勢で寝ていたせいだろう。
「ロゼッタ」
呼んでも起きない。寝息だけがすーすーと聞こえる。
辛そうな体勢のロゼッタを抱えてソファに寝かせた。ついでに薄手の毛布を持って来て掛ける。熟睡している。
「とりあえず、風呂だな」
体が汗でべたべたしているし、アルコールも若干残っている。風呂に入ってこよう。ロゼッタも起きたら入るだろ。
風呂から上がり、大分目も覚めたので、昨日の片づけを始める。酒のボトルや食器類を洗っていく。
「う、ううん……」
静かに洗い物をしていたつもりだが、音に反応したのかロゼッタが起きた。
「おはよう」
「……おはよう」
「風呂湧いてるから、入って来なよ」
「ああ、……手伝おうか?」
洗い物を続けるオレを見てロゼッタが言う。
「いや、いいよ」
「……そうか」
少し残念そうに言いながら、ロゼッタは風呂に向かった。
ごめん。役に立ちたいのは分かるんだけど、ロゼッタ皿割っちゃうから……。
ロゼッタも風呂から上がり、お互いに昨日の酒で食欲があまり無いため、作り置きしているドライフルーツとお茶で軽食をとることにした。
「しばらく泊まってもいいけど、これからどうするの?」
ロゼッタは宿暮らしだ。所持金がなければ行く宛てもないだろう。宿とは長期契約もしておらず、都市を長く空けるときはオレの家に荷物を置いている。
「次は王国に行こうと思っている。昔の知り合いが、領地周辺の魔物が増えたために、人を募集しているようなのだ」
魔物は定期的に討伐しないと、当たり前だが増える。増えてエサが無くなれば食料を求めて人里に出て来るので、魔物の増加傾向が見えたなら、その知り合いも大急ぎで対応していることだろう。
「まあ、その前に路銀を確保しなければならないがな。少し魔物の討伐に出るつもりだ」
「お金貸そうか?」
「いや。ありがたいが、遠慮しておく。親しい仲であればこそ、金銭の貸し借りはしてはいけない。と、お爺様から良く言われていたからな」
良いこと言うねお爺さん。
「じゃあ、お金が貯まるまで泊まっていって」
「ああ、ありがとう。感謝する。だが、明日には出発するつもりだ。今日、ギルドに行って依頼を確認し、明日から必要額に届くまで森に籠ろうと思う」
ロゼッタの強さなら、この周辺も魔物相手に不安はないだろう。
「そう。じゃあ携帯できる保存食、いくつか用意しておくよ。甘いクッキーとドライフルーツも付けるよ」
「ふふふ。ありがとう。それは楽しみだ」
その後、ロゼッタは冒険者ギルドに向かった。
ロゼッタは強い。魔物の討伐をしていれば、冒険者としてかなり稼げる。生活も問題ないだろう。
けれども、護衛のような、誰かを守る仕事を優先的に選んでいくのは、やはり騎士への未練なのだろうか。
翌日、出発するロゼッタを家の前で見送る。
「はい、これ。保存食。オレの特製干し肉にクッキー、チーズと、後はドライフルーツね。こっちは応急手当用のセット」
「ああ、ありがとう。ふふふ。これだけあれば、いくらでも戦えるな」
「無茶は駄目だよ」
「ああ、気を付ける。大丈夫だ。鎧のあてもある。そのまま王国に向かうつもりだから、しばらく会うこともないだろう。コーサクも元気で。いってくる」
「いってらっしゃい」
そうして、ロゼッタは颯爽と出発して行った。
次の仕事は上手くいくことを精霊に祈ろう。
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