第4話 照り焼きチキンバーガー

 良い朝だ。天気は快晴。気分がとても良い。


 必要な荷物は自作の改造馬車に積み込み済みだ。集合時間にはまだ少し早いが、早めの行動は日本人としての癖のようなものだ。


 空いた時間でお米と食べたい料理を脳内リストアップしていると、『黄金の鐘』の3人がこちらに向かってくるのが見えた。


「おはようございます」


「よろしくお願いしまーす」


「お願いします。コーサクさん腹減った」


「おはよう。3人とも今日からよろしく」


 『黄金の鐘』の3人は兄弟だ。

 長男でリーダーのグレイ20歳。その下で長女のエリザ17歳。末っ子の成長期でいつも腹が減ってるジーン15歳。

 とりあえずジーンには干し芋をあげた。干し肉より、干し芋の方がお腹にたまるよね。

 なお、ジーンは干し芋をくわえながら常識人な長男グレイに殴られていた。


「じゃあ、まずは馬を借りにいくからよろしく」


 馬はさすがに家では飼っていないので、馬車を使うときには馬を借りる必要がある。

 オレ達は馬を扱う店へ向かった。馬は昨日のうちに選んで契約済みだ。

 店まではジーンが干し芋を食べながら馬車を運んでくれた。食べるのが早いので、店に着くまでに、何回か干し芋のおかわりをあげた。


 「馬車」という言葉は、日本語的にそれしか訳せないのでそう変換しているが、こっちの世界では馬車を牽くのは馬だけじゃない。


 店に着くと、中には馬の他に牛、でかいトカゲ、亀、鳥と恐竜の中間みたいなやつと、いろんな種類がいる。


 もちろんオレが選んだのは、普通の馬だ。

 トカゲとか動かしかたが分からないし、歯も鋭すぎだろあれ。


 借りた馬2頭を馬車に繋ぎ、飼葉も購入していよいよ出発だ。

 『黄金の鐘』の3人には周囲の警戒や魔物が出たときの戦闘をお願いするため、御者は基本的にオレがやる。


 とはいえ、ここの馬は頭がとても良いので「とりあえず、この道真っすぐ進んで」と言えば、その通りに動いてくれる。

 分かれ道だと『で、次どっち?』という感じで、こちらを振り返ってくる。方向を指し示すだけで曲がってくれるので、オレは結構楽だ。


 都市を出て、周辺に広がる農地を抜け、さらに進むと森が見えてくる。

 木がでか過ぎて、見えてからも中々近づいている気がしない。ようやく森の手前までくると、木々は真上を見上げなければいけない程に高い。

 オレ達が小人になってしまったかのようだ。


 森の手前で時間もちょうど昼頃になったため、昼休憩にすることにした。魔物も森の外にはほとんど出てくることがない。


「じゃあここで休憩。昼ご飯作るよ」


「分かりました」

「はーい。手伝いますよー」

「何作るの?」


 旅の中での食事は普通、あまり良いものではない。塩っ辛い干し肉や硬いパン、味と触感を犠牲にした保存食などと、嵩張らないことと、保存性が重視されている。

 だが、味を無視して、ただ機械的に口に詰め込むことが食事と言えるだろうか。食事とは、体の栄養補給だけではなく、心の栄養補給でもあるはずだ。

 オレはどこにいても美味しいものが食べたい。


「今日のお昼は『照り焼きチキンバーガー 野菜スープ付き』です」


 レッツクッキング!



 料理を始めるために、3人に手伝ってもらいながら改造馬車を展開していく。片側の壁を下に開き、各部位をスライド、折り曲げ固定すればL字型のキッチンの出来上がりである。

 冷蔵庫、コンロにオーブンも完備。水はタンクに入れて、コックを捻ればすぐ出せる。


 実はこの馬車、絡繰り箱じみた設計と各魔道具によって、かなり金が掛かっている。

 魔道具は自作のため値段が抑えられているが、普通に買えば都市に家を建てられるくらいのはずだ。納品のときの親方の呆れた顔が忘れられない。


 あと本当は自走できるのだが、材料的、技術的に足りない部分や変形式の弱点である振動問題を強引に魔道具で解決した結果、すさまじく燃費が悪くなった。

 燃料の魔石代よりも馬を借りた方が安いのだ。


「コーサクさん。水出しますよー」


「うん?ああ。お願い」


 それはさておき、食事の準備である。今日はエリザがいるので魔術で水を出してもらう。

 手を洗って、鍋と瓶に水を入れてもらう。旅の途中ではあまり時間を掛ける訳にはいかないので、スピード優先で調理をしていく。


 グレイには馬への餌やりと、折り畳みのテーブルとイスを並べてもらう。ジーンには念のため周囲の確認をお願いし、料理の助手はエリザだ。


 鍋を火にかけ、オーブンを起動。

 積み荷と冷蔵庫から食材を取り出し、ニンジン、じゃがいも、玉ねぎの皮むきをエリザにお願いした。


 その間にオレは、照り焼きチキン用の鶏もも肉を処理し、スープ用の燻製ウィンナーを切る。

 鶏もも肉は大人数用の柄が外せるフライパンに並べ、皮むきが終わったニンジンから一口サイズに切って鍋に放り込んだ。


 オーブンも暖まったので、フライパンごと突っ込んで加熱する。

 皮むきが終わった他の野菜と、キャベツもザクザクと切り、ウィンナーとともに鍋へ投入。

 蓋をして煮込む間に、醤油、酒、砂糖を混ぜて照り焼きのタレを作る。


 皮むきが終わったエリザにレタスをちぎってもらいながら、パンを真横に切っていく。


 鶏肉の方も良い焼き色が付いたので、オーブンから取り出し、もう一つのコンロに乗せ、タレを掛けていく。ジャーっとはじける音と共にタレの匂いが広がった。


 ジーンがこっちを振り向いて凝視しているのが遠目に見える。


 鶏肉にタレを絡ませ煮詰めていく。ある程度水分が飛べば完成だ。良い照りをしている。

 パンに具材を挟むのはエリザに任せ、野菜スープの蓋を開ける。ウィンナーから出た油が表面できらめいていて美味しそうだ。ニンジンに火が通っていることを確認し、塩、胡椒で味を調えてスープは出来上がり。

 エリザの方も終わったようなので、残りの2人を呼び、テーブルに料理を並べる。


「では、いただきます」


「いただきます」

「いただきまーす」

「いただきます!」


 まずは照り焼きチキンバーガーを一口ガブリと食べる。鶏肉は柔らかく、タレが良くからまり美味い。パンともよく合い、ボリュームも満点だ。

 野菜スープも野菜とウィンナーの旨味が出ていて良い感じだ。


「おいしいです。」

「旅の途中でこんなにおいしいのが食べられるなんて、幸せですねー。」


 グレイは微かに笑みを浮かべながら、エリザは幸せそうに笑いながら、そう感想を言ってくれた。

 ジーンは無言でひたすら食べている。照り焼きチキンバーガーは既に2つ目だ。

 視線を向けるとコクコクと頷きながら、おいしいとアピールしてきた。食べる以外に口を使う気はないらしい。


「私たちも、遠征のときとかにおいしいもの作れるといいんですけどねー」


「それは厳しいだろう。俺たちは身一つで走って移動するからな。余計な荷物は持てない」


「それはそうだけどー。あの保存食とか食べ続けたら味が分からなくなっちゃうわよ。それにおいしいものを食べた方が元気がでるわ」


 確かに、不味いものを食べてから仕事するのはつらいだろう。そのうち、温室で作ってる果物でドライフルーツでも作ってあげようか。


 談笑しながら食べているうちに、料理はすっかり無くなった。オレも小食ではないのだが、体を動かす仕事をしているのと若いだけあって、3人ともオレの倍以上は食べていた。

 多めに作っていて良かった。ごちそうさまでした。

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