異世界でもお米が食べたい

善鬼

第1章 自由貿易都市_氷龍飛来編

第1話 新米を食べたい

 新米を買ってきた。せっかくなので、最初は塩むすびで食べようと思う。


 炊飯器を使わずに鍋でお米を炊いていく。


 時間と鍋の様子を確認しながら火加減を調節していると、段々とお米の炊ける優しい匂いがして来て、顔が緩んでしまう。


 最後に少しだけ火を強くしておこげを作り、ご飯が炊きあがった。新米だけあって炊きあがりが輝いて見える。


 蒸らしを終えて、ご飯を握っていく。


 あまり力を入れずに、ふっくらと握り、地元の海から採れた少し良い塩で味付けする。

 

 塩むすびを2つ握り、お茶も淹れて食べる準備が整った。


 新米の塩むすびは、とても美味しそうだ。


「では、いただきまー『ドンドンドン』……す?」


 何かを叩く音が聞こえてきたと同時に、塩むすびがオレから遠ざかっていく。


 咄嗟に手を伸ばすが届かない。それどころかオレの体が吸い込まれるように上昇し始める。


「ちょっと!? 待って!? オレの……」





「塩むすびーー!?」


 オレは両手を伸ばして跳ね起きていた。


『ドンドンドン』


 玄関の扉をノックする音がする。窓からは朝日が差し込み、小鳥の鳴き声が響いている。そしてオレはベッドの上にいる。


 だから……これは……。


「……夢じゃん……」


『ドンドンドン』「コーサクさーん! お届け物でーす!」


 オレを夢から引っ張り上げたのは、顔見知りの商会員のようだった。


 ノロノロと体を動かすが、暖かな朝日が部屋を照らしている中で、自分だけが暗く感じた。



 

 オレは米田耕作。主食がお米な日本人。


 オレがこの異世界に迷いこんでから、今日でちょうど5年だ。


 そして、この5年間、一度もオレはお米を食べることが出来ていない。


 もう夢でもいいから、お米が食べたかった!


 ……はあ、とりあえず、荷物を受け取りにいこう。 

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