第52話 閑話 第2話
猟師さんの後を必死で追いかけて、村っぽい場所に着いた。明らかに異国人のオレを見にか、人が集まって来ている。
「はあー、はあー、げほっ、ふうー、はああ」
そんな中でオレは完全にグロッキー。脇腹が痛い。時間から考えると、たぶん10kmくらい走ったはずだ。普段走らない社会人に、突然の10km走は厳しすぎる。吐きそう。むしろ良く走ったと思う。
疲労困憊で周りを観察する余裕が無い。ふはあ、頭がクラクラする。あと10分休憩させてください。
「――――」
「ふう、はあ、はい?」
あれ?猟師さんに腕を掴まれた。そのまま村の中へ連れていかれる。休憩はダメ?そうですか駄目ですか。
足、ガクガクなんですけど。
連れていかれたのはこの場所で一番大きいお宅。中にいたのは人の良さそうなお爺さん。好々爺とはこのことか。この村?の村長さんかな?
「こんにちは」
「――――――」
「―――。――――――」
とりあえず挨拶してみたけど。うん、なに言っているか分からない。
オレをよそに、村長さん(仮)と猟師さん(仮)が会話をしている。時々オレを見てくるので、十中八九オレに関することだろう。
ここまで来るのに見た感じ、この家を含めて電子機器が一切なかった。一体ここはどこなんだろうか?
「――――。――――?」
「え?すみません。何言っているか分からないです」
2人の話が終わったのか、急に猟師さんに話し掛けられた。反応しない訳にもいかないので、とりあえず日本語で返しておく。ニュアンスだけでも伝わらないかな?
「―――」
猟師さんに溜息をつかれた。なんだか「やれやれ」みたいな仕草をしている。村長さんは微笑を浮かべるのみだ。
ええ、お手数をお掛けしてごめんなさい。
猟師さんについて来いというジェスチャーをされたので、再び後ろをついていく。村長さん宅を出ると人が増えていた。30人くらいいるか?子供達には指を指されている。
そういえば、ここの人は皆カラフルだ。肌の色は普通だが、髪や目が色彩濃淡様々だ。蛍光グリーンの髪とか初めて見た。地毛なんだろうか?
オレと同じ黒髪黒目はいない。
猟師さんに連れられ、村の端の方まで歩いていく。
一軒の家に着き、猟師さんはそのまま入っていった、オレも入っていいんだろうか?
「―――」
家の前で躊躇っていると呼ばれた。入っていいらしい。
「お邪魔します」
家の中には、毛皮や角、用途が分からない器具などが置かれていた。家具はあまり見当たらない。嗅ぎ覚えのない匂いは、なめし用の薬品だろうか?
「――――ルヴィ」
「はい?」
猟師さんが自身を指指して何かを言っている。
「――、――、ルヴィ」
もしかして名前だろうか。
「え、と、ルヴィ?」
「―――」
頷かれた。正解だったようだ。目の前の猟師さん(仮)改めルヴィさんが、今度はオレを指さしてくる。
「オレの名前は米田耕作です。米田、耕作」
「ヨヌォークサク?」
おおう、意味不明な名前になった。ええと、名前だけでいいか。
「耕作です。こうさく!こう、さく!」
「コーサク?」
「はい!そうです!」
発音が微妙だけど、うん、なんとか自己紹介できた。
「―――――コーサク」
?床を指差されて名前を呼ばれた。座ってろ?
「え、はい。失礼します」
オレが座ったのを見て頷き、ルヴィさんが土間にある竈に向かう。料理を始めるようだ。
オレも手伝った方がいいのでは?立ち上がろうとしたが。
「―――」
再び床を指差される。黙って座ってろってことですね。はい、邪魔しません。
この状況でただ待っているのは、少し苦痛なのだが、やることもできることもない。ぼんやりと、ルヴィさんの後ろ姿を見ながら考えごとをする。
ここはどこか?不明。携帯が使えない以上どうしようもない。そしてルヴィさんの家にはそもそも電気が通っていなそうだ。電話なんてもちろんない。
ここは現代か?不明。明らかに現代文明の気配を感じないが、今のところ時代を証明する手段がない。
これからどうするか?一先ずこの村にお世話になるしかないと思われる。何かしら仕事をもらおう。言語も早く覚える必要がある。
会社クビでは?確かに。無断欠勤7日でクビだったか。7日で帰れる気がしない。打つ手なし。
ふむ、基本どうしようもないな。ルヴィさんに見つけてもらったのが不幸中の幸いだろう。森の中で現代人が生き残るのはとても厳しい。
「――――――――コーサク」
「あ、はい!」
いけねえ、考え込んでいた。いつの間にかルヴィさんが料理を作り終わったようだ。
木を削って作ったと思われる深皿に、スープ状の物が入っている。それがオレの前に差し出された。同じく木の匙も渡される。
「―――――」
何かを唱え、ルヴィさんが食べ始めた。オレにも食え、と手で合図してくる。
「ありがとうございます。いただきます」
スープは白っぽい色をしている。刻んだ野菜と、ほんの少しの肉片が入っているようだ。
木皿から1口すくって食べてみる。口の中に広がる穀物の味、野菜の繊維を感じる。肉は少なすぎて味が良く分からない。微かな塩味だけが後から来る。
総評すると美味しくない。口の中が粉っぽくて青臭い。肉は味を感じないのに臭みだけを主張してくる。味付けもたぶん塩だけだ。旨味が足りないし、風味が悪い。
だけど。
見ず知らずの、異国人な怪しいオレに、この人は食事をくれたのだ。
ルヴィさんの食べる様子から、別段この料理を不味く感じていないことも分かる。自分が食べるものを普通にオレに分けてくれたのだろう。
だから。
「ありがとうございます」
頭をしっかり下げてお礼をする。言葉が伝わらなくても、この感謝が伝わるように。
「ご飯をくれるあなたはいい人だ」
オレを見つけてくれたのがルヴィさんで良かったと思う。
翌朝、昨日は早い時間に寝てしまった。この村の人は日が暮れると寝るらしい。ルヴィさんもさっさと寝てしまった。オレとしては、もう少し言葉を覚えたかったのだけど。
早く寝たのと、寝床が固かったのが原因で早く目が覚めた。まだ、夜が明けたばかりのようだが、ここの人たちは動き始めている。
相変わらず何も分からないが、ご飯をもらって泊めてもらったのだ。オレも仕事を手伝おう。
「ルヴィさん!オレも何か手伝いますよ!」
身振り手振りでルヴィさんに働きたい旨を伝える。
「――――――――――」
オレの想いが伝わったのか、ルヴィさんが案内してくれたのは井戸の近く。子供達が水を汲んで運んでいた。ここを手伝えということらしい。
「任せてください!頑張ります!」
村の子供達がせっせと運んでいるのだ。オレも頑張ろう。
1時間後
「お、オレは、なんて、なんて役立たずなんだ……!」
オレは打ちひしがれていた。
子供達が軽々運んでいる水瓶が、超重かった。必死に運んだのだが、20分くらいで腕がぷるぷるになって運べなくなってしまった。
見かねた子供の1人が小さい瓶を持って来てくれたが、子供達に混じって、1人だけ小さい瓶を使う大人の惨めさよ。
それにしても、子供達の運動量は明らかにおかしい。
なんなんだ。いつから人は物理法則に喧嘩を売るようになった?
オレの疑問に、誰も答えはくれない。あるのは、オレが使えないという事実だけだ。
子供達の哀れみの視線が痛い。
「――――」
小さい水瓶をくれた子に、何か言われて肩を叩かれた。
なんだ?アフレコするなら「お兄さん、雑魚すぎ」か?ははは、死体蹴りか?
「――――。コーサク」
おっと、ルヴィさんが戻ってきた。仕事が終わったのだろうか?
「―――――?」
「―――。―――――」
子供達と話して微妙な顔をしている。役立たずでごめんなさい。
「コーサク、―――」
ルヴィさんに手招きされる。家に帰るようだ。またその後ろをついていく。
ルヴィさんも子供達も身体能力がおかしい。
ここは何なのだろうか。
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