第42話 なにが食えるのか
今日の天気も曇り空。雪はもう降っていないが相変わらず寒い。
昨日の薬草採取はタローのおかげでペースがかなり上がり、無事必要量を確保することができた。十分な量の薬草に薬師の人も安堵したようだ。
そのタローは昨夜、オレの家で茹で干し肉を食べてすぐに熟睡し、たっぷり昼まで寝た。今は雪の積もった庭で転げ回っている。昨日とは打って変わって元気そうだ。
「よし、タロー、お出掛けだ。これ付けるぞ」
首輪は持っていないので、ハンカチを畳んでスカーフとして首元に結んでやる。人に飼われている印が無いと冒険者に狩られるからな。
白い毛に鮮やかな緑が映える。さっき風呂に入れたから、毛がふわふわだ。
「うん、男前になったな、行くか」
「わふ!」
タローを連れて家を出る。雪が残る道をタローはまだ短い脚でとことこ付いて来ている。
これから向かうのは、冒険者パーティー『赤い牙』の人達がいるところだ。今日は家の屋根の雪下ろしをして回っているらしい。
リーダーのグレンさんは灰色狼をテイムしている。なので、同じ狼の魔物であるタローの食べ物とかを聞きに行くつもりだ。お礼用に干し熊肉を袋に詰めて持って来ている。
この都市では魔物を飼うのは、そう珍しいことじゃない。グラスト商会で荷物運びに使っている大亀や大トカゲとかも魔物だしな。
魔物は魔力によって肉体を強化しているが、それには脳も入る。なので魔物は頭が良い。ちゃんと接すれば懐くし、人の言葉も理解するようになる。虫型は知らん。あいつらの行動は機械的だ。
タローも、その内オレの言っていることがちゃんと分かるようになるだろう。
「タロー行くぞ」
「わふ」
そのタローは道の横に積もっている雪に顔を突っ込んで遊んでいた。楽しいのか?まあ、まだ子供だからな。
でも、お前が何を食えるか聞きに行くんだからな?
民家の屋根の上にグレンさんを見つけた。赤銅色の短髪を汗で濡らしながら雪を下ろしている。他のメンバーの姿も見える。
まだ遠いがこちらに気づいたようだ。オレを見て、その後にタローに目をやり驚いたような仕草をした。さすがに表情までは良く分からない。向こうは見えるかもしれないが。
オレ達が近づくと、グレンさんは屋根から飛び降りて来た。雪の残る地面に着地する。
……着地で滑ったら尻を強打しそうだな。オレならやらない。
「グレンさん、こんにちは」
「おう!なんだか久しぶりだな。今回活躍したって聞いてるぜ?」
「ははは。結構頑張りました」
「おけで、被害もほとんど無え。はは、やるじゃねえか。今日の用事はそいつか?」
「ええ、この雪の影響か、森ではぐれたのを見つけて拾ってきました。あ、これどうぞ」
オレ特製、干し熊肉をグレンさんに渡す。
「おお!?マジか、助かるわ!いやあ、1回美味い干し肉食っちまうと、普通の干し肉がもっと不味く感じるからな!ははは!聞きたいことあんなら、なんでも教えてやるよ」
干し肉プレゼント、効果は抜群だ。
「とりあえず、狼の魔物って食えないものあるんですか?」
「食えないもの?あ~、基本なんでも食うな。魔物は内臓も頑丈だからな。人と同じモン食っても調子悪くなった記憶はねえな。さすがにうちのグリースでも、硬ってえ干し肉は食わねえけど。野菜も出せば食うけど、基本生肉が好物みてえだな」
グリースは『赤い牙』にいる灰色狼の名前だ。
「なるほど」
「後はコイツら頭いいからな。食えないものがあったら、たぶん出しても食わねえよ」
「そうですか」
なんでも食えるのか。まあ一応、基本肉あげといて、後は塩分控えめにしておくか。まだタロー子供だしな。
「もうそいつの従魔登録はしたのか?」
「いえ、まだですね。昨日、一応登録しに行ってみたんですが、職員さんも忙しいみたいで、後で来てくれって言われました」
魔物を飼う場合は、都市運営に届け出をして登録する必要がある。まあ、飼われている魔物が問題を起こした場合とかの責任を明確にする必要があるからな。それに人に飼われていても魔物は魔物だ。都市側で把握するのは大事なことだろう。
「ははは。まあ、この状況じゃそうだろうな」
「そういえば、今日はグリースどうしてるんですか?姿が見えないですけど」
「ん?グリースなら、今都市のどっかでソリ牽いてるな。別の連中と荷運びの仕事中だ」
犬ぞりはこっちか。
「そうですか。帰りに見かけるかもしれませんね。では、お仕事頑張ってください。情報ありがとうございました」
「おう!こっちこそ干し肉ありがとよ!またな!」
「ええ、また」
あまり長話して、仕事の邪魔するのは悪いからな。さっさと退散しよう。
「さてタロー。帰りのお前用のお肉を買いにいくか」
「わふ?」
市場へ足を向ける。今のところタローは大人しいが、市場では一応抱きかかえた方がいいだろうか?
そうするか。人も店も多いからな。迷子になるのも、店に迷惑掛けるのも面倒だ。タローの体はまだまだ小さい。抱えて歩くのも余裕だな。
肉屋でタローに食いたいものを選ばせようとしたら、かなり高い肉に反応した。
「タロー。そいつはかなり高い肉だな。美味いだろうが……お前、そんなに小さいのグルメか」
「クゥン、クゥ~~ン」
ええい、尻尾振りすぎだろ。抱きづらいわ。まあ、いいだろう。昨日の薬草探しでかなり役に立ったからな。今日は許してやる。働きには正当な報酬が必要だからな。
「許してやるが、次もちゃんと働けよ?」
「わふ!」
買った高級肉は、オレも夕食で食ったが美味かった。だが、やはり肉にはお米が必要だと深く思った次第だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます