第6話 出会い
ヤゴの後には大きな魔物も現れず、森を進んで3日目。ずっと見えていた木が無くなり視界が開けた。
遠目に頑丈そうな木の防壁が見える。あそこが目的地のクリフ村だろう。
ようやくお米に再会できるのかもしれない。
期待を胸にオレ達は村を目指した。
村の入り口で普通に不審がられたが、色々説明して村長のところへ案内してもらえることになった。
村の奥には畑が広がっているのが見える。案内してくれるおっちゃんに相談して、村長に会いに行く前に身繕いさせてもらうことにした。
さすがに森から抜けたままの汚れた状態で会うのは失礼だろう。
空いている小屋を借りて、体を拭き服を着替える。村に泊まるならこの小屋を使って良いと言われた。ありがたい。
支度も終わり、グレイと一緒に村長宅に向かう。村で一番大きい家なので、案内が無くとも迷うことはなさそうだった。
家に入ると出迎えてくれたのは、村長とそのお孫さんだった。
「はじめまして。コーサクと言います。自由貿易都市リリアナから来ました」
「おお。この村の村長をしとるクリフじゃ。よく来たなお客人。なんでもわが村で食っとるもんに興味があるとか」
こっちの地方では、都市や村に作った人の名前が使われることがあるので、村と村長の名前が同じということは、クリフさんが中心となってここら一帯を開拓したのだろう。
こんな森の奥に村を作った初代だ。とてもすごい人のはずだ。
「ええ。オレの故郷で食べられていた穀物を探していまして」
オレは故郷から急に見ず知らずの場所にいたこと、主食にしていた穀物が見つからないことをクリフさんに説明した。
「それは大変でしたな。故郷へ帰る方法も分からんので?」
「はい。貿易都市でさえオレの故郷を知る人はいませんでした。来た方法が分からないので、帰る方法も見当がつきません」
村長は話をまじめに聞いてくれた。こっちの世界でもおとぎ話や伝承で、いわゆる神隠しや取替え子が伝わっていて、なにより精霊が実在するため、オレの不思議体験も受け入れてくれる人が多い。
「なるほど。それではうちの食いもんが、故郷のものと同じだと良いですのう。アリフ。少し持ってきておくれ」
孫のアリフさんが席を外し、すぐに小さな麻袋を抱えて戻ってきた。
クリフさんとアリフさんが目配せし、アリフさんが袋から一掴み実をオレに渡してくれる。
両手で受け取り、受け取ったそれを良く観察する。まだ殻から剥いていないようだ。
この粒の大きさ。この殻の黒さ。この匂い。これは!!
……そば。ですね。
知ってた。だいたい分かってた。村の奥に畑が見えた時点であきらかにお米じゃなかったし。なんならそばっぽいなって思った。
でも!事象は実際見るまで確定しないじゃないか!あえて考えないようにしたんだよ!シュレディンガーの猫だよ!
「……どうやら違ったようですのう。まあ、そう気を落とさずに。何も無い村ですが、ゆっくりしてもらってもよいですからの」
オレの落ち込みようにクリフさんが気を使ってくれたようだ。
「久方ぶりのお客人ですからの。歓迎しますぞ。大したものは出せませぬが、料理も食っていってくだされ」
「……はい。ありがとうございます。こっちからも食材を出しますので使ってください。あと、そばを少し購入させてください」
「ほっほ。食材を出してくれるのは助かるの。売り買いについては明日でもいいじゃろう。今日はゆっくりしとってくだされ」
いくつか雑談をし、食材を渡すために借りた小屋に戻ることにした。
「残念でしたね」
「仕方ないさ。見つかるまで根気よく探すだけだよ。次も護衛頼むよ」
「はは。まだ帰りの護衛が残ってますよコーサクさん」
小屋の横に停めてある馬車からいくつか食材を降ろし。受け取りに来たアリフさんの奥さん達に手渡した。
「コーサクさん元気だしてください。そうだ!帰ったら甘い物食べにいきましょうよ。アリスの喫茶店で新しいケーキが出たらしいですよ」
「コーサクさん大丈夫?干し芋食べる?」
そんなに落ち込んだ雰囲気だったのだろうか。エリザとジーンにも励まされてしまった。ジーン。その干し芋はオレのだ。
とりあえず。頭を切り替えて今日の夕食を楽しもう。そばは麺でしか食べたことがないから、どんな料理が出てくるのか楽しみだ。
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