第27話 謎の木と燻製

「ん~。この辺でいいかな?」


 オレは今、家の庭で木を植える場所を選んでいる。プラントキメラから採れた、正体不明の木だ。

 ちょうど、前々から庭の一角が寂しいと思っていたところだ。良いタイミングだった。

 何かあっても、敷地内なのですぐに対応できる。


「うし!」


 良い場所を見定めて植えた。ベギウスさんの言葉通りなら生長は速いんだろう。


 少しだけ水を撒いて家の中に戻る。小豆(仮)はアンドリューさんに、花はエイドルに任せた。

 小豆(仮)は餡子に使えたらどうするか。お米がないから餅も作れない。

 羊羹?


 あと残っているのは、大量の熊肉だ。孤児院に一番多く渡したが、それでもまだ量が多い。

 大きな肉の塊が何個もある。オレ1人では食いきれないだろう。


「いくつか燻製して干し肉にするか。この間ロゼッタにいっぱい渡したから在庫減ったし」


 熊肉から脂肪を取り除き、肉を薄切りにしていく。


 熊肉で干し肉は作ったことが無いが、どんな出来でもこの世界の干し肉よりマシだろう。


 オレが知っている限り、こっちの干し肉の作り方は非常にシンプルだ。

 肉を適当に切って、大量の塩で塩漬けして、カッチカチになるまで干す。終わり。


 出来上がるのは、すさまじく塩辛い、凝縮されたたんぱく質の塊。素のオレでは噛み切れない。

 ちょっと高めの干し肉には香辛料もすり込まれているが、とてつもない塩辛さにより、香辛料の風味なんて感じないので、価格によらず、味は五十歩百歩だ。

 どっちも固い塩味の塊だな。


 発酵と一緒で、燻製された食品もこの世界では少ない。残念だ。



「うい~。ようやく終わった~」


 オレの目の前に、大量の熊肉の薄切りが山と積まれている。すごい時間が掛かった。手がべとべとで少し獣臭い。

 それにしても、すごい量になった。売れるほどできるな。


 良く手を洗って、肉を漬け込む液を作るとする。いわゆるソミュール液だな。


 まずは、肉を漬け込むのに使う。大型のタルをごろごろと持ってきた。中を良く洗う。


 うし、肉の重量からして、使うのはこれくらいだな。

 タルの中に大量の塩と、燻製用にブレンドした香辛料、酒をどばどばと入れる。隠し味に醤油も少し。

 ぐるぐる混ぜる。


 次に薄切りにした熊肉をタルに放り込む。苦労して全部入れた。


「ふん!ふん!」


 ムラができないように、下からかき混ぜて、最後に上部を均して蓋をした。

 おかしい。個人製作なのに、業務用で作ってるみたいになってる。


 よし、次は明日だな。




 翌日、庭に見慣れないものが見えた。


「育ちすぎだろ」


 昨日植えた、謎の木だ。はたして何の木なのか。某歌が脳内に流れる。気になる木~。


 いや、現実を見よう。昨日はオレの股下だった木が、今はオレの身長ほどに生長している。さすがに早すぎるだろう。

 木の周りを見ると、木から半径50cmくらいの範囲で、雑草がしおれている。


 ……土の栄養が一晩で吸い取られた?


 さすが魔物産、やばいな。


 急いで農場のエイドルのところに向かい、エイドル特製の肥料をもらって来た。土に混ぜるタイプと水に混ぜるタイプだ。


 土に肥料を混ぜて、肥料入りの水を根本に注ぐ。

 これだけのスピードで生長する魔物由来の木なら、根腐れも起きないだろう。


「なるべく、美味しい実をつけろよ」


 目に見えて太くなった幹に触れて言ってみた。いや、実がなるかも分からないけど。


 家に入って、干し肉の続きに着手する。薄切りにしたので、ベーコンとかと違って漬け込み時間は少ない。


 少し色が変わった熊肉を取り出し、水で洗って塩抜きし、清潔な布で水気を拭きとる。

 取り出して、洗って、拭く。取り出して、洗って、拭く。取り出して、洗って、拭く……。


「多い!!」


 多いわ!!


単純作業だが、物量が多い。ちょっと作る分量ミスったな。

ここで辞める訳にもいかないので、無心で作業を行う。


「お、終わったあ~」


 いや、まだ作業はあるけど。


 処理が終わった熊肉を、家の食料用乾燥室に持っていく。あとは、網の上に、並べて、並べて、並べる。

 結局何往復か必要だった。


「今日の作業は終わり!あとは明日!」


 腕が重いよ。




 そして、翌日。


「でっかくなったなあ」


 植えた謎の木が、木になった。いや、元々木だったけど、普通の木の大きさになった。

 ……どこまで伸びるんだろう?さすがに魔の森の巨木レベルだと困る。ビルサイズだぜ?


「お前、そろそろ加減しろよ?あまり大きくなると切らなきゃなくなるぞ?」


 土に肥料を混ぜ終わり、水を根本に注ぎながら、ペチペチと木の幹を叩きつつ言う。

 枝の太さも、既にオレが木登りできそうなほどだ。


 そのまま庭で燻製の準備をする。倉庫から燻製器を引っ張り出して来た。ガルガン工房に特注した燻製器は大型だ。移動用にタイヤも付いている。だが。


「さすがに1回じゃ無理だな。2回か」


 やっぱり肉が多い。


 乾燥室から網ごと熊肉を持ってくる。かなり乾いている。表面に水分は感じない。良い感じだ。


 燻製器の扉を開き、内側の壁面に彫ってある溝に網をはめて押し込んで行く。奥までいった。ぴったりサイズだ。数回繰り返す。


 次は燻製に使う木の用意だ。使うのは、魔の森の巨木の枝を粉砕したチップ。燻製したときの香りが良い。


 燻製器に備え付けの加熱の魔道具の上に、鉄皿に入れたチップを入れ加熱する。

 煙が出て来た。熱燻の開始だ。


 あとは温度を見つつ放置だな。


 空いた時間は、いつも通り魔道具を作る。



 そろそろいいかな?


 いつもの干し肉なら良い時間だろう。燻製器を開けてみる。


 扉を開けると大量に煙が出て来た。肉の匂いが滅茶苦茶する。開けた瞬間は煙で中が見えない。

 ……近所に他の家が無くて良かった。あったら匂いで苦情が来たかもしれない。


 水分がすっかり抜け、燻製の色が付いた熊肉は良い感じだ。

 再び網ごと乾燥室に移す。少し置いた方が美味しいので、味見は明日だな。


 よし、もういっちょう。




 さらに翌日。


「生長は止まったのかな?」


 謎の木の大きさは昨日とあまり変わりがないように見える。ここからの生長がゆっくりなら安心だ。

 やはり、葉っぱの形に見覚えがなくもない。う~ん、分からん。

 実を付けるなら、その内判明するだろう。


 乾燥室に行き、干し熊肉を食べてみる。


 硬い。が、硬すぎはしない。よく噛んでいく。

 使った香辛料と燻製の風味、肉の味が、噛むほど口に広がる。


「お、美味い」


 うん、成功だな。


 出来上がった干し肉を、乾燥剤と共に袋に詰める。


 次の旅には持って行こう。

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