第84話 兎肉の串焼きとコーンポタージュスープ コーンサラダ付き

 トウモロコシ。トウモロコシか。お米と一緒に食べるなら、どんな料理があるか。


 まずは、混ぜご飯かな。トウモロコシの実をバター醤油で炒めて、ご飯に混ぜるだけ。簡単だけど美味しい。

 バター醤油が染みたご飯を、トウモロコシと一緒にかき込めば、それだけで幸せだ。


 あとは、天ぷらはどうだろうか。かき揚げ風にして、カラッと揚げる。醤油より、塩の方が合うかな。

 お米と一緒に食べれたら、美味いだろうな。


 まあ、無いんだけどね。お米。


「はあ~。お米食べたい」


 どうしようもないので、昼食作りに集中しようと思う。


 今いる場所は、ヒューの家の台所だ。他の皆は作業中。オレが作った地面を耕す魔道具も、フル活用されていることだろう。


 体力も魔力も使っている皆のために、美味しい料理を作りたいと思う。


 使うトウモロコシは既に茹でて、実を外し終わった。主食は買ってきたパンだ。

 他の食材は、市場で買ってきた野菜と牛乳、この街に着く直前に狩った角兎の肉だ。肉は改造馬車の冷蔵庫に入れていたが、そろそろ使おうと思う。

 その他、必要そうな調味料も、改造馬車から引っ張り出してきた。これで大体のものは作れる。


 さて、じゃあ時間が掛かるスープから作り始めようか。


 トウモロコシがあるのだ。作るスープは決まっている。もちろんコーンポタージュスープだ。食べ盛りがいるので具材入り。


 鍋にお湯を沸かし、一口大に切った兎肉と、細く切った玉ねぎを投入する。

 煮込んでいる間にトウモロコシの処理だ。


「『防壁』展開っと」


 ミキサーはさすがに持ってこなかったので、防壁で代用だ。

 円柱状にした防壁にトウモロコシを入れ、牛乳を注ぐ。え~と、混ぜるためには。


「『工具箱:穿孔機』」


 トウモロコシと牛乳が入った防壁の中に、魔力で出来たドリルが現れる。

 これでよし。防壁を追加して蓋をすれば準備完了。


「んじゃ『穿孔機:回転』開始」


 防壁の内側で、半透明な魔力のドリルが高速回転する。牛乳が渦を巻き、トウモロコシは粉砕されて牛乳と混ざっていく。

 うん。いい感じ。


 トウモロコシの粒がだいたい無くなったら、防壁ごと、兎肉を煮込んでいる鍋の上に移動される。

 防壁の下部を消せば、混ざり合ったトウモロコシと牛乳が、鍋の中に落ちていく。よし。防壁解除。


 鍋をかき混ぜて、味見をしつつ、塩と乾燥させた香草を投入。黄色くなったスープからは、優しい香りがする。うん。こんなものだろう。


 次はサラダだな。生野菜は大事。


 買ってきた数種類の葉野菜をちぎって、トウモロコシを載せるだけ。持ってきたドレッシングを掛けて完成だ。


 最後にメインだ。残った兎肉を串焼きする。鉄串に肉を刺して、じっくりと焼いていく。肉が焼けるいい香りがする。焼き加減を見つつ、塩と香辛料を振りかけた。


 簡単な料理ばかりだが、10数人分作ったので、けっこう大変だった。目の前には、大量の料理がある。

 これだけあれば、足りるよな?


 さて、みんなに昼ご飯ができたことを伝えに行こう。




 ヒューの家で、全員で長いテーブルを囲んでいる。テーブルの足が折れてガタガタしていたので、さっきオレが直した。

 せっかくの料理が落ちたら困る。


「美味い!美味いよ、兄ちゃん!」


 オレの隣に座ったキリィが、さっきからテンション高く話し掛けてくる。料理を口にするたびに大興奮だ。

 余程、普段から美味しいものを食えていなかったのだろう。


 金がないと、味は二の次になるからな。いや、二の次ですらないな。味は考慮されなくなる。ただ、食べることだけが優先だ。オレもそうだった。


 昔を思い出して悲しくなってきた。稼げるようになって良かった。


「キリィ。オレの肉もあげるよ。いっぱい食えよ」


「むぐむぐ。む!ありがとう!」


「どういたしまして。ちゃんと噛んで食べろよ?」


「むむ!」


 キリィは口いっぱいに肉を詰め込んでいる。噛めてないだろ、それ。

 まあ、こっちの人は内臓丈夫だし、大丈夫、なのか?


「本当に美味しいね。僕も、こんなに美味しいものを食べるのは久しぶりだよ。クルトもそう思わないかい?」


「そうだな。美味い」


 ヒューもクルトも良く食べている。ヒューの食べる様子は、なんというか綺麗だ。ちゃんとした教育を受けた様に見える。

 ガツガツと食べるクルトは、あの試合以来、オレに対して丸くなった。今も素直に料理の感想を言っている。


「うむ。初めて食べるスープだが、美味しいな。トウモロコシの甘味が良く出ている」


 キリィとは反対側のオレの隣に座るロゼッタにも、コーンポタージュスープは高評のようだ。

 リリーナさんがヒューからトウモロコシを仕入れるようになれば、貿易都市でも、トウモロコシが安く出回るようになるだろう。

 そうしたら、いつでも作れるな。


「むぐっ。なあ、兄ちゃん!このスープとか、どうやって作ってんの?」


 元気よくキリィが聞いてくる。リスみたいになっていた口が、ようやく空いたようだ。


 作り方か。言葉だけで伝えるのもあれだしな。レシピ書いて渡そうか。他にもトウモロコシで作れそうな料理はあるしな。


「口で説明するのは難しいから、後で作り方を書いてあげるよ。キリィは文字読める?」


「む~、あんまり。ヒュー兄ちゃんからは教えてもらってるけど、難しいよ。文字って覚えて意味あるの?」


 あるある。超あるよ。


「とりあえず、キリィが文字を覚えたら、オレの料理のレシピが読めるようになるから、美味しいものが食べられるよ。まあ、文字を覚えていいことは、他にもいっぱいあるけどね」


 他はヒューから教えてもらってくれ。


「ん~。じゃあ、頑張ってみる」


「ははは。頑張れよ」


 文字を覚えるのは大事だ。

 ちゃんと覚えてないと、魔力も無いのにどこにも雇ってもらえなくて、冒険者になるしかなくなったりするからな。


 ああ、その場合はめちゃくちゃ大変だからな。というか大変だったからな。何回死にかけたか。今でも夢に出る。当然、悪夢だ。


「コーサク?大丈夫か?」


 昔の光景を思い出すオレに、ロゼッタが話し掛けてきた。


「うん?大丈夫だよ。どうかした?」


「いや、急に遠い目をしていたからな。心配になった」


「ああ、ちょっと昔を思い出してただけ。オレも、もっと早く文字を覚えられてたら、どっかの商会に拾ってもらって、冒険者にならなくて済んだかなあって。そうしたら、もう少し楽だったかも」


 少なくても、死にそうな目に合う数は減ったはずだ。


「ふむ。確かに。そうだったかもしれないな」


 うん。うん?いや、ちょっと待てよ。それだと駄目だ。


「やっぱり、今の無しで」


「うむ?」


「良く考えたら、冒険者になってないとロゼッタに会えなかったから駄目だ。うん。だから、別に今のままで良かったよ」


「む、むう。そうか」


 そう考えると、冒険者になった意味はあったな。


「……兄ちゃんたち、恋人同士なの?」


「むぐっ」


 ロゼッタがむせた。キリィの質問がオレの心に刺さる。


「……いや、違うよ」


「ふ~ん?」


 キリィが不思議そうに首を捻っている。残念ながら違うんだ。


 なれるかどうかも、今のオレには分からないな。

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