第3層 対決編
第43話 集う者共
あの生放送の後……もう一週間以上が過ぎた。この間高校の夏休みも終わり登校が再開されて例年までならテンションが下がりまくってたとこだが、今はどうでもいい。
「あははー! 今日も盛況盛況!」
ホーム内を映す管理用の仮想スクリーンを見ながら景気良く笑い声を上げる。
この前の不意に流したあの生放送。インパクトある内容で人を釣っておまけに広告費貰えないかなーとか。そんな安直な作戦だったがまさかこんなに上手く行くとはな。
「正直もう少し知名度が上がれば程度に思っていたんだけど……これはやっぱりメルシアがしたあれのお陰か」
俺が生放送で実質全プレイヤーに宣戦布告をしたその日のことだ。あろうことかその宣戦布告の筆頭に居ると言っても過言ではない人物から、同じく生放送で返事が返ってきたのだ。
『随分と粋なことしてくれたじゃないか。なら俺もその勝負この前のリベンジとしてしっかり受けて立つ! 宣言通りにあの趣味の悪い穴蔵の奥で震えて待ってやがれ!!』
こんな感じで。俺のあの放送が広まったのもほぼこれに引きつられてバズったようなもんだ。じゃあなかったら映像を上げたその日に一気に収益化なんて絶対に出来なかっただろう。
なお未成年だと収益化出来なのでアカウント名義などは母さんのを一応許可を取って借りている。なんかそれ母さんに頼んだ時に微笑ましく見守る的な視線を感じたが、何か都合のいい勘違いしてるようだったので特に言及はしなかった。お陰でどうにか今回の月額更新は支払い期限ぎりぎりだけど乗り切れそうだし多分言うだけ損にしかならない。
本来今回のは布石程度のつもりで今月の月額は私物でもかき集めて売っ払う覚悟をしたんだけど……そうはならなくてほっとしたってのが実情だ。
……それにしてもまさか、自分が一度負けたことを自ら公にするとは思わなかった。普通あんな騙し討ち本人からしたら不本意な負け方だったろうに潔いというかなんというか。
「ああいうやつだからなんだかんだファンに慕われてるのかね。俺には理解出来なけど」
やれあいつが格好いいだの可愛いだのってそりゃ思いはするがそれが行動の基準や理由になるかと言われればな。俺が『魔王』に憧れたのだって蓋を開けてみれば究極的には自分が気持ちよくなりたりからというのが本質だったわけだし。
「そんなことより、6階層の新戦力は本当に良い働きをしてるな」
5階層の扉が初開放される直前ぐらいに完成した新しいキメラ、その名も
他の同種とくっついている時にだけダメージを伝播させられる能力を持つ。だがこれは別にスキルではない。
このキメラ、ラインラビットは同種と接触してる間は比喩ではなく体が一体となる。そうなると当然システム上ではHPは統合されるだけでなく、当たり判定も統合される。だから結果的にダメージが分散されるのだ。要はただのシステムの都合なのであってスキルではない。
しかもベースに使ったモンスターは特攻させまくったら出る進化先にある自爆兎と言うやつで受けたダメージを爆発ダメージに変換して自爆するスキル『自爆』を持つ。最終的に耐えきれなくなったら一体にダメージを押し付けて手榴弾よろしく投げて反撃までする。
これらの情報漏洩は『映身』で鑑定とかを防いでいるので、まだ大半の連中には結果は分かってても分散のカラクリは分からない状態にある。これが分かれば何かで割合ダメージを準備するなり、やりようはいくらでもいるからな。当分は隠しておかねばならない。
ちなみにこれも例の糸とウイルスもどきを検証した成果だ。まさかまだあんな隠し効果があったとはな。本当、あの蜘蛛糸はどこまでも夢のある素材だ。
ただキメラの『繁殖』が親の寿命の平均から子の寿命を叩き出す仕組みでどう足掻いても最後にはバタバタと集団死する運命なのがこの間判明した。まぁ『繁殖』で寿命が回復したらチートもいいとこだし仕方ないか。
あと別の仕様で『繁殖』で生み出したキメラもキメラには変わりないからか俺の命令権もそのままに生まれるみたいでこっちの仕様には大変助かっている
だから材料をキメラから調達する都合上、そいつらの寿命が一斉に尽きると作り直す必要があるのは手間だが……それ以上のメリットはあるのでそこは頑張るしかない。
「にしても遅いな。あんなに啖呵を切ってたものだから即日でも来るもんかと思っていたんだが」
それにしても『Seeker's』ご一行が中々来ない。もしかして会社内で揉めているのだろうか。あの生放送返しとかメルシアの独断専行感半端なかったからな。
勝手なことするなと他のメンバーや各関係者に今頃説教を食らってのかもしれない。
「ま、何にしろそれなら好都合だ。前以上に準備万端にしながら、今回はのんびりと待たせておらうか」
「きゅう」
「ああ、こっから本格的に始まるぞファスト。卑怯も暴力もなんでもござれの俺と全プレイヤーとの真剣勝負がな」
我がホーム兼ダンジョンの暗闇の中で寛ぎながら俺は薄っすらとほくそ笑んだ。いずれか来る決戦の日を思い浮かべながら。
◇ ◆ ◇
一方その頃。場所は『
地下深くにいるダンジョンの主の預かり知らぬところで他のプレイヤーたちもそれぞれの思惑を巡らせていた。
―― 攻略に来た一般プレイヤーたち。
「撃て撃て! こんな軟な壁なんぞ押し潰してしまえ!」
「おおおう死にさらせ! クソうさぎ共がァ!」
「ぎゃああぁ~!?」「ぐっ、ひとりうさぎカウンターにやれたぞ!」
「は、はやく体勢を立て直せ!」
「こらァ出てこいやこのクソPK野郎! 今度こそ私の魔法でその顔ぶっ飛ばしてやるぅぅぅ!!」
勇敢に進む者。
「ふふん、脳筋はこれだから」
「だな、俺はあいつらが壁を弱らせてから美味しいどこだけ……」
知恵を絞る者。
「きゅ」
「「え?」」
そしてそれを狩るモノ。
悲鳴と怒号が渦巻く6階層の様相は正しく戦場。
5つの証を嵌めると開く(と思われている)扉を越えるとまず階段があり、その階段を降りきると変わらず地下であるものの広大なワンフロアの場所にでる。
ただそのワンフロアは中心に向かっての上り坂になっており、上り坂の頂上には如何にもな砦が陣取っている。
その砦に征く道にあのラインラビットたちが何重にも展開して道を塞ぎ……まだそこを誰も通れていないのが現状だ。
―― クラン『
そのクランホームにいくつかある鍛錬場が一角。
「まさか俺ら3rdステージで探索してる間にここがこんなに騒ぎのなるとは夢にも思わなかったっすね」
「そうだな」
「にしてもこんなバカ騒ぎに乗るなんてクラマスらしくないっすね。普段ならそんなことより鍛錬だって言うのに」
「なに対してことではない。今回の話を聞いて少し気になることが出来てな」
「気になること、というと?」
「そうだな……いや、単なる気のせいかも知れないから今はやめておこう」
「えー余計に気なるっすよ、それ」
―― クラン『Seeker's』
そのクランホームの会議場の一室。
「まったくあんたもう、本当にもう!」
「かぁー分かった分かった。今回は俺が悪かったって何度も謝ってるだろ。ここまで来て文句ばかり言うなよ」
「あんたの態度にその反省が見られないからでしょうが!」
「もうやめてあげなよキラっち。起きたことはしょうがないんだから、ね」
「うん……眉間にしわ、良くない」
「あなた達はあなた達でこいつに甘いんだから……はぁ、もう分かったわよ」
「お、マジか! よーしメキラの許しも得たところでいざ行かん兎ダン……ではなく『
「だから……あんたじっとは反省しなさいーッ!!」
―― ???
何も荒野の一角、そこには外部アクセスで1つの動画を再生するひとりのプレイヤーがいた。近頃のアバター造形では珍しく屈強で凸凹な体付き、スキンヘッドに無精髭を生やしたひと目で厳ついおっさんと断定される見た目をしている。
「へー、まだこんな面白いことしてるやついたんだ。それにこのダンジョンは……ふふふ」
そばに置いてあった精緻な装飾の施された大剣を持ち上げて腰を浮かす。だがそれを見計らったかのように遠くからモンスターの群れの影がその姿を現す。そのモンスター1体1体が大柄な男を優に越えると体躯を持ち、暴力的なまでの威圧をたれ流しいた。
だが男はそれを事も無げに眺めて少しうんざりした顔をするだけで何も変わらない。
「ん、また来たのか。3rdステージ以降って本当にモンスターが引っ切り無し湧くな、もう」
そう、まだトップの2クランしか到達していないはずの3rdステージにいる彼はぶつくさ言ったかと思えば徐ろに大剣を構え――。
「消えてろ」
―― 一閃。
ただそれだけで幾重もの魔法の光が瞬き、瞬時に広がって手当り次第にモンスターたちを消滅に追い込む。それも3rdステージの、普通のランク★2のプレイヤー程度なら一瞬で蹴散らす強さのモンスターの群れを、だ。
あまりにも常識とはかけ離れた光景だというのに男はそれが当然だと言わんばかり頷き、ここに来た時とは逆の方向に歩き出す。
「行ってみるか。この『
こうして役者は揃いだす。それぞれの思惑を抱き、ただの一点へと吸い込まれるように……。
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