第97話 梅干し作り開始

 秋の気配を感じる今日この頃、庭の梅の熟し加減がいい頃合いだ。黄色く色付いている。収穫しようか。


「ロゼッタも手伝いよろしく」


「うむ。任された」


「じゃあ、『防壁』展開っと」


 梅の木の周囲に防壁の足場を作る。その防壁を登って収穫を開始した。


「眩しい……」


 暑さは弱まったが、収穫のために上を見ていると眩い日差しが目に入る。

 サングラスが欲しい。この世界には無いけど。頑張れば作れるかもしれないが……たぶんバカ高くなるな。使う頻度も少ないし、いらないか。


 柔らかく熟した実を摘んでいく。感触は柔らかい。


「ロゼッタ~。あまり力入れない方が良さそう。この前より柔らかいからすぐ潰れるかも」


「分かった。大丈夫だ。あっ……」


 ぶちゅ、と、ちょっと何かが潰れた音がした。


「……頑張って」


「う、うむ」


 まあ、慣れれば大丈夫だろう。


 少し前に緑の状態の梅も収穫し、酒に漬けた。梅酒は作ったことがなかったので、適当に買ってきた4種類の酒に漬けてある。上手くいくことを祈りたい。

 梅酒は自家用だ。オレは酒の販売許可を持っていないので、売りに出したら普通に捕まる。


 酒の市場は大きいからな。密造はやばい。家で作って自分達で消費する分には、この都市では黙認されているけど。


 今収穫している梅は梅干し用だ。やることが多い。手早く作業を進めよう。




 手に細い木の串を持ち、ひたすらチマチマと梅のヘタを取っている。1人でだ。ロゼッタは細かい作業が致命的に苦手なので、これは任せられない。


「コ、コーサク。私に手伝えることはないか?」


 先ほどから手持ち無沙汰でウズウズしていたロゼッタが声を上げる。手伝い。何かあるか?


「あ~。そうだ。重しに使う石とって来てくれる?」


 倉庫に余ってる素材でも載せようかと思ってたけど、ちょうどいいから頼もう。え~と、梅の量から考えて。


「このくらいの大きさかな?2、3個持って来てくれると嬉しい。よろしく」


 手で、だいたいのサイズをロゼッタに伝える。


「うむ。分かった。行ってくる。タロー、出掛けるぞ!」


「わふ!」


「いってらっしゃーい」


 オレは作業を続けよう。ヘタ取ったら、水洗いして、水分拭きとらないとな。




「ふい~。あっちい」


 湯気を当てる大鍋の前で声を上げる。茹でているのは陶器の瓶だ。梅干し作るなら、ちゃんと消毒しないとな。


「煮沸消毒完了っと。冷まして拭いたら梅漬けるか」


 塩~。塩っと。計算したら大量に使うな。さすが保存食。塩がえげつない量に見える。


 瓶から水分を拭きとり、さらに度数の高い酒を染み込ませた布巾で拭いて消毒する。


「んじゃ。やりますか」


 瓶の底に塩を振って、丁寧に梅を並べて塩を振りかける。その上に梅を並べて塩を振るを繰り返す。


「ただいま!戻ったぞ!」


「わふ!」


「おかえりーって、どうしたのそれ?」


 ロゼッタは石の他に、土まみれの棒を持っている。え~と、自然薯?長芋?


「うむ。森を歩いていたらタローが見つけたのでな。掘り返してきた」


「わふう!」


「へえ。今日の夕食に使おうか。タロー。良くやった」


 今は梅触ってるから無理だけど。あとで撫でてやろう。


「とりあえず、お疲れ様。石ありがとう。助かったよ」


「ふふふ。これくらいは簡単だ」


 さて、オレもあと少しだ。続けよう。




 梅を瓶に詰め終わり、最後に洗った石を載せた。これでしばらくは放置だ。長くても1週間くらいだろう。

 その間に紫蘇も準備しないとな。確か、それっぽいのが薬草屋に売っていた。買ってこないと。


 とりあえず、梅干しの第一段階は終わった。紫蘇の処理したり、処理した紫蘇追加したり、干したりと作業はあるが、まだ先だな。


 さて、目の前に、残った梅の実がある。傷があるものや、少し傷んだ箇所があるものだ。梅干しには使わなかった。


「こっちは、ジャムにでもするかね」


 さっき一緒にヘタは取ったから、煮込んで種取るだけだな。


 鍋に水と梅を入れて火にかける。傷んだ部分は切り取っておいた。


 灰汁を取りつつ加熱して、火が通ったら種を取っていく。1個ずつ取るのが面倒臭い。


「むう。『魔力腕:4』発動」


 計6本の手で、梅を握り潰しながら種を取り除いていく。魔力腕は熱さを感じないから楽だ。


 種を一通り取り終わり、鍋の中には潰れた梅の果肉が沈んでいる。そこに砂糖を大量に投入し、煮込んでいく。

 灰汁を取りつつ、とろみが付けば完成だ。


 煮沸したビンに詰めていく。


「おし!こっちも出来上がり!」


「うむ。お疲れ様。お風呂は沸かしておいたから、入ってくるといい」


 確かに。けっこう汗をかいた。まだそれなりに暑い上に、ずっと鍋の前にいたからな。


「うん。ありがとう。その前に、ロゼッタも味見どうぞ。はい」


 ロゼッタに匙に掬った梅ジャムを渡す。


「いただこう」


 梅ジャム何に使おうかな。普通にパンに塗ってもいいけど。


「む!甘酸っぱくて美味しいな!香りも良い!」


 梅ジャムを食べたロゼッタが目を見開いて感想を口にした。


「わふ!」


「タローも食べたいのか?いや、でも……いけるか?」


 タローは尻尾をぶんぶんと振って、期待した目でこちらを見ている。大丈夫か?けっこう酸味あるぞ?


「じゃあ……少しだけ」


 タローの開いた口に少し梅ジャムを入れてやる。パク、とタローの口が閉じた。


「っ!?わふう!」


 タローが頭を左右に勢い良く振る。酸っぱかったらしい。やっぱり無理があったか。


「ほら。水だぞー」


 タローに水を飲ませて落ち着かせる。


「わふぅ」


「ははは。ごめんなー」


 タローに梅は無理っと。梅干しもあげないように気を付けないとな。


 とはいえ、タローを仲間外れにするのも、あれだから。


「今日の夕食は煮物にしようか。ロゼッタとタローが採って来てくれた山芋と、豚肉使って。砂糖の代わりに、今作った梅ジャム入れてみるよ」


「ふふふ。それは楽しみだ」


 たぶん照りが良くなるはずだ。少し夏の暑さが残る今日には、酸味もちょうどいいだろう。タローも、それなら食べられると思う。

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