第2話 情報入手
玄関の扉を開けると、そこにいたのは良く取引をするグラスト商会のリックだった。明るい茶色の髪と目をした少年だ。後ろには荷物が山盛りになった荷車が置いてある。
「おはよう、リック」
「おはようございます、コーサクさん。ってひどい顔してるっすよ。大丈夫っすか?」
「ちょっと、お米を食えそうな夢をみただけ。体調が悪い訳じゃないよ」
「はあ。あー、早くオコメが見つかるといいっすね」
若干リックの顔が引きつっているように見える。以前、『見たことも無い植物に多大な労力と金を掛ける執念は、実際引く。』と知り合いの赤い冒険者に言われたことがあるが、もしかしてリックからは危ない人扱いされているんだろうか。
基本的に人には礼儀正しく接しているつもりなんだけど。
「とりあえず、荷物は倉庫で受け取るよ」
「了解っす」
荷車を引くリックを倉庫まで先導していくが、オレの感覚からすれば一人では無理だと思うような重量を軽々と動かすのは、いつ見ても不思議な光景だ。
こっちの世界の人々は、特別な事情がない限りは魔力による身体強化が使える。子供ですらも自分の体重以上の物をなんでもないかのように持ち上げたりするのは、どうしても頭が混乱する。
荷物をリックから降ろしてもらい、内容を確認していく。
でかいものは魔道具の素材と部品類、その他に穀物類、根菜、香辛料、本に書類に薬液等と、かなりの量だった。
「荷物の内容に不備がなければ、こちらにサインをお願いするっす」
受領した旨のサインをし、リックに紙を返す。
「代金はいつも通り、魔道具の利益から引いておいて」
「了解っす。毎度ありがとうございましたー」
オレへの荷物を降ろしてもなお、半分以上残る荷車を引いていくリックを見送り、倉庫内の荷物を整理してく。
30分ほどで荷物の整理が終わったので朝食を作ることにした。前回買って、まだ食べきっていないジャガイモを蒸かし、卵を炒る。あとは両方に塩をかけるだけ。
いただきます。
「やっぱりお米食べたいなぁ」
ジャガイモをもそもそ食べながら、つい呟いてしまう。
何故ジャガイモをそのまま主食にしているのか。ここに来てからお米は見つけられていないが、小麦や大麦は栽培されていて、パンが主食として食べられている。
オレもこの都市に来てからは普通にパンを食べていた。お米が食べたくとも無いものは食べられず、生き物である以上、食事はしなければならない。
しかし、しばらくパンを食べていてオレは思ったのだ。
『パン食うの飽きた』
飽きた。そう飽きたのである。
お米は20年間食べても飽きたなんて思ったことが無かったのに、たった数か月でパンに飽きてしまったのだ。主食に飽きるという感情はとても衝撃的だった。
自分の中に根付く米食の概念に畏怖さえ感じた。
いったん飽きたと自覚してしまえば、食べ続けることが苦痛となっていった。それからオレはお米探しの傍らに、こっちに無いパンを作ったり、麺類を作ったり、好みのイモ類を見つけたりした。
結果、今では『パン、麺、イモ』を主食としてローテーションしている。
今日は『イモの日』だった。
結論、やっぱりお米が一番。
主食について考えを巡らせている間に、気づいたら朝食を食べ終わっていた。
今日の午前中はさっき届いた書類を調べようと思う。
ごちそうさまでした。
さて、グラスト商会を含めたいくつかの商会には、オレが知っている限りのお米の情報を伝えてあり、似ているものや珍しい植物があれば調べて報告してもらっている。
情報と引き換えに、オレは相場より安く魔道具を各商会に納品していた。
「えーと、クリフ村?」
報告書をパラパラとめくっていると、気になる情報があった。
ここから3日ほどの距離にあるクリフ村では、この都市では扱っていない穀物を食べているらしい。
辺境の村を巡る行商人からの情報で、村の中だけで消費してしまうため、その行商人も購入したことが無く、穀物の詳しい情報は分からないと書いてある。
だが、貿易都市と呼ばれるこの都市で扱われていない穀物となれば、オレの探し求めるお米である可能性も低くはないはずだ。
報告書には、行商人が次にクリフ村に行くのが1か月後であり、その時に少量を購入してくるように依頼する旨が追記されていたが、1か月も待つのは無理だ。
さっさと自分で見に行くしかねえ!
まずは冒険者ギルドだ!
報告書に付いてきたクリフ村への地図を片手にオレは冒険者ギルドへ向かった。
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