第33話 未知の階層


「お、また新モンスターみっけー! 狩るぞファスト!」

「きゅう!」


現在地『ノースライン』21階層。

トリックスパイダーを倒してボス部屋に出来た階段を下って俺たちはそこでモンスターを乱獲していた。最初はボスのそこそこ強かったから心配していたものの20階層帯のモンスター自体は俺たちに丁度いい程度強さのようでそれほど戦闘に支障はなかった。


ここでガンガン素材を稼いでうちの10階層ボスとファストの強化に使う。だからとにかく新モンスターを見付ければ必ず狩る。この方針で21階層を探索している。


「にしても……ここからは森林型か」


『ノースライン』は1~10までが序盤のエリアにいるようなお試しの雑魚モンスターばっかりの狭い洞窟、11~20は巨大な虫型モンスターが主に出る階層だった。

ここ21階層からは空もあるオープンフィールド形式のようで深い森が見渡す限り広がっている。出現モンスターもそれに合わせた感じで動物型が主な構成だ。


「俺のダンジョンは……こういうこと出来ないんだよな」


俺が使っているのはダンジョンと言い張ってはいるがあくまでホーム。流石に運営もホームの内装にオープンフィールドの草原だとか大空みたいなものは実装していない。そもそも想定もしていない可能性すらある。


「いつか作りたいな。こういうのも」


ま、今は他のことで忙しいしそれは後々に考えてみるか。


「ここだとまだちょっと物足りないな。もっと下に行ってみるか」


と言うわけで似たりよったりな風景や難易度が続く22から24階層をかる~く飛ばし。明らかに雰囲気が変わった25階層を本格的に探索することにした。

雰囲気が違うと言っても森林なのは一緒だ。ただ今までが普通の緑豊かな森だったのに対して25階層からカラフルな……というより毒々しい色合いの植物やキノコなどが目立つジメジメした森になっていた。


「俺みたいな錬金術師としては資源の宝庫だがな」


ここは市場ではまだ中々出回らない薬の素材がたんまりある。生産者・合を内包する錬金術師は製薬も出来るのでこれはかなりありがたい。

ダンジョンでかなりゴールドが稼げるとは言っても節約して越したことはないからな。


「で、毒を扱うモンスターも多いと!」


俺に噛み付こうした蛇モンスターを岩を挟んで潰し光の粒に変える。

ここまで動くキノコだったり、毒の霧がそのままモンスターなったやつだったりを相手にして来たが……なんだかな。


「強さ的には問題ない。が、ファストに合わないな」

「きゅう」


本人も不満のようだ。

ここまで手に入れたアイテムで進化先が増えはした。全部悪くないんだがあとひと押し足りないってのが俺たちの正直な感想だった。


「もっと下まで行くべきか? でも流石にこれ以上敵が強くなると今の戦力じゃ……」

「きゅう」

「と、敵か」


まだ下まで潜らないいけないかと思案していたらファストの警告の鳴き声が聞こえた。ファストの視線を追って敵を見てみるとそこには黒い体毛のいかにも怪力そうな熊型がこちらを睥睨していた。


「む、珍しいな。ここいらにこんな分かりやすいパワータイプいるなんて」


階層の性質上なんだかんだと搦手重視のモンスターばかりだったがここに来てゴリゴリのパワータイプの登場か。これは期待出来るかも知れない。


「やるぞ。こいつだけは絶対に逃がすなよ」

「きゅ」


心做しかファストも気合いが入っている。

どうやらうちの相棒もこいつが気にいったようだ。


見合っていても仕方ないなで俺の方から仕掛けるべく土の槍を生やして攻撃する。それを見てから軽やかに避ける熊にファストがすかさず飛び蹴りをかます。

予想以上の衝撃なのか少しふらつきながらもすぐ持ち直した熊もファストに爪で反撃。それに対しファストはぴょんとその場を離脱し着地の反動を生かして熊にとんぼ返りする。


スピードでは負けると悟ったのか躱すのではなく、カウンター狙いでどしっとその場で構える熊。


「こっちを忘れるんじゃない。ほら、踊れ!」


熊が立つ地面から土の針を無数にピストン運動させて一箇所に留まれせないようにする。体勢を崩した熊にもう一撃でかましたファストの足場だけはちゃんと作り敵に利用されないようにファストしか乗れない強度にする。


あとはこの状態を維持してタコ殴り……と思っていたのだが。こいつはそこまで甘くはなかったようだ。

口の間から毒々しい色の煙が漏れる。不吉な煙を何種類か出しそれを吐きかけてくるかと思いきや、なんとあの熊どう見ても毒にしか見えない煙を自ら吸い込みやがった。


煙を吸いきると今度は体が全体的にパンプアップされ筋繊維が膨れ上がる。


「まさか……自分で今即席ドーピング剤を作った、のか?」


俺の推測を証明でもするかのようにさっきとは比べものならバネでこちらに飛び掛かってくる薬中熊。それは魔法で防ぎはしたが、そのあとも痛みなども感じなくなったのか土の針も何のそので近距離で暴れまわる。パワー、タフネスともに相当強化されているようだ。


「でも完全にバーサーク状態だな」


目が真っ赤で白目向いてる上に明らかに理性が飛んでる。ただこれならむしろやりやすい。


「玉兎たち囮になれ」


ぺちぺちと攻撃?をする玉兎たちを追いかけ回す薬中熊。やつが冷静であれば大した脅威でもない玉兎など無視するだろうが今はそんな思考力すらないようだ。


「この隙きだな。ファスト、足場は置いとく。やつの動きを止めろ」

「きゅう」


森の中に天高く聳える石柱をいくつも立てファストがそこに飛び込み薬中熊に接近。その間俺はボス戦でやったように魔法を貯める。

木々と石柱を縦横無尽に駆けるファストは三角跳びの要領で上に上に上昇し、ついに最も高い石柱の天辺まで到達。そこでもう一息跳び上がり玉兎たちに夢中な薬中熊を上空から踏み砕く。背中から凄まじい重圧に押し潰れた薬中熊の身動きが止まる。


「あとは俺の番か。ふぅ……」


息を軽く吐いて意識を集中する。

グランド・ワンほどの大魔法はいらない。でも半端な魔法だとあの薬中熊はそれを無視してこちらへ突っ込んでくる可能性がある。


一撃で確実にあの巨体を仕留めるほどの魔法がいる。

熊の分厚そうな毛皮を破れるよう威力を一点に集約させるイメージ。ならばやはりあの形しかない。


螺旋状の刃を巻きつけた土の槍を生成し回転させる。MPを注げるだけ注いで回転数を上げて地を滑るようにしてカエルみたく潰れた薬中熊の脇腹を削り貫く。槍は体を貫通してほぼ致命傷って感じだが、光の粒にならないってことはまだやつは死んでいない。

ならば念押しだと刺さって未だに回転を続けている槍の矛先から細い棘を生やして内側から磨り潰す。そこまでして薬中熊はようやく息絶えのであった。




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