第40話 薬草探し
雪の中をオレ達は猛スピードで進んでいく。後ろは跳ね上げられた雪埃で真っ白だ。
「さ、さむいですぞ、コーサク殿」
「オレも寒いよエイドル。あ、ちょっと体動かすなよ。風除けにならないだろうが」
「こ、この順番は不公平ではないですかな?」
「ないない。オレの方が体が弱いんだから我慢してくれ」
「があっはっはっは!うおおっと!」
「お、おおお!?」
「あ、危ねえ!ゴルドン!安全運転しろよ!」
オレとエイドルは今、ソリの上だ。ソリはゴルドンが牽いている。
犬ぞりならぬゴルドンぞりだな。
……駄目だな。致命的に語呂が悪い。
オレ達は森に向かっている。
氷龍の飛来による今回の気温の低下で、ここ数日体調を崩す人が増えた。体が頑丈でも、やはり急すぎる環境の変化は厳しかったようだ。
結果、薬が足りなくなった。厳密に言うと薬の材料である薬草の在庫が無くなり始めた、だ。対策の時間が足りなかったからな。しょうがないだろう。
必要な薬草はあまり知名度が高いものではないため、普段は薬師の人が冒険者に護衛してもらって、自分で採取しているらしい。
当の薬師さんは今、薬の仕上げで手が離せないとのことだ。その薬草を知っている数少ない冒険者も、グラスト商会の護衛で他の村まで行ってしまった。
結果、オレとエイドルに白羽の矢が立った。
エイドルは自称植物学者だからな。オレはまあ、近くの森の植物ならほぼ全て把握している。
何故か?野生の稲を探して定期的に入るからだ。近くの森でも人があまり入らない場所はある。一縷の望みをかけて、文字通り草の根を分けて探しているのだ。稲を見分けるために他の植物についても勉強した。
だから薬に必要な薬草も見れば分かる。
「着いたぞ!!」
「や、やっとですな」
「ああ、寒かったな。ゴルドン助かった。じゃあ、寒いしさっさと採取しようか」
「おお!!」
「そ、そそ、そうですな」
エイドルがあまりにも寒そうなので、暖房の魔道具の予備を貸すことにした。
二手に分かれて採取を開始する。オレ1人とエイドル、ゴルドン組だ。オレは魔道具を使えば戦えるけど、エイドルは戦えないからな。ゴルドンを護衛に付ける。
薬を待っている人もいるので効率重視だ。
1人でいつもより暗い森の中へ入っていく。雪のせいで歩きづらい。ついでに薬草も隠されて見つけにくそうだ。
「……これはちょっと時間掛かるかもなあ。とりあえず、身体強化『全身:弱』で発動っと」
うん。薄暗い森の中が少し良く見えるようになった。不安定な地面を踏む脚も多少力強い。
うし!採取開始!
「う~ん、やっぱり見つけるまで時間が掛かってるな」
体感的には3時間くらい採取をしたか、太陽が雲に隠れているので分かりづらいが、今は昼前くらいだろう。
雪の下にある薬草を探すのは、想像通り難易度が高かった。
「あの2人を呼んで、いったん昼休憩にするか」
この分だと夕方くらいまで掛かりそうだ。
ガサガサッ
「んお!?」
背後の藪から音がした。何だ?兎か?態々人間に近づく動物はいないはずだが。魔物?いや、感じる魔力は小さいな。
「…………」
とりあえず、すぐに動けるよう魔道具を発動待機状態にして藪に注目する。
ガサガサガサ
「クゥ~~ン」
出て来たのは。
「子犬?」
白い子犬、いやこれ狼だな。ついでに魔物だ。魔物の狼の子供だな。……不味いな。
「くそっ、親はいるか!?」
子供がいるってことは、近くに親がいるだろう。親がいれば群れもいるはずだ。
近くにいるなら、当然人を襲ってくる。子供が人に近づいているなら尚更だ。
不味いぞ。狼の群れの相手なんてしてられるか!銃弾何発使うと思ってる!赤字どころじゃねえぞ!
感覚を広げて周囲の魔力を探る。
「?……いない?」
察知できるのは、ゴルドンとエイドルの分だけだ。動物と思われる反応はあるが、魔物の気配はない。
「なんでだ?」
「クゥ~~ン」
「うお!?」
周りを探っていたら、いつの間にか子狼が足元に来ていた。何だ?人を警戒しないのか?
とりあえず、近くに危険はなさそうなので、子狼を観察してみる。
……震えているな。プルプルしてる。動きの鈍い体を触ってみると冷たい。体温が下がっている。肉付きも薄いし毛並みも悪いな。飯食えてないのか?
「群れからはぐれたか?お前、腹へったから人も怖がらずに来たのか?」
「クゥ~ン」
黒いつぶらな瞳は当然答えない。
……さて、どうするか。子狼はずっとオレの顔を見てくる。正しいのは、たぶん自然の摂理だと、置いていくことだな。後はコイツの運しだい。だけどなあ、う~ん……対象が何であれ、空腹な生き物を見ると心がざわざわする。こっちを食おうとする魔物は別だけど。
……一旦保留だな。
「よし、とりあえず、お前に飯をやる。その後は、薬草探しながら、お前の家族の痕跡も探す。そして群れに帰す。OK?」
「クゥ~ン」
よし、決まり!まずはあいつらを呼んで昼飯だな!
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